
群馬県に本社を置くカネイシホールディングス株式会社。同社を牽引する代表取締役社長の小暮紀彰氏は、倉庫作業や営業などあらゆる業務を経験しトップへ上り詰めた。社長就任後は属人的な組織を「適所適材」の考えで改革し、評価制度の見直しや労働環境の抜本的改善を行った。独自のPB(プライベートブランド)商品や法人向け仕入専門サイト「卸売ドットコム」を武器に、グループ売上高100億円という目標を掲げる。変わり続けることを恐れず、次世代へよい状態の会社を引き継ぐために奔走する小暮氏に、変革の軌跡と経営信念をうかがった。
「楽しそう」が原点 本気の叱責が育んだ「自責」の念
ーーまずは、貴社に入社されるまでの経緯から教えていただけますか。
小暮紀彰:
学生時代は地理が好きで、国土地理院で働きたいと考えていた時期もありました。大学は東京に進学し、当時好きだったアウトドアやスキーのショップでアルバイトをしていました。そのままその会社に社員登用される予定だったのですが、家庭の事情で急遽群馬に戻ることになったのです。地元で就職活動をする中で、金石衛材株式会社(現・カネイシホールディングス株式会社)に出会いました。
入社の決め手は、直感です。仕事は毎日のことですから、「面白そうだな」「自分なら楽しくできそうだな」と思えることが大事だと考えました。自分のしたいことを仕事にするなら、楽しくないと続かないですよね。「ここなら楽しめそうだ」というあのときのひらめきこそが、私のキャリアの原点になっています。
ーー入社後はどのような経験を積まれたのでしょうか。
小暮紀彰:
入社後は、会社のほぼすべての業務を経験しました。最初は倉庫に入り、荷受けからピッキング、梱包、出荷までを担当。その後は事務部門に移って伝票処理や発注業務をこなし、やがて営業として外に出ることになりました。営業時代に一番印象に残っているのは、ある取引先の部長さんに本気で怒られた出来事です。理不尽な怒りではなく、しっかりと筋が通ったお叱りでした。
当時の私は、自分に都合の悪いことは他人のせいにするなど、仕事に対して少し中途半端な向き合い方をしていたように思います。しかし、その経験を経て、「自分の行動には、自らが責任を持つ」という「自責」の念を強く抱くようになりました。それからは、「自分がこの会社の社長だ」というつもりで責任を持って仕事に向き合っていました。端から見ると「めちゃめちゃマメだ」「納得するまで仕事をしている」と言われていたそうです。負けず嫌いな性格もあり、他社が帰った後こそバイヤーや取引先の社長を独り占めできるチャンスだと考え、最後まで残って商談をしていましたね。
属人的な組織からの脱却「適所適材」と「環境」への投資

ーー代表取締役社長に就任されてからどのようなことに力を入れられたのですか。
小暮紀彰:
私が就任した当時は社内のルールが曖昧で、「どの事案を誰に確認すべきか」が不明確で、良くも悪くも属人的な組織でした。その結果、あらゆる判断が社長に集中してしまう状態だったのです。そこで私は、組織として当たり前のルールを明確にすることから改革を始めました。
たとえば、期限を「今週中にお願い」といった曖昧な表現ではなく、「何月何日の何時まで」と共通のルールで設定するようにしました。さらに、業務フローを可視化して情報共有を徹底することで、無駄な確認作業を削減しました。ルールが明確になれば、社員は自分の本来の業務やスキルアップに集中できるようになり、自律的に動ける組織へと変わっていきます。
ーー評価制度も大きく変えられたのでしょうか。
小暮紀彰:
以前は評価の基準が曖昧で、上司のさじ加減で結果が変わってしまうという課題がありました。そこで、よりフェアで納得感のある評価をするために、評価項目の割合を、「定量7:定性3」という比率へ見直しました。数字に表れる結果(定量)を軸にしつつ、そこに至るプロセスや日々の業務に向き合う姿勢といった定性的な部分も適切に評価することで、社員自身も「何を頑張れば評価されるのか」が明確になります。四半期ごとに評価を行い、頑張って結果を出せば給与が上がり、出せなければ下がるという透明性の高い仕組みを構築しました。
また、弊社では「適材適所」ではなく「適所適材」という考え方を採用しています。まず組織としての「型(ポジション)」をつくり、その役割に対して必要な評価項目を明確にした上で、そこに適した人材を配置するような仕組みです。これにより、組織全体のパフォーマンスを最大化できるようにしました。
ーー社員が働く環境づくりについて取り組まれていることはありますか。
小暮紀彰:
経営において最も大事なのは「人」と、人が働く「環境」だと考えています。社長である私が一番目立って活躍してはいけません。従業員が活躍し、成長しなければ会社の成長はないからです。環境づくりへの大きな投資として、2026年2月に群馬の物流センターを新築移転しました。物流は、お客様へ商品を届ける最後の要です。
以前の倉庫は古く、夏は非常に暑い過酷な環境でした。働く場が綺麗になり、空調の効いた快適な環境になれば、熱中症などのリスクから社員の健康と安全を守ることができますし、何より、社員のモチベーションが上がり生産性の向上にもつながると考えています。社員を大切にし、長く安心して働ける環境を整えることこそが、私の最大の役割だと考えています。
PB商品と「卸売ドットコム」で攻める目指すはグループ売上高100億円
ーー貴社の事業内容における強みや注力されている取り組みを教えてください。
小暮紀彰:
卸売業としての歴史が育んだ信頼と、メーカーとしての感性。弊社はこの両輪で事業を展開しています。近年は自社企画のPB商品を中心としたメーカー事業にも注力し、全体の売上高における構成比を高めてきました。
PB商品の開発コンセプトは、世の中の「不満」や「不快」、そして「不安」を解消することです。たとえば、夏の暑さ対策グッズなどは、法律による熱中症対策の義務化が始まる前から企画・販売を進めていました。卸売業としての幅広いネットワークと、メーカーとしての深掘りした商品開発力。この両方を持っていることが弊社の強みです。また、「卸売ドットコム」という法人向けの卸売サイトも運営しています。これは一般の消費者は購入できない企業向けのクローズドなサイトですが、こうした独自のプラットフォームとPB商品をかけ合わせることで、さらなる成長を目指しています。
ーー今後の展望についてお話いただけますか。
小暮紀彰:
長期的な目標として、グループ総額で売上高100億円の達成を掲げています。そのためには、既存事業の成長に加えて、M&Aという選択肢も視野に入れています。独自の技術力やブランド力を持つ地方の素晴らしい企業様と一緒になり、グループ全体のシナジーを生み出していく方針です。
目標を達成するためには、今までと同じやり方では通用しません。「変わり続けることを変えない」姿勢が不可欠と言えます。私の経営者としてのゴールは、この会社をさらによい状態にして、次の世代へ、次の社長へバトンタッチすることです。そのために、これからも社員一人ひとりが成長し、自律的に動ける強い組織をつくり上げていきます。
編集後記
「社長が一番目立ってはいけない」。小暮氏のこの言葉に、同社の強さの秘密が凝縮されていると感じた。属人的な組織から脱却し、ルールと評価の明確化によって「適所適材」を実現した手腕は見事だ。同時に、莫大な投資をしてまで物流センターという「働く環境」を劇的に改善し、「人」を大切にする決断からは、社員への深い愛情が伝わってくる。卸売業の枠を超え、独自のPB商品開発やM&Aを駆使して変わり続けるカネイシホールディングス株式会社。売上高100億円企業への道のりを、盤石な組織力で力強く歩んでいくことだろう。

小暮紀彰/1977年群馬県生まれ、東京国際大学卒業。2002年カネイシホールディングス株式会社へ入社し、倉庫・事務・経理・営業・仕入業務の修業期間を経て、2012年に執行役員、2018年に取締役、2020年に代表取締役社長に就任。2025年にカネイシホールディングス株式会社代表取締役社長に就任。
■グループ会社はこちら
・カネイシ株式会社(卸売事業)
・株式会社iiもの本舗(製造・輸入事業)
・魔法のタイツ株式会社(製造・小売事業)
・カネイシ物流株式会社(物流事業)