
広島で生まれ育ち、理系の大学を卒業後は工業薬品の専門商社で営業のキャリアをスタートさせた田口哲士氏。その後、家業である西部運輸グループの「西部産業株式会社(旧関東西部運輸株式会社)」に入社し、わずか1年で赤字経営から黒字化へと導き、事業の成長を牽引した。現在はグループ各社にそれぞれ社長を配置し、自らは全体を統括する立場で組織変革を進めている。大手企業から厚い信頼を得る夜間の「特積み幹線輸送」という強みや、先代から脈々と受け継いできた「義理人情」の経営哲学。そして、グループ売上高500億円を目指す今後の展望について話を聞いた。
家業への合流と赤字からの立て直し
ーーまずは、貴社に入社した経緯と当時の状況について教えていただけますか。
田口哲士:
結論から申し上げますと、当初は全く組織の体をなしておらず、業績改善が急務という厳しい状況でした。私は土木学科出身でしたが「営業がしたい」という強い思いがあり、大学卒業後は東京の工業薬品の専門商社に就職しました。そこで3年ほど営業や配送手配などの経験を積み、その後、1996年に家業の関東西部運輸に入社します。
先代である父親から「関東にあるから行け」と言われて向かった先は、千葉県の野田市でした。想像していた都会の風景とは異なり、少し驚いたことを覚えています。当時の関東西部運輸は、約50台のトラックを保有していました。しかし、内勤は私を含めて4〜5人のみです。ルールも曖昧で、業績は赤字。この状況を打破し、プロの組織へと変えて業績を改善することが、私の最初のミッションでした。
ーーそこからどのように組織を立て直されたのでしょうか。
田口哲士:
周囲の熱量に助けられながら皆で一丸となり、入社から1年で黒字化を達成しました。当時は募集をかければ人が集まる時代であり、「とにかく稼ぎたい」という意欲的な乗務員が多く在籍していました。また、荷物を獲得できる優秀な配車担当者がいたことも大きな要因でした。結果として業績は回復し、その後、4つの支店を展開するまでに成長。しかし、急成長の裏では労働環境の整備が追いついていませんでした。
これを転機として、グループ全体で長距離運行の見直しや運行回数の適正化を進め、安全管理の徹底へと大きく舵を切ったのです。売上高を維持しつつ、環境を改善するプロセスには多くの試行錯誤が必要でした。あのとき本気で労務管理を整えたことが、「2024年問題」にいち早く対応できた要因だと考えています。
高度なノウハウを要する「特積み幹線輸送」と徹底した教育体制

ーー貴社の強みはどのような点にありますか。
田口哲士:
最大の強みは、「特別積合せ(特積み)」の長距離幹線輸送です。大手運送会社を主要顧客とし、夜間の長距離輸送と「手積み・手下ろし」を行う点に特徴があります。多種多様な形状の荷物を、トラックの荷台へ隙間なく積む作業には高度な技術が必要です。未経験者がいきなりできる仕事ではありません。私たちは創業期からこの業務を続けています。
先輩社員が1ヶ月ほど同乗し、技術を徹底的に教え込む教育体制を整えてきました。この実績があるからこそ、顧客企業から厚い信頼をいただいています。また、全国にグループの拠点があることも強みですね。万が一の車両トラブルのときにも、すぐに応援に駆けつけることができます。
ーー経営において、大切にされている社風や価値観を教えてください。
田口哲士:
先代から受け継いでいる「義理人情に厚いこと」が私たちの価値観の根幹です。この価値観を体現するため、私自身が毎月各拠点を回り、現場の声を直接聞いています。グループ各社に社長を配置していますが、人と人とのつながりや率直なコミュニケーションを何より大切にしているのです。
また、社員の生活を守るために「定期便化」を推進してきました。長距離輸送は行き先や時間が不規則になりがちです。そこで、平日に決まった拠点間を往復するルートを多く確保しました。これにより乗務員の給与が安定し、生活のリズムもつくりやすくなります。厳しい安全ルールを徹底する過程で、組織を離れる人もいましたが、長く働いてくれる社員には、安定した生活基盤を提供できていると自負しています。
グループ売上高500億円へ 次世代とともに描く未来
ーー今後の展望や、注力している新規事業についてお聞かせください。
田口哲士:
グループ全体で、売上高500億円の達成を目指しています。現在の売上高は400億円台で、数年以内には必ず達成したいと考えています。その目標を達成するためには、本部機能の強化と営業力の底上げが不可欠です。既存の大手顧客との関係を強固にしつつ、メーカーとの直接取引など新たな販路を開拓していきます。時代に合わせて、特に20代という若い世代の価値観も考慮して、柔軟に「新しい仕事」を創出していく方針です。将来的な人材確保にもつながると考えています。
ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします。
田口哲士:
仕事の面白さは、人から与えられるものではなく、自分自身で見つけるものだということです。私たちの事業は、単にトラックで物を運ぶだけではありません。たとえば、電話で荷物とトラックをつなぐ「取り次ぎ業務」があります。これはコミュニケーション能力が重要であり、実力次第で売上高を伸ばせる面白さがあるのです。
実際、この分野では多様な人材が活躍し、新しい役割も生まれています。今後、技術がどれだけ進化しても、物流業界の根底にある「人との付き合い」は変わりません。義理人情を大切にし、人と関わることが好きな方。そして、自ら仕事の面白さを見つける意欲のある方に、ぜひ私たちの仲間に加わっていただきたいですね。
編集後記
西部運輸の成長を支えるのは、「特積み」という独自の強みと、先代から受け継がれた義理人情の精神だ。田口氏の社員を思いやる姿勢と、次世代を見据えた柔軟な発想が組織のさらなる飛躍を後押ししている。グループ売上高500億円という目標に向け、同社の飽くなき挑戦はこれからも続く。

田口哲士/1968年、広島県生まれ。国士舘大学卒業後、工業薬品の専門商社へ入社し営業職を経験。家業継承のため、1996年西部運輸グループである西部産業株式会社(旧 関東西部運輸株式会社)へ入社。2015年、同グループの本部である西部運輸株式会社代表取締役社長に就任し、同グループ各社の代表取締役社長を兼任。2020年、同グループ会長に就任。2025年、西部運輸株式会社および同グループ法人の代表取締役会長に就任。