※本ページ内の情報は2026年6月時点のものです。

高い芸術性と品質で、フラワーデザイン業界を牽引する株式会社ベル・フルール。同社は単なる花屋ではない。フラワーデザインの領域で「エルメス」のような世界的ハイブランドを確立するという、壮大なビジョンを掲げるフラワーデザインカンパニーだ。代表取締役社長の今野亮平氏は、AIが台頭する時代だからこそ、人の手によるものづくりの価値が高まると語る。東京出身の同氏は、地方に眠る「宝物」にいち早く光を当て、地域住民が気づかなかった地元の魅力を、外部の視点から言語化し、地方創生へと昇華させている。今回は、挑戦の土台にある独自の経営信念と、未来を担う若者への熱い思いに迫った。

予期せぬ事故とフラワーデザイナーとしての出発点

ーーどのような経緯でデザインの道を志されたのでしょうか。

今野亮平:
学生時代はサッカー一筋でしたが、留学先のアメリカで「将来はデザインの道に進もう」と決意しました。しかし、その矢先に不慮の事故が起きたのです。スノーボードの着地に失敗して背骨を折り、医師からは下半身不随の可能性があると告げられました。

一年に及ぶ入院生活は絶望の淵でしたが、同時に「自分に何ができるか」を深く見つめ直す時間となりました。動かない体で内なる創造性と向き合う中、身体能力ではなく、感性で勝負する「表現者」として生きる決意を固めたのです。

幸いにも母がフラワースクールを運営しており、身近にお花という素材がありました。リハビリを兼ねて触れ始めたのがすべての始まりです。最初はビジネスにするつもりなどありませんでしたが、自己を表現する奥深さに、いつの間にかのめり込んでいきました。

AI時代に問う手仕事の価値と名張で描く地域活性化の未来

ーー貴社が最も大切にされている価値観についてお聞かせください。

今野亮平:
AIにできる仕事が増える中で、私たちが追求しているのは「人でしか作れない価値」です。お花は、作り手が魂を込めたかどうかが一瞬で伝わるプロダクトです。なんとなく作られたものか、心を込めたものか、私は見た瞬間に判別できます。

だからこそ「作り手の魂が作品に宿る」という考えを、スタッフ全員に徹底しています。この意識が組織に浸透し、チーム全体で高いクオリティを追求できること。それこそが、弊社ならではの強みなのです。お客様に本物の価値を届けるためには、組織全体で同じ熱量を持ち続けることが欠かせません。

ーー同業他社と比べて、貴社はどのような特徴があるとお考えですか。

今野亮平:
「人の手による価値」を最大化するために、三重県名張市という「地域」と一体になった事業展開を行っている点です。私は東京出身ですが、外部の人間だからこそ、名張という土地が持つ真面目な県民性や豊かな自然といった「宝物」に気づくことができました。「灯台下暗し」という言葉があるように、地元の方々にとっては当たり前の価値を、私たちが再発見し、磨き上げているのです。弊社が展開するアートフラワーブランド「エミリオ・ロバ」も、この名張のアトリエで制作しており、ここから世界レベルの「名張クオリティ」を発信しています。

また、地域への還元として「名張EXPO」というイベントも主催しています。現在は2日間で3000名が来場する規模となり、名張市長もお越しくださいました。地元の高校生と共にイベントをつくり上げたり、来年度からは新卒採用を行ったりと、「人材の地産地消」を通じて、地域と共に成長していくモデルを築いている点も、弊社ならではの特徴だと思います。

反対こそ成長の糧 回り道を楽しむ独自の経営信念

ーー経営判断を下す上で、大切にされている軸はありますか。

今野亮平:
私たちの根本にあるのは、フラワーデザインの領域で「エルメス」のような世界的ハイブランドを確立し、日本独自の美意識を世界に発信するという強い思いです。単にお花を売るのではなく、そこに宿るストーリーや芸術性を含めたブランド価値を届けることが、私たちの事業の軸です。

もう一つは、自分の選択を信じ抜くことです。たとえ周囲から「遠回りだ」と言われても、自分で選んだ道に無駄な時間はありません。実際、コロナ禍の2020年には大きな赤字を覚悟で新規投資を行いました。周囲には反対されましたが、その挑戦があったからこそ今の独自性があります。多くの人に反対される時ほど、新しい価値を生み出し、成長している証だと捉えています。

ーー組織を運営する上で、特に意識されていることはありますか。

今野亮平:
私は「継続は衰退の始まり」だと考えています。安定は心地よいものですが、同じことを繰り返しているだけでは必ず停滞が始まります。だからこそ、私は意図的に「解体と再生」を繰り返すようにしています。あえて店舗のメンバーを入れ替えたり、新しい刺激となる人材を投入したりすることで、組織に良い意味での緊張感を生み出しています。また、各部門が独立して採算を管理する「アメーバ経営」を導入し、一人ひとりが経営者視点を持てる環境を整えています。

ーー最後に読者へのメッセージをお願いします。

今野亮平:
自分だけの成功の形を見つけてほしいです。一見、矛盾しているように見えることや、非効率に思える道筋の中にこそ、独自の価値が眠っていることがあります。周りの意見に流されず、自分が心からやりたいと信じる道を選択し続けてください。その先に、あなただけの成功が待っているはずです。

編集後記

「世界的ブランドの確立」と「名張の再発見」。一見、距離がある二つの目標が、今野氏の中では確かな熱量で結びついている。それは単なる事業拡大ではなく、足元の価値を信じ抜き、人の手で魂を込めるという、極めて純粋な挑戦だ。既存の枠組みを壊し、新たな美意識を世に問う姿勢に、これからの時代を生き抜くための真髄を見た。地元の若者と共に描く、この壮大な挑戦の行方を、今後も注視していきたい。

今野亮平/1977年東京都生まれ。母親が1981年に立ち上げたベル・フルールの前身「Belles Fleurs de Konno」を、2003年に法人化。2006年には「日本フラワーデザイン大賞」で1位を獲得。2018年よりベル・フルール代表取締役社長を務め、フラワーアレンジメントの制作・販売からスクール運営まで、花にまつわる幅広いニーズに応えるフラワーデザインカンパニーとして事業を展開している。