
1985年の創業以来、「創造力で世界の人を豊かにする」という経営理念のもと、グローバルに空間デザイン事業を展開する株式会社GARDE。同社は高級ブランドの店舗から大型商業施設、ホテルに至るまで、機能性にとどまらない情緒的経営価値の提供を手掛ける。また世界11都市に拠点を構え、情報吸引力を武器に海外市場を開拓してきたが、近年では労働環境を見直すウェルビーイング経営の導入など、組織改革も推進している。同社の代表取締役社長、室賢治氏にこれからの時代に求められるデザインの力と、世界で勝ち抜くための経営戦略について聞いた。
百貨店での開発経験と香港駐在で培った「営業力」の原点
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。
室賢治:
もともとは百貨店で働いていました。そこでは設計部で開発を担当しており、大きな資金を動かす部署でしたが、ショッピングセンターやホテルの設計も手掛けてみたいとの思いが強くなり、一度独立したのです。その後、ご縁があってGARDEの創業者から声をかけていただき、それがきっかけで入社しました。
ーー入社後はどのような業務を担当されたのでしょうか。
室賢治:
香港の拠点へ赴任し、ホテルなど約30のプロジェクトに携わっていました。アジア太平洋地域の中心である香港を拠点に事業を広げていく戦略のもと、現地化を進めながら成果を上げていったのです。ゼロから市場を開拓し、営業主体でどのように動くべきかを学べた充実した期間でしたね。
私はもともとデザイナーであり、営業の経験はなかったため不安もありました。しかし、デザインを手掛ける人間がお客様と直接近い距離で対話することは、大きな武器になります。結果として、決裁権を持つ経営トップの方々と短時間で信頼関係を築く手段を身につけることができ、その経験が現在の経営にも直結しています。百貨店時代に数多くの企業と条件交渉やデザイン調整を行った経験も含め、過去のキャリアのすべてが今の基盤となっているのです。
空間デザインが果たす役割「情緒的経営価値」で人の心を動かす
ーー貴社の事業内容と大切にしている理念について教えていただけますか。
室賢治:
弊社は、人の心を動かす「情緒的経営価値」の提供を大切にしており、「創造力で世界の人を豊かにする」という経営理念のもと、事業を展開してきました。1985年の創業以来、国内外で高級ブランドの店舗や大型商業施設、ホテルの空間デザインなどを手掛けています。
創業当初、海外ラグジュアリーブランドが日本に進出し始めたことに好機を見出しました。海外本社とのつながりが不可欠な領域において、早期からヨーロッパに拠点を置くなど、世界的な展開を推進してきたのです。かつて商業空間は機能や売上高の効率が重視されていました。しかし現在は、それだけでお客様に選ばれることはありません。だからこそ、心を動かす情緒的な価値が求められているのです。
ーー「情緒的経営価値」とは、具体的にどのようなものでしょうか。
室賢治:
自身の価値観と共感でき、特別な体験を得られる価値のことです。たとえばホテルを選ぶ際、お客様は写真を見て「ここに泊まってみたい」と直感的に心が動くかどうかで判断します。機能や広さだけが基準ではありません。
私たちが手掛けた銀座のホテルを例に挙げると、ここでは、銀座の路地にある名店のように、カウンター越しに対面で会話を楽しむ「大人の間合い」という文化的な情緒を空間に落とし込みました。多種多様な価値観を受け入れてきた地域の歴史を、デザインとして表現したのです。お客様の期待を超え、共感を生む空間づくりこそが、私たちの提供する価値となります。
世界で勝つためのカギは「情報吸引力」とトップアプローチ

ーー海外市場で勝ち抜くための戦略についてお聞かせいただけますか。
室賢治:
私たちが最も重要視しているのは、社員一人ひとりが発揮する「情報吸引力」です。これは単に情報を待つのではなく、営業担当者がお客様や業界団体と深く関わり、自ら価値ある情報を届けることで、信頼の連鎖を生み出す力を指します。
たとえば東南アジアでの市場開拓では、現地のショッピングセンター協会などに深く参画し、現地の課題を汲み取った講演会を企画することもあります。しかし、これはあくまで手法の一つに過ぎません。本質は、各担当者が多層的なレイヤーでお客様と向き合い、次なる案件の兆しを早期に掴み取ることです。いただいた情報を即座に提案へと昇華させ、お客様から「あなたにお願いしたい」と指名される関係を築く。この社員主体の能動的な動きこそが、当社のグローバル戦略の軸となっています。
労働環境を抜本的に改善 「ウェルビーイング経営」の導入
ーー組織運営についてはどのような施策をとられていますか。
室賢治:
数年前から、労働環境の改善を目的とした「ウェルビーイング経営」を推進しています。内装・設計業界全体として、かつては長時間労働や休日出勤が常態化しており、それが構造的な課題となっていました。弊社においても、中核社員の離職という危機感から、この慣習を断ち切る決断をしたのです。
具体的には給与水準の引き上げや福利厚生の拡充を行い、社員が心身ともに健やかに、やりがいを持って働ける環境を整えました。企業の持続可能性を支えるのは、他ならぬ「人」です。会社が率先して変わることで、結果として採用や社員の定着にもポジティブな影響が生まれています。
世界で活躍できる環境で自分の「ファン」をつくる働き方
ーー最後に、今後の事業展開と若手世代へのメッセージをお聞かせいただけますか。
室賢治:
私は常に「自分の人生は3年、5年というスパンで考えている」という意識を持っています。会社の中期経営計画はもちろん、個人の目標も区切りを持って見据えています。その限られた時間の中で、お客様といかに近い関係を構築し、信頼を得るかが重要です。
これから入社する若手社員には、世界的な企業を相手にする仕事にやりがいを感じてほしいと考えています。求められる以上のものを提供し、困ったときに一番に声をかけられるような自分の「ファン」をつくってほしい。弊社は若手でも大きな計画に関わり、着実に成長できる環境があります。今後も既存事業を強固にしつつ、芸術分野や仮想空間といった新規事業にも投資し、次なる段階へと進んでいきます。
編集後記
空間の美しさや機能性にとどまらず、その場所で生まれる体験や共感をデザインする同社の姿勢に感銘を受けた。時代が求める本質的な豊かさを追求しつつ、従業員がいきいきと働ける環境を整えることが、結果として世界的なシェア拡大につながっている。若手にも大きな裁量を与え、挑戦を後押しする同社から今後どのような革新的な空間が誕生するのか、期待がふくらむ。

室賢治/2015年に株式会社GARDEに入社。2016年から香港駐在を経験。2022年1月に現職に就任し、ラグジュアリーブランドの店舗や国内外のホテル、オフィス、大型商業施設の全館デザインを手掛けるBtoBカンパニーとして、同社の成長をけん引。