
長年、住友生命保険相互会社において保険金支払いやコンプライアンスなど「厳しい判断」を伴う業務に向き合ってきた泉裕章氏。2025年、その関連会社である株式会社シーエスエスの代表取締役社長に就任した同氏を驚かせたのは、会社の規模を遥かに超える共創パートナーの「質と量」だった。親会社からの売上げに依存せず、売上高の約9割を独自に開拓してきた同社の強みとは何か。経営者と教育者、二つの顔を持つ泉氏が語る、AI時代に欠かせない「人へのリスペクト」と、次世代を見据えた決済ビジネスの展望に迫る。
厳しい現場で培った本質を見極める力
ーーまずは、これまでのご経歴について教えていただけますか。
泉裕章:
キャリアの始まりは大学卒業後に入社した、住友生命保険相互会社です。シーエスエスの社長に就任するまでその一社でキャリアを積み、保険会社において最も重要な業務の一つである「保険金をお支払いするかどうか」を判断する支払い部門に約15年間携わりました。何千万、何億円の大きなお金が動くという緊迫した場面も多く、責任の重い仕事です。その後もコンプライアンスやクレーム対応部門の責任者を歴任してきました。
ーー支払い部門やコンプライアンス部門での経験は現在の経営にどのように影響していますか。
泉裕章:
地に足をつけて物事の本質を見極める力として、大いに活かされています。保険金の支払いにせよコンプライアンスにせよ、共通しているのは「判断に対する根拠が不可欠である」ということです。なぜそう判断したのか、明確な根拠を常に考える癖がつきました。この思考のプロセスが、経営における意思決定の土台となっています。
就任時に驚いた想像を超えるアライアンスの「質と量」

ーー貴社の代表に就任された際、会社にどのような印象を受けましたか。
泉裕章:
第一に驚いたのは、外から見た印象と中身の実力の乖離です。コンパクトな組織の中に、事業の厚みが、ぎゅっと凝縮されていました。客観的な事実として「大手生命保険会社の子会社」という側面はありますが、その枠に収まらない可能性を秘めていたのです。特に大きな驚きを感じたのが、アライアンス(提携)の「質と量」の豊富さです。
弊社は、知名度のある外部企業様と次々に協力体制を築いており、これは外から見ているだけでは知り得ない強みだと思いました。大企業でなければ難しいと思われがちな取り組みを、会社の規模にかかわらず進行形で実現している。それこそが弊社の持つ力なのだと受け止めました。
ーー貴社の強みをお聞かせいただけますか。
泉裕章:
最大の強みは、安全性の高さとそれに伴う身軽さやスピード感です。中核事業は毎月の定期的な支払いに幅広く利用される「口座振替」を中心とした決済サービスであり、これはもはや日本社会における決済インフラのスタンダードと言えます。お金を扱う業務は厳しい規制を受けることが多いですが、弊社のビジネスは極めて安全性が高い仕組みを構築しています。さらに、生命保険会社の子会社という成り立ちから、システムの堅牢性や確実性、そして社員の誠実な対応が根付いており、これらがお客様からの厚い信頼につながっているのです。
ーー親会社グループのお客様が多いのでしょうか。
泉裕章:
実は現在の売上高の9割以上は、親会社グループ以外のお客様から得ているものです。もちろん親会社とのつながりもゼロではありませんが、それに頼り切ることはありません。自社の営業努力と質の高い共創パートナーとのアライアンスの成果として、独自の立ち位置を築き上げてきたという自負があります。
教育者の視点がもたらした「他者へのリスペクト」
ーー経営者として最も大切にされている信念をお聞かせください。
泉裕章:
「他者への深いリスペクト」です。実は私には教育者としての顔もあり、経営と教育の両方を経験したからこそ強く感じる部分です。ビジネスの世界では、会社の方針という一つの方向へ力を結集することが求められます。その際、異なる見解を持つ人の意見を大多数の方向に合わせようとする力が働きがちです。しかし、教育の現場ではAという考えの学生とBという考えの学生がいれば、その両方の考えを尊重します。一人ひとり考え方が違うのは当然であり、それはビジネスパーソンであっても本来変わらないはずなのです。
ーー社内教育ではどのようなことを実践されていますか。
泉裕章:
社長に就任して以来、「一人ひとりの社員が誇りと安心を持って働ける環境が、お客さまへの丁寧で誠実なサービスに直結する」、そして「一人ひとりへのリスペクト」を特に大切にしています。会社の方向性をまとめる必要は当然ありますが、異なる考えを頭ごなしに否定しません。まずはしっかりと受け止めた上で、議論をすることが不可欠だと考えています。
ーー今後AI化が進む中で、人にしかできない領域は何になっていくとお考えですか。
泉裕章:
相手の感情やその場の空気を読み取り、伝わるように表現を変える「真のリスペクト」こそが人にしかできない価値だと捉えています。AIの進化は目覚ましく、近い将来、社長という役割すらAIが担える時代がくるかもしれません。
だからこそ、弊社ではあえて「人財投資部」という新しい組織を立ち上げました。人への投資を明確にし、人財の重要性を社内に示すためです。AIにもある種の配慮はできるかもしれませんが、「伝えた」ことと、実際に相手に「伝わった」ことは違います。その機微を理解し、コミュニケーションをとることは人間にしかできません。
ーー最後に、3年後、5年後の会社の展望についてお話しいただけますか。
泉裕章:
複数の決済メニューを堂々と提案できる状態をつくり、知見を持つ様々な外部企業様と「共創パートナー」の体制を整えていきます。決済の分野はまさに日進月歩であり、1年先の予測すら難しい世界です。そのスピードに乗り遅れず持続可能性を保つには、アライアンスの質と量をさらに高めていく必要があります。
そして共創パートナーとのシナジーを通じて、当社単独では生み出せない新たな価値を創造する。現在のコアビジネスである口座振替と並び立つ、次の柱を育てることが今の私の使命です。変化を恐れず、芯の通ったリーダーたちとともに、この50年を超える新たな歴史を切り拓いていきます。
編集後記
長年「厳しい判断」を伴う業務の最前線に立ち続けてきた泉社長。その言葉からは物事の根拠を深く探求する真摯な姿勢がうかがえた。AIが台頭する現代において「他者へのリスペクト」という人間本来の配慮を最重要視して「人財投資部」を設立したという行動が特に印象的だ。親会社からの売上げに依存せず、独自の営業努力と強固なアライアンスによって事業を拡大し続ける株式会社シーエスエス。決済インフラという社会に不可欠な領域で泉社長がどのような「共創」の未来を描いていくのか次の一手も見逃せない。

泉裕章/1968年、大阪府生まれ。神戸大学法学部卒業後、1991年に住友生命保険相互会社に入社。コンプライアンス統括部門や顧客満足推進部門など多岐にわたる要職を歴任し、2025年に住友生命の100%子会社である株式会社シーエスエス代表取締役社長に就任。神戸大学大学院にて法学博士号を2度取得し、複数の大学で非常勤講師を務めるなど、経営の傍ら次世代育成にも積極的に取り組んでいる。