
大学卒業後、すぐに起業の道を選んだ株式会社Enjuの代表取締役、秋重知輝氏。幼少期の「ワクワクすることをやりたい」という思いから起業するも、最初の事業での試行錯誤を経て、「言語の壁」という明確な課題解決へ舵を切った。現在提供する多言語化ツールは、導入のしやすさと高い翻訳品質で評価を高めている。常に事業の「意義」を問い、困難には現実を直視して向き合う同氏に、これまでの軌跡と事業の強み、グローバル展開を見据えた未来への展望をうかがった。
ワクワクを求めた起業と挫折から生まれた新たな道
ーーまずは、起業に至った経緯について教えていただけますでしょうか。
秋重知輝:
2021年3月に大学卒業後、同年6月に現在の会社を創業しました。幼い頃から「生きるからにはワクワクすることをやりたい」という思いを抱いており、一般的な就職が想像できず、大学2年時には起業を明確に志していました。しかし、いきなりゼロからのスタートは困難です。そこで大学に通いながら、先輩が創業したスタートアップ企業で2年半ほど正社員として働きました。資金調達などを経て事業を急成長させる過程を実体験として学び、その経験を経て自身の起業に至りました。
ーー起業した頃の苦労について聞かせてください。
秋重知輝:
最初から多言語化事業を目指していたわけではなく、当初は全く異なる事業を展開していました。ファッションフリマアプリなどCtoCサービスを1年ほど運営しましたが、想定通りに事業は伸びませんでした。その過程で「私はそこまで服が好きではない」という根本的な事実に気づいたのです。新規事業の立ち上げと継続には多大なエネルギーを要します。自らの中に明確な理由や覚悟がなければ継続は難しいと痛感し、同事業からの撤退を決断しました。
ーーそこからどのようにして現在の事業にたどり着いたのですか。
秋重知輝:
撤退後、事業の軸を根本から見つめ直したことが結果として現在の事業につながりました。前事業は「世の中のプラスをさらにプラスにする」エンタメ要素の強い領域。しかし、私が本当にやりたいことは「マイナスをゼロにすることで、世の中を少しでも前に進めること」なのです。明確な「課題」や「困りごと」の解決へ、事業の舵を切るべきだと考えました。
そういった考えをいだきながら、海外へ足を運んだ際に、「言語の壁」に直面しました。テクノロジーが発展しても、言語が対応していなければその恩恵を享受することはできません。この壁を解消し、誰もが簡単に多言語化できる仕組みを提供すれば、世の中の不便さをなくせる。そう確信し、現在の事業を立ち上げたのです。
「意義」を問い現実を直視して日々積み上げる
ーー事業を進める上で、創業当時から大切にしている軸は何でしょうか。
秋重知輝:
大きく2つあります。
1つ目は、その取り組みに本質的な「意義があるか」です。目先の利益や数値などのわかりやすい指標を追うのではなく、お客様や関係者に確かな価値を提供できているかを常に振り返っています。意義のある価値を提供し続ければ、結果として数字は後からついてきます。
2つ目は「日々少しずつ積み上げる」ことです。私自身に特別な才能があるとは思っていません。そんな中で少しでも社会に貢献するような事業を作っていくために、日々少しずつでもいいから前に進むことを大切にしています。
ーー困難に直面したときの乗り越え方について教えてください。
秋重知輝:
まず「現実を直視すること」を徹底してきました。創業初期の資金繰りなど、厳しい状況下では誰もが逃げ出したくなります。しかし、目を背けずに現状を徹底的に分析し、課題を論理的に分解する。そうすれば、自然と「こう向き合うべき」という具体的な打ち手が見えてきます。あとは策定した戦略を愚直に実行するだけです。基本ではありますが、課題から逃げずに一つひとつ丁寧に解決していく姿勢を貫いています。
高い「翻訳品質」と「使いやすさ」で言語の壁を壊す

ーー現在展開されている多言語化ツールの強みはどこにあるとお考えですか。
秋重知輝:
強みは「翻訳の品質」と「使いやすさ」の2点です。法人のお客様が安心して導入するためには、高い翻訳品質が欠かせません。AIの翻訳精度は向上していますが、単にAIに翻訳を投げるだけでは適切な品質を担保することはできません。事業の性質や多言語化の目的などのコンテキストを適切に反映することによって、精度を高める開発に最も注力しています。
もう一つの強みである「使いやすさ」は、弊社のミッション「言語の障壁を解消し、世界をもっと近づけよう」に直結する要素です。一部の企業にしか導入できない仕組みでは意味がありません。ITに関する専門知識がなくても直感的に操作できる画面設計や、UIUXにこだわっています。実際に、私たちのツールの品質と使いやすさを評価いただき、他社サービスもある中で弊社のツールを選んでいただく場合はかなり増えています。
グローバル市場へ挑み世界のインフラへ
ーー最後に、今後のビジョンについてお聞かせいただけますでしょうか。
秋重知輝:
今後1〜3年で目指すのは、事業領域の拡大とグローバル市場への進出です。現在はWebサイト多言語化が中心ですが、今後はWebサイトに挿入されているPDFや動画など、関連する領域の多言語化も進めていきます。
また、言語の壁に対する課題感は世界共通です。まずはアメリカ市場へ進出し、確かな認知を獲得します。5年後には日本国内にとどまらず、世界中で「言語の壁にまつわる課題なら、私たちのツールで全て解決できる」といわれる、社会のインフラとして機能するサービスへと成長させていきたいですね。
編集後記
言語の障壁を解消し、世界をもっと近づけよう。秋重氏が掲げるミッションの裏には、事業撤退の経験から導き出された「本当に解決すべき課題に向き合う」という強い覚悟があった。困難に直面しても現実から目を背けず、現状を分析し、論理的な打ち手を講じる。そして何より「毎日の積み重ね」を重んじる愚直な姿勢。それこそが、同社の高い技術力とサービス品質を支える根幹である。言語の壁という世界共通の課題に挑み、グローバルなインフラへと成長していく株式会社Enju。同社のさらなる飛躍から今後も目が離せない。

秋重知輝/1996年、千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。大学在学中から株式会社TANPにて、初期メンバーとしてギフトEC事業のPdM、マーケティングなどグロース領域を幅広く担当。2021年6月に株式会社Enjuを創業し、代表取締役に就任。