
気候変動問題が深刻化する現代において、クリーンエネルギーの普及は世界的な急務である。しかし、日本のエネルギー構造は、依然として大規模発電所に依存した“中央集権型”が主流だ。
そんな中、住宅の屋根を“発電所”へ変え、地域単位でエネルギーを循環させる「分散型エネルギー社会」の実装に挑んでいるのが、ハチドリソーラー株式会社である。同社は、初期費用0円の太陽光サービスを全国47都道府県で展開。さらに、各家庭の太陽光発電や蓄電池、給湯器などを統合制御する独自OSの開発を進め、「太陽で動くまち」づくりへと事業を進化させている。
そんな同社の代表取締役・池田将太氏の原点は、学生時代に訪れたミクロネシアでの出来事だった。なぜ彼は地球温暖化の解決に人生を懸ける決意をしたのか。そして、なぜ“太陽で暮らす”ことが当たり前の社会を目指すのか。日本から始まる分散型エネルギー社会の挑戦と、その先に描く未来に迫る。
豊かさの定義が変わったミクロネシアでの日々 友人の危機が起業の原点に
ーーまずは、池田社長が環境問題に関わるようになったきっかけをお聞かせください。
池田将太:
きっかけは、大学時代に訪れたミクロネシアでの気づきです。そこには教授の勧めで向かったのですが、当時の私には「貧しい人たちが困っている国」というイメージがありました。しかし、彼らの心は非常に豊かだったのです。
現地の平均月収は日本円で4万円ほどと決して高くなく、物資も少ない状況でした。それでも自分の持つものを分け合い、「足るを知る」生き方をしていたのです。その状況を見て「貧乏とはお金がないことではなく、今持っているものに満足できない人のことだ」と気づかされました。その後、そんな彼らのために何かしたいと思い、現地でボランティアを始めました。
ーーそこから、なぜ「起業」という道を選んだのでしょうか。
池田将太:
ボランティアではなく、事業を通じて社会を大きく動かすためです。活動2年目に、温暖化による海面上昇で友人の家が海に流される出来事がありました。未来の問題だと思っていた環境問題が、目の前の友人を襲ったのです。その事実を目の当たりにし、「自分の人生を懸けて挑むテーマは地球温暖化だ」と強く決意しました。世界を変えるには、より持続可能で社会を動かせる「起業」という形が必要だと考えたのです。
ーー学生での起業には、どのような壁がありましたか。
池田将太:
起業のノウハウも資金もない状態からのスタートでした。そこで「最短で起業できる環境はどこか」を探していたときに出会ったのが、社会起業家が次々に生まれるエコシステムを持つ株式会社ボーダレス・ジャパンです。
同社は、ソーシャルビジネスしかやらない会社で、社内で社会問題を解決する事業をプランニングして全社長の決裁が取られると創業資金を出資してもらえる仕組みを持っていたのです。この環境に新卒で飛び込んで3カ月間ビジネスの修行を積み、出資を受けて現在の会社を創業しました。
パネルを増やすだけでは世界は変わらない エネルギーOSで描く「自律したまち」
ーー現在の事業展開について教えていただけますか。
池田将太:
弊社では「自然エネルギーが主電源の未来を創る」というミッションのもと、事業を展開しています。基盤となるのが、離島を除く47都道府県で提供している、初期費用ゼロ円の太陽光定額サービスです。
太陽光発電は訪問販売が主流でしたが、私たちは申し込みから提案、工事の手配、事後対応までを全てオンラインで完結できる独自の仕組みを構築しました。社内にはエネルギープランナーと呼ばれる専門チームを組成しており、ご家族の在宅時間や生活リズムに合わせて最適なエネルギー設計を提案できる点が強みと言えるでしょう。
単に設備を導入するだけでなく、家で作ったエネルギーを使って生活する、太陽で暮らすという新しいライフスタイルをお届けすることが私たちの提供価値となっています。このワンストップ体制によって費用の不透明さや品質のばらつきを解消し、創業5カ月目という早期の黒字化を実現したのです。近年はJR西日本グループと業務提携を結び、鉄道会社としては日本初となる住宅太陽光サービスを共同展開するなど、さらなる事業拡大を進めています。
ーー事業を拡大する中で、どのようなターニングポイントがありましたか。
池田将太:
ただ発電量を増やすだけでなく、エネルギーを制御する独自OSの開発へ舵を切ったことです。数年前、「このままパネルを増やして会社の規模を拡大しても、本当に自然エネルギーの未来は訪れるのか」と立ち止まりました。
日本の電力市場は、日中に電気が余り、夜間は足りなくなる課題を抱えています。柔軟に電力を調整する仕組みが必要です。そこで、各家庭のエネルギーを制御するOSの開発を始めました。余った電気を給湯などに回し、不足時には地域へ供給する。この分散型電源をつなぎ、「太陽だけで動くまち」をつくる方向へと事業を進化させました。
3年で日本に希望を与え、4年後からは世界へ フルスイングで挑む仲間とともに

ーー今後のビジョンは、どのように描かれていますか。
池田将太:
これからの3年間は、自然エネルギー100%で自立したまちづくりに注力します。現在、環境省の「脱炭素先行地域」に選ばれた兵庫県豊岡市と連携し、地域内でエネルギーが循環するモデルの実装に取り組んでいます。災害時も安心して暮らせる環境をつくり、新しい取り組みが生まれ、地域経済を活性化させます。「分散型電源を基点にしたまちづくり」の成功事例をつくり、日本中に希望を与えたいですね。
そして4年後からは、グローバル展開を予定しています。エネルギーに制約がある島国や途上国へ入り、分散型の電源を供給します。すべての人が当たり前にクリーンエネルギーを使えて、産業や教育の機会が生まれる世界をつくる決意です。
ーー最後に、これから社会に出る20代の方々へメッセージをいただけますでしょうか。
池田将太:
何かに熱狂してがむしゃらになる時期は、人生においてかけがえのない財産になります。もし今、自分の力を社会のために使いたいという強い意志があるなら、自分が「フルスイング」できる場所を求め続けてください。失敗を恐れて挑まない選択はしてほしくありません。大きな挑戦をしたい方は、ぜひ私たちと一緒に世界を変えましょう。
編集後記
「貧乏とは、今持っているものに満足できないこと」。ミクロネシアでの原体験から語られた言葉には、真の豊かさとは何かを問い直す力があった。気候変動という地球規模の課題に対し、単なる設備の普及にとどまらず、独自のエネルギーOS開発とまちづくりで「自然エネルギーが当たり前の社会」を本気で実装しようとする池田将太氏。その視線は日本の地域社会から、世界中のエネルギーに困っている人々へと向けられている。失敗を恐れず、客観的な事実と実績を積み重ねて未来を切り拓く同社の挑戦は続いていく。

池田将太/1998年7月生まれ。千葉県船橋市出身。小学校から高校まで、プロ野球選手を目指して野球に打ち込む。大学入学後、国際協力を志すようになりミクロネシア連邦で環境活動に従事。新卒で株式会社ボーダレス・ジャパンに入社。2022年、「自然エネルギーが主電源の未来を創る」をミッションにハチドリソーラー株式会社を設立。環境省「中央環境審議会地球環境部会2050年ネットゼロ実現に向けた気候変動対策検討小委員会」委員。