
コンサルティング業界、広告業界を経て起業した濱本智己氏。同氏が代表取締役を務める株式会社ネイチャーオブシングスが手掛けるのは、大切な人へ感謝を伝える、いい大人のためのラブレター(絵本の手紙)「シカケテガミ」だ。便利なデジタル時代にあえてアナログな手法にこだわる理由。そして、事業のミッションに掲げる後悔の払拭と、コミュニケーションに対する深い思いとは。自身のキャリアの変遷から、事業を通じて目指す本当の幸せの形までを詳しく紐解く。
嫌なことを削ぎ落とし自分の「やりたいこと」が点になった
ーーまずは、起業に至るまでの経緯をお聞かせください。
濱本智己:
私は最初から「これがやりたい」と明確な目標を見つけられたわけではなく、自分の中で徐々に見えてきた嫌なことや、やりたくないことを消去法で削っていった結果、現在の事業にたどり着きました。新卒でコンサルティング業界に入り、論理的思考という武器を得ました。しかし、「ロジカルに説明できないことは認められない」という左脳的な世界にだんだん違和感を覚えます。そこで、直感や右脳的感覚への憧れから真逆の広告業界へと飛び込みました。
広告業界には15年ほど身を置き、コミュニケーションビジネスの面白さを実感しました。しかし次第に、企業が消費者に向ける商業的な情報発信に限界と飽きを感じるようになったのです。私が培ってきた創造性を、もっと人と人が向き合うパーソナルなコミュニケーションに掛け合わせ、自らのプロダクトやサービスを生み出したいと思うようになりました。最初は広い”面”だった可能性から一つずつ違和感を削ぎ落としていった先に残ったのが、今の事業です。
娘の誕生が教えてくれた「伝えなかった後悔」をなくす事業

ーー現在の事業である「シカケテガミ」は、どのような思いから生まれたのでしょうか。
濱本智己:
「後悔をなくしたい」という強い思いです。対人関係において、「あのとき、言葉にして伝えておけばよかった」という後悔は非常に大きなものです。
サービスが生まれた直接のきっかけは、私自身の娘の誕生でした。初めて親になり、妻や私の親、そしてそれらすべてに気づかせてくれた娘への深い感謝が強く芽生えました。同時に「もし明日、突然私がいなくなったら、この思いを伝えられないまま終わってしまう」、そんないたたまれない焦燥感のようなものを覚えたのです。お金だけでなく、今のこの「気持ち」をちゃんと家族に残したいと強く思いました。
しかし、近しい人ほど本音を直接伝えるのは気恥ずかしいものです。そこで、絵文字やLINEスタンプなどと同様、文字とイラストを組み合わせることで絶妙なニュアンスを表現できる「絵本」というフォーマットに手紙を落とし込みました。手紙という古典的なコミュニケーションツールを再定義し、誰かの「伝える」という行為を後押ししたいと考えたのです。
利便性の時代にあえてアナログにこだわる理由
ーー技術が発達する現代において、あえてアナログな手法を追求する理由は何ですか。
濱本智己:
利便性だけでは語れない「プロセス」の価値があると考えているからです。テクノロジーが進化し、何でも便利にできる時代だからこそ、アナログが持つ意味は大きくなります。
たとえば、オンラインで簡単に手配できるセンスの良い3000円のお花と、花屋へ足を運んで店員さんに相談しながら一生懸命に選んだ3000円のお花があるとします。それら2つを比較した時、もらった側が嬉しいのは圧倒的に後者でしょう。その裏側にある「私のために時間や手間をかけてくれた」という過程が想像できるからです。
手紙も全く同じです。アナログが持つ温度感や手間暇こそが、相手に気持ちを届ける上で非常に重要だと確信しています。実際にご利用いただいたお客様からは、感謝の声を数多くいただいています。例えば、すれ違いから別れを迎えてしまったカップルの女性が、最後にシカケテガミを渡したところ、お相手が感動しプロポーズにつながったという出来事がありました。また、結婚式でシカケテガミを受け取った新郎のお父様が「こんなに感動したことはない」と弊社へ直接メッセージを寄せてくださったこともあります。
「誰かを幸せにできた実感」こそが真の幸せ

ーー今後の事業展開と、ご自身が考える働く上での「幸せ」についてお聞かせください。
濱本智己:
「自分が誰かの心を満たせた」「誰かを笑顔にできた」と実感できたときに初めて得られる感情こそが、「幸せ」の正体だと考えています。私は、喜びと幸せは違うものだと定義しています。たとえば、何かほしいものを買って気分が高揚する、といった「喜び」は一人でも手に入れられます。しかし、真の幸せは他者との関わりの中にしかありません。
シカケテガミを通じて、お客様の大切な人が涙を流して喜んでくれる。その結果、送ったご本人も幸せになり、そんなお客様の声を聞くことで私たちも幸せのお裾分けをいただける。ただ売上高を追うのではなく、コミュニケーションを通じて誰かを幸せにする事業をこれからも広げていきたいと心から思っています。それが私にとっての最大のやりがいであり、事業を続ける原動力です。
編集後記
キャリアの迷いを逆手に取り、消去法で自らの進むべき道を見出した濱本氏。効率や利便性がもてはやされる現代において、相手を思いやる手間暇という「プロセス」の価値を再定義する姿勢に深く共感した。誰かを笑顔にした実感こそが真の幸せであるという氏の利他的な信念は、温かい絵本の手紙となり、これからも多くの人々の心を強く結びつけていくだろう。

濱本智己/1980年、兵庫県出身。2002年、関西学院大学法学部法律学科卒業後、デロイトトーマツコンサルティング合同会社(現・合同会社デロイト トーマツ コンサルティング)に入社。その後、外資系広告会社にて戦略プランニング部長、クリエイティブディレクター、新規事業開発責任者等を歴任。2021年に株式会社ネイチャーオブシングスを創業。同社代表取締役に就任。