
スマートフォン決済や公共料金の支払いなど、私たちが普段何気なく利用している決済システムの裏側には、ビリングシステム株式会社のプラットフォームが静かに存在している。同社は社員数100名規模で20以上の決済サービスを運用し、決済インフラを支える独自の立ち位置を築いてきたフィンテック企業だ。代表取締役社長の石塚昭浩氏は、前職の大手IT企業で20年以上にわたって決済事業に携わり、APAC地域での決済事業の経営再建を率いるなど、厳しい局面で「成長の本質」を体得してきた。なぜ石塚社長は、次の挑戦の場としてビリングシステムを選んだのか。その組織改革の狙いと、決済代行にとどまらず、ビジネスフロー全体を最適化するパートナーへの進化を見据える同社のビジョンに迫った。
経営再建の現場で学んだ「成長が止まる怖さ」
――まずは、これまでのキャリアから教えてください。
石塚昭浩:
前職の大手IT企業にて、20年以上にわたり決済プラットフォームのシステム開発から営業・企画、事業戦略まで幅広く携わってきました。大きな転機となったのは、海外での経営再建を複数経験したことです。経営悪化したブラジルのグループ会社や、APAC地域のペイメント会社の立て直しなど、勝手がわからない環境で組織再編を含む改革を断行しなければならない局面がありました。
そこで痛感したのは、「会社は成長し続けなければならない。成長が止まった瞬間に状況が急激に厳しくなる」という現実です。あの経験が、いつも私の判断軸の中心にあります。
強固な基盤と「余白」―ビリングシステムに参画した理由
――そうした経験を経て、貴社に参画された決め手は何だったのでしょうか。
石塚昭浩:
私は入社前の2年半、外部コンサルタントとして当社の経営支援に関わっていました。外から見ていて強く感じたのは、当社は競合が入り込みにくい領域で複数の柱となる事業を確立し、非常に優れたビジネスモデルを持っているということです。
一方で、強い事業であるがゆえに、組織がオペレーションに最適化され、サービス同士の連携が十分とはいえない部分も見えました。既存顧客に対して新しい価値提案が広がっていない「余白」がある。そこは大きな伸びしろだと捉えました。だからこそ、これまで私が培ってきた決済ビジネスの経験をかけ合わせれば、当社のポテンシャルをさらに引き出せる。そう確信して、経営の当事者として参画する決断をしたのです。
100名で20以上の決済サービスを運用する「内製力」は信頼の源泉
――事業の優位性や強みはどこにあるとお考えですか。
石塚昭浩:
最大の強みは、少数精鋭で信頼性の高いシステムを構築・運用できる「内製力」です。当社は社員約100名規模ですが、開発・運用・基盤を担うエンジニアは約30名にとどまります。それでも監督官庁や金融機関からの厳しい要請を満たしながら、決済システムを自社で運用しています。これは単なる効率の良さではなく、安定運用と改善スピードを同時に成り立たせる土台だと思っています。結果としてコスト優位性にもつながる。まさに当社の競争力の核といえます。
もうひとつは、既存資産を活かしたアライアンスによる成長余地の大きさです。主力サービスであるスマートフォン決済アプリ「PayB(ペイビー)」は、銀行や外部の大手決済アプリの裏側にも組み込まれ、社会インフラとして機能しています。加えて、世の中には現金文化が根強く残るなか、ATMで収納票のQRコードやバーコードを読み取り、現金投入で支払う仕組みの裏側も当社が支えております。利用シーンに合わせて既存サービスの連携を進めるだけでも、事業を伸ばせるポテンシャルは非常に大きいと見ています。

成長の副作用に向き合う 現場任せから人が育ち定着する仕組みへ
――高いポテンシャルを持つ一方で、見えてきた課題はありましたか。
石塚昭浩:
会社が成長する中、組織や制度などの仕組みづくりが追いついていないことが課題でした。部門連携が活発とはいえず、人事評価制度も十分に整備されていません。育成・研修制度や、社内ポータルといった部門横断のコミュニケーション機能も不足していました。加えて、管理部門からの全社最適のイニシアティブが乏しく、日々の業務は事務処理が中心になっています。これでは、成長を持続するために必要な自律的変化が生まれにくくなってしまいます。
現在、経営戦略を担う経営企画機能を拡張し、会社全体の施策やルールを浸透させる仕組みを確立させようとしています。同時に、当社として初めての新卒採用も開始し、並行して育成・研修体系も整備することで、人が育ち、定着する仕組みへと、投資を進めています。今年4月には初めて新卒社員が入社しましたが、先輩社員みんながワクワクして積極的に指導している姿に、育て合う文化への変化を確信しています。
決済手数料の会社から情報と資金の流れを束ねる「マネーチェーンマネジメント」へ
――今後の事業ビジョンについて教えてください。
石塚昭浩:
私たちが目指すのは、単なる決済手段の提供にとどまらず、情報と資金の流れを一括で請け負う「マネーチェーンマネジメント」の実現です。これまで当社は、プラットフォームサービスを提供するというプロダクトアウトの発想になりがちでした。しかし今後は、顧客企業の業務フロー全体における悩みや不整合を、デジタル決済を活用して根本から解決する「ニーズ対応型」のサービスへ転換していく必要があります。自治体、金融機関、民間企業をつなぐ基盤として、5年後には「付加価値を生み出す事業運営に不可欠なインフラ」という地位を固めることが理想です。気がつけば使っている―そんな存在になりたいですね。
求めるのは「売る人」ではなく「解く人」 攻めのビジネスプロデューサーへ
――そうしたビジョンを実現するために、どのような人材を求めていますか。
石塚昭浩:
既存サービスを売りにいくだけではなく、お客様の悩みを聞き、新たな技術を取り込み、制度や規制の変化を捉えながら、付加価値の高い新サービスを能動的に生み出していただける方です。ビジネスプロデューサーとしての企画職には、顧客の業務フローの奥深くにまで入り込み、解決策を構築することが求められます。これまで分散していたサービスを統合・拡充し、戦略的に新しい価値を創出する役割を担ってもらいたい。管理部門を戦略部門へ、そして営業・業務・システム部門も攻めの職種へと変容させる原動力となり、ともに会社を次のステージへ引き上げてくれる方にぜひ来ていただきたいですね。
編集後記
海外での経営再建という厳しい局面をくぐり抜けた石塚社長の言葉には、一貫して「成長が止まる怖さ」へのリアリティが宿っている。その豊富な知見と冷静な分析眼が、独自の強みを持つビリングシステムに新たな命を吹き込もうとしている。決済という枠を超え、部門間の壁を打ち破りながら、より付加価値の高い社会インフラの提供者へと進化していく過程は非常に興味深い。その変革のプロセスは、決済インフラの未来を占う上でも見逃せない。同社の変革は、「すでに強い会社を、さらに伸ばす」という最も難しい経営テーマへの挑戦でもある。

石塚昭浩/株式会社NTTデータにて、金融・決済領域を中心に事業立ち上げや事業運営に長年従事。国内外のM&A、事業再編、組織構築を数多くリードし、直近ではAPAC地域におけるリテールペイメント事業およびコンサルティング事業のグローバル展開を推進。2025年3月にビリングシステム株式会社へ入社、同年10月より代表取締役社長に就任。現在は国内決済基盤の拡充に取り組んでいる。