
韓国の英才学校で数学と科学を学び、国費留学生として来日したギル・マロ氏。高校時代の点字アプリ開発で世界大会優勝を果たした「モノづくりへの熱源」は、日本での起業につながった。同氏が国費留学の権利を辞退してまで挑んだのは、越境ECの枠を超え、世界中の商品を誰でも簡単に買える「新しい当たり前」をつくることだ。少数精鋭の多国籍チームを率い、確かな実績で成長を遂げる株式会社SAZOの軌跡と未来への展望に迫る。
点字アプリ開発で見つけた「モノづくり」の原点
ーーまずは、日本に来ることになった経緯をお聞かせいただけますか。
ギル・マロ:
中学生の頃から日本の文化が好きで、いつか行ってみたいという思いがありました。そこで、日本の国立大学で学ぶために、高校は韓国の理数系に強い英才学校に進学しました。その後、日本政府の国費留学制度を知り、親の支援がなくても学べると思い応募することにしたのです。予備教育を経て、名古屋工業大学に入学することが叶いました。
ーー学生時代のご実績について具体的に教えてください。
ギル・マロ:
高校時代にスマートフォンのロック解除と連動した「点字学習アプリ」を開発し、世界大会で優勝しました。ロック解除は、暗証番号などで行うのが当時の主流でしたが、私は点字を一つ学ばないと解除できないという特殊な仕組みにしたのです。
ただ、自己分析してみると、プログラミングそのものが好きだったわけではないことがわかりました。私は「課題を解決すること」や「自分のつくったものを誰かが使ってくれること」に、充実感とやりがいを強く感じます。これが私のモノづくりにおける熱源であり原点だと実感しました。
国費留学を辞退して踏み出した起業への道

ーー起業に至った経緯はどのようなものでしたか。
ギル・マロ:
きっかけとなったのは、大学の「起業部」に入部したことと、自身のビジネスアイデアがコンテストで高く評価されたことです。兵役を終えた後、日本へ戻るまでの間に個人で越境ECの販売を経験しました。その際、既存のサービスには販売者側にとって不便な点が多くあると感じたのです。
その後、大学に復学し、日本の本格的な部活文化を体験したいと考えました。最初は弓道部に入ろうと思いましたが、足の怪我によって入部を断念せざるを得ませんでした。そこで新たな活動として、一人でも進められるプログラミングではなく、自分にとって未知の領域だったビジネスを学ぼうと「起業部」への入部を決めました。そして活動していく中で、先輩起業家の方々から刺激を受け、自分でも事業を立ち上げられるのではないかという思いが芽生えてきたのです。
そこで、自らのアイデアを試すべく、中部地域の学生向けビジネスコンテスト「Tongali」に出場しました。結果としては、見事優勝を果たし、さらに全国大会でも総務大臣賞を受賞することができました。これにより、自分の事業モデルが通用する確信を得て、事業としての売り上げをつくれたことが大きな自信につながっています。
ーー学生起業への不安はありませんでしたか。
ギル・マロ:
「今がタイミングだ」という直感が勝っていましたね。もちろんリスクはありました。しかしリスクを考えるよりも、私は自分が面白いと思うことを実行したいという「衝動性」が強いタイプです。当時はちょうどAIの技術がすさまじい勢いで進化しており、時代の大きな変化を肌で感じていました。そこで、国費留学の権利を辞退して、多くの方々から多大なサポートをいただきながら、2023年にSAZOを立ち上げる決断をしたのです。
後発でも勝てる「AIネイティブ」な組織と顧客体験

ーー現在展開されているサービスの強みについてお聞かせください。
ギル・マロ:
最大の強みは、「越境EC」であることを一切感じさせないシームレスな購入体験です。今はどの企業もAIをアピールしがちですが、私はお客様にとって裏側の技術はどうでもいいことだと考えています。海外のものを買うという障壁を感じさせず、何も考えなくても簡単に買える。そんな顧客体験を第一に考えています。
ーービジネスや組織の特長はどのようなものですか。
ギル・マロ:
多国籍で少数精鋭の「AIネイティブ組織」であることです。経営陣を含め、人間とAIが一緒に働くことを前提とし、高い生産性を誇っています。実は、越境ECの業界において弊社は“超後発”。しかし、この組織力と技術力があるからこそ、大手企業の海外支援をお任せいただけるほどの実績を出すことができました。すでに多くの実績を証明してきたことで、直近でも資金調達を達成しています。さまざまな企業や投資家から応援していただける基盤を整えているのです。
ーー最後に、今後の会社としてのビジョンをお聞かせいただけますか。
ギル・マロ:
中長期的な目標は、国境の壁を感じさせない「新しい当たり前」をつくることです。5年後、10年後には、どんな国からでも欲しい商品が簡単に買える世界を実現したいですね。
目指しているのは、私たちのサービスが世界中の人々の日常に完全に溶け込んだプラットフォームになることです。たとえばフランスでワインを購入する時や韓国のキムチを買う時に「“さぞ(SAZO)”ってきた」と弊社のサービス名が動詞として使われたりするくらい、世界中で当たり前の存在になりたいですね。
編集後記
「リスクより面白いことを選ぶ」。ギル社長のその言葉通り、異国の地で国費留学という恵まれたレールを外れ、時代の変化を捉えて起業へと踏み出した軌跡には確かな行動力がある。課題解決への純粋な探求心と、“超後発”ながらも大手企業から評価される精緻なビジネス展開。この両輪がそろう同社なら、「SAZO」という言葉が世界中で当たり前のように動詞として使われる未来も、決して夢ではないだろう。

ギル・マロ/2000年8月11日、韓国生まれ。日韓共同理工系国費留学生として2020年から名古屋工業大学に留学。兵役中に自身の越境売買の経験から、越境ECの不便さを解消するビジネスを構想。複数のビジネスコンテストで経済産業大臣賞をはじめとする数々の賞を受賞。その後ビジネスプランを固め、2023年10月に株式会社SAZOを創業し、代表取締役に就任。