※本ページ内の情報は2026年6月時点のものです。

IT環境が激変し、働き方の前提が変わるこれからの時代。リックソフト株式会社は、従来の「便利なツールを提供する」段階から、「AI」と「海外対応」を掛け合わせた新たな次元の価値提供へと大きく舵を切ろうとしている。個別のAI導入にとどまらず、システム間にまたがる複雑な業務手順をAIで途切れることなくつなぐ。さらに国境を越えた多国籍企業の従業員同士が、言語の壁を越えて一体となり事業を推進できる環境をつくり出す構想は、世界の働き方を根本から変える影響力を秘めている。フリーランス時代に資本金1万円で起業した経緯や、直面した組織崩壊の危機。そして「AIや海外展開で真っ先に想起される会社になる」という目標に向けた今後の展望まで、代表取締役の大貫浩氏に話を聞いた。

需要と供給のタイミング 外部企業での挫折から学んだこと

ーーまずは、起業する前のご経歴について教えていただけますか。

大貫浩:
もともとはハードウェアが好きで、大学受験は電気工学の学部を中心に行っていました。しかし、たまたま受験していた情報科学の学部に合格したことを機に、そちらへ進むことになったのです。当時は週の大半を学校やアルバイト先で過ごすほどにコンピューターに没頭しており、大学生活の3分の2はそれらの活動に捧げていましたね。そして大学卒業後は日本電気株式会社(NEC)に入社して、法人向けのシステム開発部門で3年半ほど経験を積み、その後はベンチャー企業に参画しました。

そこでの経験を通して私は、ビジネスは必要なときに必要なものを届けてこそ成立するということを学びました。当時の事業は、現在では当たり前に普及している技術でしたが、時代を先取りしすぎていました。需要と供給の間に大きな差があると商売にはならないということを、身をもって実感しましたね。

ーー会社を設立した経緯はどのようなものでしたか。

大貫浩:
起業を決意したのは、顧客からの「会社がないと契約できない」という要望に応えるためです。新興企業を1年余りで辞めた後、金融業界の顧客の現場で7年ほどフリーランスとして活動していました。あるとき、顧客の責任者から「君の部下を連れてきてほしい」と言われたのです。しかし、フリーランスの私に部下はいません。会社がないと契約できないと言われ、それなら会社をつくろうと設立したのが現在の会社の始まりです。

必要に迫られてつくったため、当時は資本金1万円で、自宅を会社の住所にしてスタートしました。個人事業主に会社の枠組みを追加したような状態で、最初は会社を大きくするつもりはありませんでした。

成長痛と上場の決断 業績拡大の裏で直面した組織崩壊の危機

ーーそこからどのように事業を成長させていったのでしょうか。

大貫浩:
転換期となったのは、オープンソースソフトウェアのボランティア活動を行っている時に出会ったAtlassian社の製品、JiraとConfluenceです。これらのポテンシャルは高く、IT業界が抱えている問題を解決できる可能性があると直感しAtlassian製品を日本で広げる活動を始めました。次第にさまざまなところから声がかかるようになり、事業としての可能性を感じて軸足を切り替えたのです。そこから業績は順調に伸び、売上高も5倍ほどに拡大しました。しかし、事業の成長に対して予算管理や組織化が後手に回りました。このままでは組織が壊れてしまうという危機感を抱くようになったのです。

ーー課題を乗り越えた方法について教えてください。

大貫浩:
上場を課題解決の手段として活用することに決めました。半年ほど悩んでいた2014年末、外部の投資家と話す機会がありました。その場で、組織が崩れるかもしれないという課題を伝えたところ、「それは上場することで解決できるかもしれない」と助言を受けたのです。上場を目指すとなれば、予算管理やルールの整備を支援する専門家が集まってきます。彼らを巻き込み、組織を良くするための手段として上場を決意しました。

顧客の真のニーズを引き出す ともに課題を乗り越える伴走力

ーー経営において大切にされている信念は何ですか。

大貫浩:
顧客をよく観察し、その声をしっかり聞くことです。顧客が表面上「A」と言っていても、深く対話をしていくと、背後に本当にやりたい「A'」が隠れていることがわかってきます。本当はA'をやりたいけれど自社だけでは難しい、と思い込んでいる顧客に対して「私たちも協力して実現しましょう」と提案し、伴走します。言われたことだけをやるのではなく、真の要望を引き出して実現させることが重要だと考えています。

ーー貴社の最大の強みをお聞かせください。

大貫浩:
私たちの一番の見えない資産は、顧客との関係性です。短期間では構築できない良好な関係性があるからこそ、顧客と長期的な視点で会話し、数年先の計画を立てながら事業を進めることができています。

「AI×海外対応」で世界の働き方を根本から変える

ーー今後の事業展開について、どのようにお考えでしょうか。

大貫浩:
これまでは、表計算ソフトやメールでの業務に対して、生産性を高める海外の専門ツール(Atlassian社製品など)を導入・サポートするビジネスモデルを主軸としてきました。私たちの強みは、単にツールを売るだけでなく、お客様の現場に深く入り込み、数年先を見据えた良好な関係性を築いてきたことにあります。

しかし、IT環境が激変した今、単に便利なツールを提供するだけでは、お客様の真の課題を解決しきれなくなっています。そこで今後は、これまでに培った顧客との強固な関係性と信頼をベースにしながら、より上流の経営課題からアプローチする戦略パートナーへとビジネスモデルを大きく進化させていきます。具体的には、「AI」と「海外対応」を掛け合わせた新次元の価値提供へと舵を切ります。今後はAIを活用し、個別の作業を補助するだけでなく、複数のシステムにまたがる複雑な業務手順を途切れることなくつなぐ仕組みをコンサルティングから構築していきます。また海外展開においては、多国籍企業の従業員同士が言語の壁を越え、同じ手順上で一体となって事業を推進できる環境をつくります。

ーーその実現に向けて具体的にどのような取り組みを進めていますか。

大貫浩:
国内外の企業買収を通じて人員を増やし、体制強化を進めています。すでに海外企業との資本業務提携なども実施しました。社内では単にツールを提案するだけでなく、より上流の経営課題に着手する助言組織への変革を進めています。AIの進化は速く、業務手順をAIがつなぐようになれば、人間の承認や階層構造といった新たな課題も生まれます。まずは自社で実務にAIを組み込み、その知見を顧客に提案していく方針です。「AIや海外展開」で真っ先に想起される会社になることを目指し、挑戦を続けていきます。

編集後記

多くの困難を乗り越えてきた大貫氏の歩みには、常に顧客の真のニーズ「A'」を引き出し、ともに課題を乗り越える伴走力があった。IT環境が激変し、働き方の前提が変わるこれからの時代。同社は従来の「便利なツールを提供する」段階から、「AI」と「海外対応」を掛け合わせた全く新しい次元の価値提供へと大きく舵を切ろうとしている。「AIや海外展開で真っ先に想起される会社になる」という確信に満ちた言葉を聞き、同社が牽引する社会がどう更新されていくのか、今後の期待がふくらむ。

大貫浩/明治大学大学院修了後、日本電気株式会社(NEC)に入社。その後、フリーのシステムエンジニアとして現場の非効率を痛感し、2005年にリックソフト株式会社を設立。Atlassian社製品などのグローバルITツールの導入・活用支援を通じ、企業のDX推進を牽引する。2016年に米国法人を設立し、2019年に東証マザーズ(現 東証グロース)上場。現場発の深い技術的知見をもとに、日本企業の生産性向上に尽力している。