
幼少期から電子工作に没頭し、10代でロボットの世界大会に出場。その開発費を稼ぐため15歳でフリーランスエンジニアとなり、18歳で株式会社New Innovationsを起業したのが代表取締役Co-CEO兼CTOの中尾渓人氏だ。同氏はロボット開発を自己満足で終わらせず、人々に必要とされる社会実装の道を切り拓いてきた。現在は次世代型のものづくりを強みに、OMO事業や製造業向けクラウド図面管理システム「図面バンク」など多角的な事業を展開している。「武器は戦いながら集めろ」と語る20代の経営者に、根底にある商売人としての哲学と、これからのモノづくりのあり方に迫った。
世の中を変えるためにロボットの社会実装に挑む
ーーまずは、ご自身のモノづくりの原点についてお聞かせください。
中尾渓人:
本格的にロボットの世界に入ったきっかけは、小学4年生で自律型ロボットの競技会に出場したことです。幼少期から木工作や電子工作に触れ、モーターを回したりLEDを光らせたりするモノづくりを10年ほど続けていました。その後も競技会に出場し続け、中学生のときには日本代表として世界大会にも出場しています。
その後はロボット大会の出場費を稼ぐため、15歳でフリーランスエンジニアとして働き始めました。毎年数十万から百万円弱の費用がかかる一方、当時の学校はアルバイトが禁止でした。仮に働けたとしても、アルバイトで賄える金額ではありません。どう資金を調達すべきか悩んでいた折、世間で副業が話題になり始めました。そこでクラウドソーシングサービスに登録し、フリーランスエンジニアとして働き始めたのです。
ーー起業を決意された理由は何だったのでしょうか。
中尾渓人:
開発したロボットを社会実装し、世の中を変えたいという思いが強くなったためです。当初は起業する気は全くありませんでした。しかし、大会に出続ける中で「ロボットを自己満足で終わらせず、社会実装して受益者を生まなければ意味がない」と考え始めたのです。使う人がいない状態で良いものをつくっても、世の中は変わりません。商売として社会に届ける仕組みをつくるべく、高校3年生で起業しました。
「BizDevー事業開発力」×「NOと言わない開発力」が生む次世代型の強み

ーー貴社の事業の強みはどのような点にあるのでしょうか。
中尾渓人:
最大の強みは、正しいビジネス企画を行う「企画力」と、絶対にNOと言わない「開発力」の掛け合わせです。弊社は、ソフトウェアやロボットの開発から生産、ビジネス機能まですべてを社内に持つ「次世代型」のモノづくり生態系を構築しています。顧客課題を解決するビジネス企画を立て、社内で確実に実現できる体制が私たちの武器です。
ーー貴社の製品の特長は何だとお考えですか。
中尾渓人:
デザインです。短期的に見れば、デザインにコストをかけることで原価が上がり、経済合理性から外れるように見えます。しかし、私たちはあえてそこにこだわっています。というのも、弊社は営業担当の人数が限られています。その分、これまで出荷した数千台以上の製品に働いてもらう発想です。製品は廃棄されない限り24時間365日あらゆる空間に存在し続け、質の高いデザインがそこにあるだけで人々の興味を惹き、「営業の分身」として問い合わせにつながっていきます。
ーー具体的には、どのようなロボットを展開されているのでしょうか。
中尾渓人:
代表的な製品の一つが、スマートコーヒースタンド「root C(ルートシー)」です。「root C」は、専用アプリから受け取りたい時間と場所を指定し、淹れたてのスペシャルティコーヒーを完全無人で受け取ることができるコーヒースタンドです。お客様の到着時間に合わせてコーヒーを抽出するため、待ち時間なく香り高い一杯をお楽しみいただけます。
また、お客様の好みを学習して最適なコーヒーを提案するパーソナライズ機能を搭載しています。飲食業界の慢性的な人手不足という課題をテクノロジーの力で解消しつつ、美味しいコーヒーを通じて人々の日常に豊かさを届けたいという思いから開発しました。

製造業の痛みがわかるからこそ生まれた「図面バンク」
ーー「図面バンク」というサービスも展開されているそうですが、どんなサービスなのでしょうか。
中尾渓人:
図面バンクは、設計や見積もり、ノウハウ継承から教育まで製造業のあらゆる業務を、AIで効率化するクラウド図面管理システムです。急速にシェアを伸ばせている最大の理由は、弊社自身が製造機能を持ち、現場の痛みがわかるからこそ実態に即した提案ができ、信頼につながっている点にあります。現在、数十人規模の町工場から数万人規模の大手製造業にまで幅広くご利用いただいています。
ーー「図面バンク」は社会的にどのような価値をもたらしているとお考えですか。
中尾渓人:
急速に進化するAIで世の中が便利になる一方で、製造業の現場ではその恩恵を直接享受しづらいという課題があります。図面バンクはその課題を解決するべく、機密情報を守りながら製造業の図面や各種データをAIの力と結びつける「変換器」として、AIの進化を製造業の現場に還元していくことを目指しています。
「武器は戦いながら集めろ」 求めるのは能力より商売人マインド

ーーご自身の仕事に対する向き合い方についてお聞かせいただけますか。
中尾渓人:
「武器は戦いながら集めろ」という考え方を大切にしています。絶対に勝てる最強の武器の準備が整うのを待つのではなく、実践の中で武器を揃えながら前に進むことを重視しています。また、私は「仕事の悩みは仕事でしか解消しない」と考えており、仕事の悩みに蓋をして別の行動で発散するのではなく、仕事そのものを前に進めて解決していくのが、一番自然で気持ちが良いと感じています。
ーー今後、どのような人材と一緒に働きたいとお考えですか。
中尾渓人:
単なる能力の高さよりも、「商売人マインド」を持った人と働きたいですね。技術に固執するタイプよりも、自らの技術を使って事業を創り上げていける事業家タイプの人材を求めています。技術スキルは教育で伸ばせますが、商売の感覚を掴むことは容易ではありません。市場という戦場に荒波が来ても、自分を守りながら仲間と協力し、仕事を楽しめる。そんな商売人マインドを持つ人たちと、新たな挑戦を続けたいと思っています。
編集後記
10代で世界を舞台にロボットを開発し、資金を稼ぐためにフリーランスとして働き、起業に至った中尾氏の行動力には目を見張るものがある。しかし最も印象的だったのは、常に「社会実装」と「商売」の視点を持ち続けている点だ。技術のための技術ではなく、受益者を生み出し、現場の課題を解決する手段としてテクノロジーを駆使している。自らもモノづくりの現場を持つ「次世代メーカー」として、そしてAIと製造業をつなぐ変換器として、同社がどのような未来を実装していくのか。その展開に希望の未来が見えた。

中尾渓人/1999年、和歌山県生まれ。14歳で「RoboCup Junior」世界大会にて入賞。15歳から開始したシステム開発事業で取引先が300を超えたことをきっかけに、高校在学中の2018年に株式会社New Innovationsを設立。「Forbes 30 Under 30 Asia 2023」選出。