※本ページ内の情報は2026年7月時点のものです。

音声配信プラットフォーム「radiko」は月間アクティブユーザー約850万人を誇り、1日あたりの平均利用時間は150分という非常に長い時間を記録している。2010年の開始以来、デジタルの力でラジオの聴取体験を革新し続けてきた。2025年に代表取締役社長に就任した池田卓生氏は長年ラジオ番組制作で腕を振るってきた人物である。放送局と融合し、同じ未来へ向かう「Unity(結束)」のビジョンを掲げる同社の池田氏に、音声メディアの新たな未来図をうかがった。

プロデューサー経験で確信した「音の余白」が持つ力

ーーこれまでのキャリアの歩みについてお聞かせください。

池田卓生:
学生時代からラジオに関わる仕事がしたいと思い、上京してまずは番組制作会社に入りました。その後2年ほどニューヨークに渡り、現地のスタジオから日本の放送局に向けて番組制作を行ったのち、帰国後の2001年にTBSラジオ&コミュニケーションズ(現・株式会社TBSラジオ)へ入社し、長らくプロデューサーとして現場で番組制作を指揮してきました。

ーーご自身の経験から感じるラジオというメディアの最大の魅力は何ですか。

池田卓生:
ラジオは「音の余白」や「間」が伝わるメディアです。たとえばパーソナリティの息遣いや言葉に詰まる様子などから、真剣さがリスナーに伝わります。これこそがリスナーとパーソナリティの間に深い絆や、距離感の近さを生み出している理由です。私自身、一流のパーソナリティの方々と仕事をする中で、こうした「音声で伝えることの力強さ」を肌で感じ、深く学んできました。その確信が、今の自信につながっています。

放送局との「Unity」局の垣根を越え新たなリスナーを開拓

ーー社長就任時、どのようなビジョンを掲げられたのでしょうか。

池田卓生:
就任してすぐのカンファレンスで、全国の放送局に向けて「Unity(結束)」というメッセージを発信しました。これまでラジオ局とradikoの間には少し距離があったように感じていました。放送局から人が入ることで両者を融合し、共に同じ未来の方向を向いて歩んでいきたいと考えたのです。

ーー最近注力されているオリジナルコンテンツの制作について詳しく教えてください。

池田卓生:
radikoの強みは放送局の垣根を越えられることです。異なる局のパーソナリティ同士の対談など、radikoだからこそ組める企画を実現しています。また大手アニメ制作会社など、他ジャンルと連携してオリジナルポッドキャストを制作しています。これまでラジオに触れてこなかった新たなリスナー層の獲得に向けたアプローチも始めています。

位置情報と行動履歴が生む精緻なターゲティング広告

ーー具体的に、どのようなアプローチ手法で広告を打ち出していくのでしょうか。

池田卓生:
radikoは位置情報を利用するプラットフォームであるため、精緻なターゲティングが可能です。ユーザーの年齢や性別だけでなく、行動履歴に基づいた非常に細かな広告配信ができます。そのため、たとえば特定の鉄道路線をよく利用する方や、特定のエリアにいる方に絞って広告を配信できます。

ーー実際の広告効果はいかがでしょうか。

池田卓生:
非常に高い効果が出ています。たとえば、ある大手飲料メーカー様が六本木でイベントを展開した際、周辺にいる人や関連路線を使う人に広告を配信したところ、認知度や参加意向が大きく向上しました。また、大手製薬会社様が高速道路のサービスエリア利用者に向けて広告を出稿したケースや、コスメ関連企業様が店舗の半径500メートル以内にいる方へ配信したケースでも、来店率や購買データに明らかな上昇が見られました。このように、ターゲットの「行動」や「シチュエーション」まで指定して広告を届けられるのが、radikoならではの強みです。

ラジオの受信機から「総合エンターテインメントプラットフォーム」へ

ーー今後の貴社が目指す姿について教えていただけますか。

池田卓生:
これまでのradikoは「ラジオ放送の配信サービス」としての役割が中心でした。今後はユーザーが音声の世界を楽しめる「総合エンターテインメントプラットフォーム」へと進化させていきたいと考えています。具体的には、AIによる文字起こしやチャプター分けを活用し、リスナー一人ひとりが「自分の好きなゲストやトーク」に出会えるよう、多様な選択肢を提供します。将来的には、番組を聴きながらその場でグッズを購入したり、イベントへ参加申し込みができるような、シームレスな動線の構築や番組単位でのチャンネルメンバーシップ機能の実装も構想しています。

また独自の強みである位置情報を活かし、名所旧跡に近づくとプッシュ通知でオーディオガイドが流れるような、日常や旅先での新たな音声体験を提供したいとも考え、2026年7月1日には位置情報連動型 音声観光ガイド「radiko audio Guide」を正式リリースしました。あとは、災害時への備えも重要ですね。停電などでラジオ受信機がない場合でも、スマートフォンさえあれば情報を得られる。そうした社会インフラとしての役割を果たすためにも、radikoの普及には一層力を入れています。現在、多くのAM放送局がFMへと転換する過渡期にありますが、どのような環境下でも誰もが安心して放送を聴けるプラットフォームであり続けたいと考えています。

ーー貴社が求める人物像についてお聞かせください。

池田卓生:
音楽でも旅行でも、対象は何でも構いません。自分の「好き」を突き詰め、とことん極めている人に魅力を感じます。また、世の中が変化する中で受け身になるのではなく、自ら変化をつくり出せる方と働きたいですね。仕事上にトラブルはつきものですが、それを恐れず、積極的なコミュニケーションによって周囲と関係性を築き、共に解決できる。そんな方と一緒に、radikoの未来をつくっていきたいと考えています。

ーー最後に、今後の大きな目標はありますか。

池田卓生:
放送局との強固な「Unity(結束)」を基盤とし、月間アクティブユーザー数を現在から拡大させます。現在の850万人から2000万人、3000万人へと拡大させていくことが大きな目標です。その先には、音声メディアが人々の日常に欠かせない活力となる未来が広がっています。ワクワクする体験を生み出し続ける未来に向けて、これからも挑戦を続けていきます。

編集後記

今回のインタビューを通して語られたのは、ラジオ番組制作の最前線で「音の力」を肌で感じてきた池田氏だからこその、重みのある言葉の数々であった。そこには、音声メディアへの深い愛と、その可能性に対する揺るぎない確信が満ちている。放送局の垣根を越え、AI技術や精緻なターゲティング広告を駆使し、「総合エンターテインメントプラットフォーム」へと進化を遂げようとするradiko。伝統的なラジオの良さを守りつつ、デジタルの力で新たなリスナー体験を創出する挑戦は、音声コンテンツの未来をさらに面白くしてくれるに違いない。

池田卓生/1969年生まれ、大阪府出身。明治大学政治経済学部卒業後、ラジオ番組制作会社を経て、2001年にTBSラジオ&コミュニケーションズ(現・株式会社TBSラジオ)入社。深夜放送「JUNK」などを手がける。2022年からTBSラジオ執行役員。2025年6月19日に株式会社radiko代表取締役社長就任。