
1997年、父が経営するIT企業に入社し、その東京拠点の立ち上げに奔走した清水卓氏。しかし、大規模な開発プロジェクトの失敗により撤退を余儀なくされてしまった。挫折を味わいながらも、父からの打診を受けて経営者への道を歩み始めた同氏は、いかにして組織を変革し、新しいサービスを多数抱える総合IT企業へと同社を押し上げたのか。2025年のホールディングス化による新たな強みと、AI時代における「人の付加価値」の重要性、そして自律的に動く組織づくりの裏側に迫った。
東京撤退の挫折と理念の再構築による組織変革
ーーまずは、貴社へ入社された経緯を教えていただけますでしょうか。
清水卓:
1995年に大学を卒業後、最初は一般企業に入社しました。その後、父が経営していた当社の東京拠点(東京カコムス)を立ち上げることになり、1997年11月に参画したのが始まりです。当時は経営者になるつもりはなく、営業や総務など幅広い業務に携わっていました。
ーーその後、どのような転機があったのでしょうか。
清水卓:
2003年頃、当社にとって新しい取り組みであるパッケージ開発を手掛けたものの、それが頓挫してしまったのです。当時は東京拠点のメンバー40名に加え、パートナー企業を含めて100名以上の人員を抱えていました。しかし多額の負債を抱えることになり、最終的に東京からの撤退を余儀なくされたのです。長年一緒に汗を流し、拠点拡大のために頑張ってくれた仲間たちと離れ離れにならなければならないことは、身を裂かれる思いでした。彼らの期待を裏切ってしまったという深い後悔から、私自身も責任を感じ、退職を考えていたほどです。
ーーそこから、なぜ代表に就任されたのでしょうか。
清水卓:
父から「経営を引き継がないか」と打診されたことがきっかけです。退職を考えていた矢先でしたが、会社を良くしたいという思いは持ち続けていました。そこで2011年に中小企業大学校へ通い、1年ほどかけて経営を徹底的に学びました。そして2013年に社長に就任したのです。
ーー代表就任後は、どのような改革に取り組みましたか。
清水卓:
「高品質かつ最善、最適なITソリューションサービスの提供をもって、お客様の繁栄に貢献する」という新たな経営理念を掲げ、事業モデルの転換を図りました。当時は、決められた業務をこなす常駐・人材提供型のビジネスモデルが中心で、このままでは会社の未来はないという強い危機感を抱いていたのです。
そこで当時の経営陣に直訴し、理念や行動指針を変えました。お客様から求められた業務を着実に遂行すればよいという価値観から脱却し、私たち自身が経営課題をヒアリングし、ITを用いた解決策を提案する「付加価値の高いビジネス」への転換です。前体制のやり方を変えるには苦労もありましたが、事業モデルを根本から見直すために必要な決断でした。
ーー理念の変更に対して、社員の皆様はどのような反応でしたか。
清水卓:
対話を重ねることで、一人ひとりが自ら考えて行動するようになりましたね。最初は戸惑いもあったかと思いますが、業務改善提案を募るなど、「どうすればお客様の役に立てるか」を考える仕組みを取り入れていったのです。その結果、社員の意識が変わり、会社全体が劇的に良化しました。そして現在のように、新しいサービスを多数抱える企業へと進化・成長することができたのです。
ホールディングス化による価値創造とAI時代の生き残り戦略

ーー貴社の強みや、他社との差別化ポイントについて教えていただけますか。
清水卓:
コンサルティングからアプリケーション開発まで、お客様にとって本当に価値ある活動を総合的に提供できる点です。M&Aを積極的に行い、2025年のホールディングス化に向けて準備を進めました。これにより、各グループ会社が持つ独自の強みや個性を活かし、システム開発に留まらない多角的な提案が可能になったのです。現在は総合IT企業として、お客様のあらゆる課題にスピーディーに対応できる体制を整えています。
ーー5年後、10年後の未来に向けて、どのようなビジョンを描いていますか。
清水卓:
AIを中心に据え、いかにして付加価値を上げていくかという点に注力します。現在、AIの発達によってIT業界全体が大きな転換期を迎えています。これからの時代、コーディングなどの作業はAIによって大幅に削減され、エンジニアに求められる役割も変わっていくでしょう。しかし、AIがどれほど進化しても、その出力結果を正しく評価し、お客様の実際のビジネスにどう落とし込むかを考えるのは人の役割です。「何が課題なのか」という問題意識を持ち、コミュニケーションを通じて解決策を導き出すコンサルティング力やアイデアの創出こそが、これからの時代に残り続ける「人の付加価値」だと考えています。
共感で結ばれる組織が「やりがい」を生み出す
ーー貴社が求める人物像についてお聞かせください。
清水卓:
個人の能力の高さ以上に、会社の理念やバリューに「共感」していただける方を求めています。当社の行動指針を理解し、同じ方向を向いて成長していける、考えに合う人たちが集まることで、強い組織ができると信じています。
ーー最後に、今後ともに働く方や読者へ向けたメッセージをお願いします。
清水卓:
私の個人的な使命は「やりがいの創出」です。人生の大半を占める仕事の時間が、単なる労働ではなく、「面白い」と思えるものであってほしいと願っています。自ら提案したアイデアが形になり、お客様から「ありがとう」と感謝される。そうした経験を通じて、社員一人ひとりがやりがいを感じられる環境をつくり続けていきます。私たちと同じ志を持ち、より良い社会の実現に向けて挑戦したいという方と、ぜひ一緒にお仕事をしたいですね。
編集後記
「東京撤退」という苦い挫折を経験しながらも、自らの手で会社を立て直し、総合IT企業へと成長させた清水代表。その根底には、社員に対する深い愛情と、「付加価値」への揺るぎない探求心がある。AI時代を迎え、業界の常識が覆りつつある今、あえて人の「アイデア」や「コミュニケーション力」に重きを置く同社の姿勢は非常に印象的だった。理念に共感する仲間とともに、同社がどのような未来を切り拓いていくのか、今後の展開を追い続けたい。

清水卓/1973年生まれ。1995年に大学を卒業後、一般企業を経て1997年にカコムス株式会社へ入社。事業承継を見据えて経営を学んだ後、2013年に代表取締役社長に就任。