
「意志があれば社会を変えていくことができる」。そう語る株式会社フェズの代表取締役である赤尾雄司氏は、もともと教員を志していた。新卒で入社したリクルートでホットペッパービューティーをゼロから立ち上げるなどの実績を残した同氏が、次なる挑戦の場に選んだのはデータ領域のベンチャー企業だった。広告視聴ログと購買データを連携させ、本当に商品が売れたのかを可視化する事業モデルはいかにして生まれ、どのように壁を乗り越えてきたのか。AI時代を見据えた生存戦略と次世代のリーダー育成にかける思いに迫る。
「意志があれば社会は変えられる」 教師志望の青年が選んだ成長環境
ーーまずは、経営者となるまでの道のりとご経験についてお聞かせください。
赤尾雄司:
私の原点にあるのは、「意志があれば社会を変えていくことができる」と未来ある人たちに伝えたいという思いです。初めから経営者を目指していたわけではなく、もともとはこの想いから教員を志して筑波大学に進学しました。しかし大学生活を送る中で、そのまま社会に出ずに教壇に立っても説得力がないと気づいたのです。
そこで、最も短い時間で10年、20年分の社会経験が積める成長環境に身をおこうと考えました。複数の会社を見る中で最終的にリクルートを選びましたが、その理由は、お会いした3年目、5年目の社員がワクワク感や高揚感を持って働いていたからです。会社を判断する上で一番確かなのは、そこで働く人が何を大切にしているかだと考えました。
ーーリクルートでの経験で特に印象に残っていることは何ですか。
赤尾雄司:
大きく2つあります。1つ目は、今から30年程前のガソリン車全盛の時代に、トヨタ自動車様を担当した際の経験です。「走れば走るだけ空気をきれいにする車にしたい」という目標を聞き、会社が志を持つことの意義を深く学んだことは非常に大きな出来事でした。
2つ目は、ゼロから「ホットペッパービューティー」のサービスをつくり上げたことです。世の中にない仕組みをつくろうとすると、通常の営業以上に常識という壁や周囲の反発が伴い、何度も断られる経験をしました。しかし、それを繰り返してようやくご契約をいただけたときの喜びや商売のありがたさは深く身に染みました。美容室の掲載が0件からスタートし、全く掲載いただけなかった状態から、現在のような圧倒的なプラットフォームへと成長したことは、今でも私の勇気の源です。
最終的に、当時は全く見えなかった市場を切り拓き、結果的に多くの女性が使うメディアへと成長させることができました。その過程をチームとともに試行錯誤しながら経験できたことは私の中で非常に大きな原体験になっています。
商品購入の実績を可視化 購買データが変えるマーケティング

ーーその後、現在の会社へ参画された経緯を教えていただけますか。
赤尾雄司:
リクルートでの事業が数百億円規模に成長した際、私は安定した環境にとどまるべきではないと感じました。組織としてしっかり機能してチームが育ったのなら、もう一度ゼロベースで新たな領域に挑戦するべきだと考えたからです。沢山のチャレンジャーが生まれる世の中になって欲しいという、教師を志した想いが原点にあります。
常々、広告やマーケティングに関わる中で、広告を出稿しても実際に何が売れたのか明らかでない状況に疑問を感じていました。そこで購買データを活用すれば結果の透明性を高め、確かな成果を出せる仕組みをつくれると考えたのです。
ーー改めて、現在展開されている事業モデルについて詳しく教えてください。
赤尾雄司:
一言で言えば、メディアの視聴ログと小売事業者様の購買データを紐付け、実際に商品が購入されたかを可視化する事業です。この仕組みはすべての人に利点をもたらす関係性を生み出します。
小売事業者様は、これまで活用できていなかった「ID-POSデータ(いつ・どこで・誰が・何を買ったか)」を、個人を特定しない安全な形でマーケティングに活用することで、新たな収益(データマネタイズ)を生み出すことができます。単なるデータの提供にとどまらず、「広告を見たお客様が、店舗でどのような購買行動をとるか」を緻密に分析できます。そのデータをもとに、効果的な商品棚の配置(棚割り)、来店を促す販促施策の改善、的確な需要予測による在庫の最適化などを行い、実店舗の売上高そのものを引き上げることが可能になります。
メーカー様にとって、従来のデジタル広告は「何回表示されたか」「何回クリックされたか」までしか追跡できないものでした。しかしこの仕組みを使えば、「広告を見た人が、実際に実店舗でその商品を購入したのか」という最終的な成果(コンバージョン)までを正確に把握できます。広告費に対する実際の売上(投資対効果)が明確になるため、効果の薄い施策を見直し、本当に売上につながるターゲットや広告に予算を集中させることができます。勘や経験に頼らない、極めて合理的で無駄のないマーケティング戦略が実現します。
結果的に消費者の皆様にとっても自分の興味や過去の購買傾向とかけ離れた、関係のない広告(ノイズ)が減ります。代わりに、いつも買っている商品のキャンペーン情報や、ライフスタイルに合った新しい商品の提案など、一人ひとりの関心にパーソナライズされた「本当に必要な情報」だけがベストなタイミングで届くようになります。結果として、日々の買い物がより豊かで便利な体験へと変わります。
ーー全く新しい仕組みをつくる上で、特に苦労したことは何でしたか。
赤尾雄司:
最大の壁は、当初小売様との接点もなく、名前も知られていない会社に大切な購買データを預けていただくことでした。飛び込み営業からスタートし、なかなかお時間をいただけない中、何度もご説明にうかがう愚直なプロセスを繰り返して信頼に変えていきました。
メーカー様への営業でも開始わずかな時間で商談が終わってしまうこともあります。それでも心が折れなかったのは、家業で苦労しながら育ててくれた両親への感謝があったからです。また、個人の勝利ではなく信じてついてきてくれるメンバーとともに、困難を乗り越えた先の景色を分かち合いたかったのです。
AI時代の大転換期は「競技の交代」少数精鋭で挑む生存戦略
ーーAIなどの最新技術が台頭する中、今後の戦略をどう描いていらっしゃいますか。
赤尾雄司:
生成AIなどの進化は、ビジネスの競争環境において、たとえば野球からサッカーに競技が変わるほどの大きな転換だと捉えています。千人規模の大企業の場合、今まで野球をやっていた組織を一気にサッカーへ切り替えるのは容易ではありません。しかし、私たちはベンチャー企業だからこそ、一気に新しいフィールドに合わせた体制へと意思決定し切り替えることができます。社員一人ひとりがAIを活用して一人の生産性を引き上げ、これまでとはレベルの異なる価値提供をお客様に実現することを目指します。
ーー最後に、今後の展望と求める人物像についてお話しいただけますか。
赤尾雄司:
今後10年先を見据えたとき、事業を牽引し、社会課題に挑み続けられるリーダーを育成することが不可欠です。事業を成長させるだけでなく人も育てていきたいと考えています。仮に会社を離れたとしても、ここでゼロから何かをつくり出した経験を糧に別の社会課題に挑めるような人を育てたいですね。
採用において重視しているのは、スキルよりも新しい市場をつくっていくという挑戦に対するスタンスです。あえてゼロから何かをつくり出す挑戦に飛び込みたいと思える方。そんな志を持つ仲間と一緒に新しい挑戦を続けていきたいと考えています。
編集後記
社会を変えるという志を胸にビジネスの世界へ飛び込み、幾多の壁を乗り越えてきた赤尾社長。言葉の裏には、ご両親への感謝と未来の子どもたちへ挑戦する姿を見せたいという情熱があった。マーケティングの常識を覆す目標の根底にあるのは、「チームで最高の成果を分かち合いたい」という熱い思い。人工知能という新たな技術が現れた今、同社がどのような事業を展開していくのか、その活躍に今後も注目していきたい。

赤尾雄司/岐阜県出身。筑波大学第一学部人文学類を卒業後、株式会社リクルートに入社。大手から中小企業の人材採用・教育支援、新規事業開発部門では「ホットペッパー」の立ち上げを担い、黒字化と全国展開を牽引。「ホットペッパービューティー」では事業責任者としてカンパニー化を推進し、事業成長に貢献。トレンダーズ株式会社の取締役などを経て、2017年、株式会社フェズに参画。国内事業の確立・拡大を牽引し、2024年、代表取締役に就任。