
IT黎明期にキャリアをスタートさせ、夕張市の財政破綻からの再生に尽力した釜澤剛璽氏。その過程で生きづらさを抱える人々と出会い、人生の後半を彼らの支援に捧げることを決意した。縦割りの福祉制度に限界を感じ、住居、食料、医療、就労までを一貫して提供する株式会社FFを2012年に設立。過去を問わず「まずは信じる」ことから始まるのが同社の取り組みだ。後継者不足に悩む企業と働き手を結びつける新たな挑戦について話を聞いた。
IT業界での経験と夕張市再生で芽生えた「人のために生きる」覚悟
ーーまずは、これまでのご経歴についてお聞かせください。
釜澤剛璽:
通信とITの境界線が曖昧だったインターネット黎明期に新卒でIT企業に入社し、そこでホームページやサーバーの販売に携わりました。東日本全域で地域企業と連携しながらホームページ制作を推進。結果的にIT業界には約10年勤め、上場企業グループの子会社2社で社長も経験しました。
その後、夕張市が財政破綻した際、IT化担当オブザーバーとして支援に入ったことがきっかけで、北海道に戻り夕張市の支援に携わりました。全国へ情報を発信するため、コストを抑え迅速に対応できるホームページへ改修した他、市長のメッセージを直接伝えるブログを開設したこともあります。不要財産の販売や基金を通じた資金集めなど、できる限りの立て直しに奔走しました。
ーー現在の事業を立ち上げた動機は何でしょうか。
釜澤剛璽:
夕張市での活動を通じ、様々な困難を抱える人々と出会ったことが大きな転機です。人生の前半はインターネット事業に全力を注ぎ、後半は人のために尽くしたいと考え、2012年に弊社を立ち上げました。根底にあるのは、幼少期の原体験です。父が鉄骨業を営んでおり、実家には少年院を出た人や施設にいた人が共に暮らし、働いていました。最初は少し怖さも感じていましたが、彼らが前向きに変わっていく姿を間近で見ることも多く、その経験があるからこそ、人の可能性を信じたいと強く思うようになったのです。
縦割りの福祉を打ち破る一貫した包括的支援

ーー貴社の事業内容と強みを教えていただけますか。
釜澤剛璽:
Believe in people’s potential and solve social problems「人の可能性を信じ社会の課題を解決する」という理念のもと、困難に直面する人々を支援しています。対象としているのは障害者、出所者、難病者、食料困難者、ヤングケアラーなど多様な背景を持つ人々です。具体的には札幌を拠点に在宅支援(訪問看護、在宅就労)、相談支援(生活全般)、食料支援(フードバンク・フードドライブ)、就労支援(障害者就労・高齢者就労等)、居住支援(グループホーム等)、依存症支援(薬物・アルコール等)など地域に根ざした活動を行っています。
行政の支援は、出所者は法務省、障害者は厚生労働省というように管轄が分かれています。日本ではいわゆる「縦割り行政」のもと、問題別・対象別に福祉制度が整備されているため、生活全体に対する視点が弱くなりがちです。そこで弊社では、縦割りの壁を超えた包括的な支援体制の構築を進めてきました。
また、就労支援を行う弊社のほかに、株式会社キャリアエディションもあります。この会社では、在宅医療支援、訪問看護ステーション、障害者就労支援センターなども運営しています。一般社団法人フードバンクセンターでは、食料支援・相談支援を行っております。たとえば食料支援では週に3回、3つの団体へ食料を配布し、月に1回~2回、個人対象の配布会を開催しております。年間で約7000人に支援を届けています。このようなことに挑戦し続けた結果、多くの人と出会い活動の幅が広がりました。
ーー「一貫した支援」とは具体的にどのような支援ですか。
釜澤剛璽:
第一段階として、まずは住む場所と食べるものを提供し生活の基盤を整えます。住居は集団生活の施設ではなく個人のマンションの一室を用意しています。そうして、生活が安定した後の第二段階では仕事を紹介し、さらに医療的なサポートを並行して受けながら社会復帰を目指す包括的な支援を実施しています。こうした支援の幅広さが私たちの特徴ですね。
ーー困難を抱えた方々と接する際、最も大切にしていることは何でしょうか。
釜澤剛璽:
「信じること」ですね。過去の経歴だけを見れば、彼らを信じないのが合理的な判断とされるかもしれません。しかしそれではその人が本来持っている能力を活かすことは不可能です。だからこそ私はまず彼らの可能性を信じ抜くことからすべての支援を始めています。
勿論、正直に言えば大変なこともたくさんあります。
後継者不足の企業を支え誰もが輝ける「居場所」をつくる
ーー今後の事業展開についてお聞かせください。
釜澤剛璽:
日本全国で多くの企業が後継者不足により事業継続の危機に直面しています。小さな伝統工芸なども含め、価値ある仕事を次世代へ引き継いでいきたいのです。一方で、私の周囲には働きたくても働く機会を得られない人が大勢いて、そうした方々を事業承継で悩む企業へ派遣し、地域の大切な担い手へと育成する取り組みを進めています。また、今後はクリニックなどをグループに迎え入れ、自社内でより包括的に事業を展開できる体制を整えていく方針です。
ーー社長が目指す未来像を教えていただけますか。
釜澤剛璽:
昔は近所の人に叱られるくらい地域社会との距離感が近いものでした。しかし、今は隣人の名前すら知らない孤立した社会になりつつあります。だからこそ私は彼らに安心できる「居場所」を提供したいと考えています。それは地域のコミュニティでも働く職場でも構いません。分け隔てなく参加できる場所を通じて、多くの人の生きがいを創り出していくことが私の目標です。
編集後記
夕張市の財政破綻という危機に真正面から向き合った釜澤剛璽氏。その経験と幼少期の原体験が結びつき、現在の包括的な支援体制が構築された。特に印象的だったのは「まずは信じる」という言葉だ。合理性が重視される現代において過去を問わず人の可能性を信じ抜く姿勢は福祉の枠組みを超えた支援の形だ。後継者不足に悩む企業と社会復帰を目指す人々を繋ぐ同社の取り組みは、これからの社会に不可欠な仕組みとなる。

釜澤剛璽/北海道札幌市出身。1999年に産業能率大学(短期大学部)・札幌情報専門学校を卒業後、1999年、ITベンチャー企業に入社。ITビジネスを基軸に、20代で上場企業のグループ子会社2社の代表取締役に就任。北海道夕張市の財政破綻後、プロジェクトリーダーとしてホームページのリニューアルやIT化支援などを手掛ける。2012年、ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現を目指し、現在の4社からなるFUTUREFLIGHTグループの中核企業として、株式会社FFを創業。2016年に法政大学へ3年次編入したが、2019年に中退。