※本ページ内の情報は2026年7月時点のものです。

電子部品の小売・卸から、法人向けのキット製造までを幅広く手がける共立電子産業株式会社。創業から56年、関西の“電気の街”である日本橋で確固たる地位を築いてきた。長年培ってきた「伴走型」のものづくりが強みである同社は現在、店舗・通販・法人営業を連携させながら、BtoB(法人向け)事業の比重を高めている。店舗でアルバイトしていた岩田健氏は、予期せぬトラブルから現場責任者を任され、同社の社員となった。代表取締役社長に就任後は、AIを活用した新たな購買体験の構築や、全国規模での企業間連携を目指す。そんな同氏のこれまでの歩みと業界の未来を見据えた今後の展望に迫った。

会計士志望のアルバイトから予期せぬ転機で現場のトップへ

ーーまずは、貴社に入社された経緯を教えてください。

岩田健:
当初は電子部品に特別な興味があったわけではなく、25歳の頃に会計士を目指して専門学校に通う合間に働ける場所を探していました。その過程で、雇用条件が良かった弊社の求人を見つけ、アルバイトとして入社したのが最初の出会いです。働き始めてしばらくは、あくまで学校とのダブルスクールという形で、何となく続けているような状態でした。

その後、予期せぬ転機が訪れました。現場を取り仕切っていた社員が事故に遭い、急遽、代わりに現場をまとめてほしいと頼まれたのです。業務量が一気に増え、朝から夜遅くまで無我夢中で働きました。目の前の仕事にのめり込むうちに時間が足りなくなり、結果として会計士の道は諦め、この業界で生きる覚悟を決めました。

ーー当時の日本橋の街は、どのような雰囲気だったのでしょうか。

岩田健:
私が働き始めた頃は、まだ大きな家電量販店がいくつか残っていましたが、すでに郊外型店舗への移行が進んでいましたが、依然として多くの専門店や技術者が集まっていました。電気の街として長く親しまれてきた日本橋が、新たな魅力を模索していた時代だったと思います。現在のようにアニメやサブカルチャーが前面に出ているような雰囲気ではなく、今とはかなり異なる街並みでしたね。

ーー現場の責任者として長く携わる中で、特に印象深かった出来事はありますか。

岩田健:
私が所属していたデジットという店舗の方向性を、大きく転換したタイミングです。もともとはジャンク品や掘り出し物をメインに扱っていましたが、それだけでは立ち行かなくなると考えました。そこで、面白さよりも電子部品のパーツを前面に押し出し、本格的に取り扱う専門店へと店のつくり方を変えたのです。より専門性を高め、電子工作の部品が揃う店舗へとシフトしたことで、業務は細かくなりましたが、非常に意義深い経験となりました。

「趣味のお客様」が法人取引を生む 56年の歴史が培う強固なネットワーク

ーー改めて、現在の事業内容についてお聞かせください。

岩田健:
主軸は電子部品の小売と卸売です。現在の取り扱い商品は約50万点におよび、この圧倒的な商材の幅広さでお客様の多様なニーズに迅速にお応えできることが弊社の強みです。さらに、法人案件に対応する開発部門を備え、キットなどの軽製造も手がけています。かつては一般消費者向け(BtoC)の店舗販売が主力でした。しかし時代の変化に合わせて事業を展開し、現在では売上高の大半を法人向けが占めています。

ーー貴社独自の強みはどこにあるとお考えですか。

岩田健:
関西での高い知名度と、多くの協力会社様との強固なネットワークです。基板製造などのご要望をいただいた際、得意分野が異なる協力会社様の中から最適な依頼先を選定できる選択肢を持っています。もう一つは、創業期から受け継いできた「伴走型」のものづくりです。単に部品を売って終わりではなく、お客様の相談に乗り、一緒に課題を解決していく姿勢を今も大切にしています。

ーー法人向けの営業ではどのような取り組みをしていますか。

岩田健:
弊社独自の「伴走型」の姿勢が、非常に大きく生きています。弊社の店舗には、趣味で部品を買いに来られる個人のお客様が多くいらっしゃいます。しかし技術的な相談に乗っていると、「実は大手メーカーの開発者だ」「大学で研究している」と素性を明かされることが少なくありません。そこからエンジニアの方々と信頼関係を築いていきます。個人的なご縁が結果的に大きな法人取引へとつながるのです。この流れこそが、弊社の強みそのものだといえるでしょう。

大規模イベントでの人材育成とAI 「購入アシスタント」の展望

ーーものづくり支援や次世代の育成に向けた取り組みにはどのようなものがありますか。

岩田健:
ものづくりを直接支援する場として「テックシーカー」という大規模なイベントを主催しています。地元の産業支援機関などと連携し、学生や一般の方々が1ヶ月間チームを組んで作品をつくり上げる催しです。参加者には弊社から部材を購入できる1人5000円分のパスチケットを提供し、ハードウェア制作に没頭できる環境を用意しました。ここまで本格的に支援するイベントは全国的にも希少です。次世代の育成や業界全体の活性化につながる、非常に意義のある活動だと考えています。今後もこうしたイベントの規模を拡大し、より多くの方々にものづくりの楽しさや面白さを体験していただけるよう、継続してやっていければいいなと考えています。

ーー今後のデジタル化やAIの活用で描いている構想を教えてください。

岩田健:
単なる販売システムの効率化というよりも、お客様のものづくりを直接サポートする仕組みを構築したいと考えています。弊社の持つ膨大な商品データとAIを掛け合わせることで、漠然としたアイデアを具体的な形にする構想です。

たとえば、「子どもの誕生日に動くおもちゃをつくってあげたい」と投げかけると、AIが「このモーターのキットを使ってみては」と提案してくれるシステムをイメージしています。「クリスマスの装飾をしたい」と漠然と相談された場合でも、完成させるために必要なパーツをリスト化して提示してくれるような、対話型のアシスタント機能を持たせたいのです。抽出機能としてではなく、あくまでお客様との対話の中で最適なパーツリストを案内してくれるシステムを思い描いています。

関東進出で全国へ 50万点の商材をつなぐ流通体制の構築

ーー今後の目標をお聞かせください。

岩田健:
まずは、関東圏における知名度の向上ですね。関西圏ではありがたいことに広く認知していただいています。しかし、全国的なシェアで見るとまだ伸ばせる余地があります。本社や店舗を無理に関東へ移すことはせず、Webでの展開や関東の展示会への出展を強化していきます。これらを通じて全国的な認知度を引き上げ、シェアを獲得していく方針です。

ーー他に描いている事業構想などはありますか。

岩田健:
「50万点の商材」を軸とした流通体制の構築も推進しています。自社だけで一からお客様を開拓していくことには限界があるため、各分野で独自の顧客層を持つ企業様と連携するのです。その流通網へ弊社の商材をスムーズに提供していく仕組みをつくります。こうした連携の中心を弊社が担うことで、新しい価値を提供し続けたいと考えています。

編集後記

アルバイトから急遽現場を任され、無我夢中でキャリアを駆け抜けた岩田氏。気づけば56年の歴史を有する企業の代表に就任していた。効率化が重視される現代において、顧客一人ひとりに寄り添う「伴走型」の姿勢を貫いている。それが結果的に、太い法人取引と強固なネットワークを生み出しているのだ。50万点の商材と最先端のAI構想、そして全国へ向けた企業間連携。時代に合わせて柔軟に進化し続ける老舗企業の挑戦に、業界の期待がかかる。

岩田健/1970年生まれ。共立電子産業株式会社にアルバイトとして入社し、店頭営業に従事。社員登用後、15年にわたり店舗営業および店舗責任者として店舗運営を経験し、BtoC統括営業に携わる。2023年に代表取締役社長に就任。店舗・通販・法人・開発の強みを生かし、BtoB向け事業の強化を図るとともに、電子部品流通と技術支援を軸に、通販を通じた全国規模での販売拡大を進める。顧客価値の創出、文化の普及、人材育成に尽力。