※本ページ内の情報は2026年7月時点のものです。

「テクノロジー領域の社長が、50歳を過ぎても居座り続けるのは何か違うのではないか」。そう語る宮地謙輔氏は、現在45歳だ。50歳での社長交代を公言し、若手が「次の社長になりたい」と熱望する自律的な組織づくりを進めている。学生時代の「1円起業」から大手コンサルティングファームでの短期間での昇格を経て、アポロ株式会社を創業した。AI全盛の時代にあえて「AIを使わない提案」も厭わない徹底した実益主義と、専門的な才能を生かして事業を創出する独自戦略の裏側に迫る。

就職氷河期の「1円起業」から大手コンサルティングファームでの早期昇格へ

ーーまずは、起業に至るまでの経歴を教えていただけますか。

宮地謙輔:
大学卒業後は、友人と資本金5万円を持ち寄り、会社を立ち上げました。当時が就職氷河期のピークであったことに加え、著名なIT起業家たちによる起業ブームに影響を受けていたのかもしれません。法改正で可能になった「1円起業」の制度を利用して事業を始めました。遊休スペースを活用したイベント運営などから着手し、私の退社後ではありますが、最終的に会社は上場しています。

ーー順調に成長する中で、次の打ち手は何でしたか。

宮地謙輔:
事業が拡大するにつれ、創業メンバー間で会社経営の考え方に相違が生じ、そして友人の考える戦略が正しいと感じました。そのため、会社を離れることとなり、その後、経営課題に直接向き合うべく、大手コンサルティングファームに入社しています。

ーー大手コンサルティングファームでは、どのようにキャリアを築かれたのですか。

宮地謙輔:
自身の専門性を、当時誰も着手していなかったデータ分析領域に絞り、結果として、転職を挟み大手ファーム入社からわずか6年半でMD(マネージングディレクター)職に昇進することができました。私は30歳を超えて下位の役職で入社したため、いわゆる「コンサルの優等生」ではありませんでした。周囲の優秀な若手社員と同じ土俵で戦うには、独自の強みが必要です。そこで、社内で未開拓だった「ビッグデータ」や「データアナリティクス」に目をつけました。この領域で自身の市場価値を高める戦略を取ったことが、短期間での昇格につながったと考えています。

専門人材によるAIにこだわらない「実益主義」

ーー改めて、貴社ではどのような事業を展開しているのか教えてください。

宮地謙輔:
数理モデリングやデータ分析を含めた広義のAIを用い、企業の課題解決を支援しています。最大の特徴は、徹底した「実益主義」です。顧客企業に本当に実益が出るかどうかを最優先しています。そのため、課題解決に不要であれば「AIを使わない」という提案も厭わない誠実さと合理性を持っています。専門家同士がこの姿勢を共有し、真摯に顧客と向き合うことで、長期的な信頼を獲得しているのです。

ーー実益主義を実現するため、組織づくりで工夫していることは何ですか。

宮地謙輔:
技術部門を専門性ごとに細分化しています。具体的には「生成AI」「データ分析」、そして最適化や機械学習を担う「数理モデリング」の3つのチームに分けました。これにより、実績のある既存技術と最新技術の掛け合わせが容易になります。各人が専門性を深く追求でき、プロ集団としての成果物の質が大きく向上しました。

ーー貴社ではどのような方が活躍していますか。

宮地謙輔:
一般的なコンサルティングファームに多い、対人関係に長けた「キラキラした人材」とは異なるかもしれません。どちらかといえば、プログラミングに没頭していたり、大学の研究室に閉じこもっていたりした「オタク層」の人材も多いです。彼らは組織のルールで管理しづらい側面を持つものの、特定の技術や理論に対する能力は圧倒的です。こうした専門的な才能を持つ人々が強みを最大限に発揮し、事業に貢献できる環境を整えています。

大手企業の最重要課題に挑み「発明」を社会実装する仕組み

ーー顧客には、どのような企業が多いのでしょうか。

宮地謙輔:
大手企業が中心です。大手コンサルティングファームの出身者が多数在籍しており、彼らが中心となり、大手企業の経営層が抱える難易度の高い課題を深く理解し、解決へ導く基盤があります。大手企業特有の深い悩みや社会課題に向き合うことで、私たちの技術力も引き上げられます。顧客から対価を得ながら、同時に自社も「育ててもらっている」のも事実です。

ーー今後の会社の展望について教えていただけますか。

宮地謙輔:
事業面では、単なる規模の拡大ではなく、業務の中で生まれた技術的な「発明」を事業化し、社会へ実装していくことを目指しています。数百人規模の少数精鋭組織を維持しながら顧客の経営課題に向き合い、その過程で得た「発明」を製品化し、別会社として切り出すなど、知的財産を社会実装する仕組みを推進します。

また、組織面では、私自身に頼らない自律的な組織を残すことが目標です。私は現在45歳なのですが、変化の激しい技術領域において、50歳を過ぎて社長に居座るべきではないと考えています。いつまでも私が留まるのではなく、優秀な若手が「次の社長になりたい」と熱望する組織構造や資本のあり方を追求し、次世代へ引き継いでいくことこそが、私の目指す会社の未来です。

編集後記

最先端の技術を扱いながらも「実益」を最優先し、手段としてのAIに固執しない宮地氏の姿勢に、真の顧客ファーストを見た。特定の技術や理論に長けた専門人材が才能を存分に発揮し、そこから生まれた発明を社会実装していくビジョンは、極めて合理的で鮮やかだ。「50歳での社長交代」を見据え、次世代が憧れる自律的な組織づくりを推進するアポロ株式会社。独自の戦略で突き進む同社のさらなる飛躍に、今後も期待したい。

宮地謙輔/1980年、福岡県生まれ。早稲田大学卒業。大学院時代に複数の企業を創業。その後、合同会社デロイトトーマツ、PwCコンサルティング合同会社、アクセンチュア株式会社を経て、2020年にアポロ株式会社を設立。アクセンチュアではAI・分析部門のManaging Directorを務める。「やらなかった後悔より、やった後悔を選ぶ」をモットーに、幅広い業界へのアナリティクス・AI導入を推進している。