
世界中で12万社以上の顧客を持ち、クラウドベースのコンテンツ管理プラットフォームとして圧倒的なシェアを誇る「Box」。日本法人の株式会社Box Japanは、2013年の設立以来、グローバルの中でも絶好調に成長を続けてきた。2025年2月に社長執行役員に就任した佐藤範之氏は、外資系IT企業での豊富な営業経験を持ち、「お客様の成功ファースト」を信念に掲げる人物だ。生成AIの台頭により15兆円市場へと拡大する新たなビジネスチャンスに、同社はどう挑むのか。佐藤氏のこれまでの歩みと、AIがもたらす日本の未来についてお話をうかがった。
ITの可能性に魅了された原体験と「お客様の成功ファースト」
ーーまずは、IT業界へ進まれた経緯から教えてください。
佐藤範之:
私は慶應義塾大学環境情報学部(SFC)の3期生で、当時からノートパソコンを使ってレポートを提出するような先進的な環境で学んでいました。そこで「ITテクノロジーが社会や働き方をすべて変えていく」と体感したことが、IT業界を選ぶ原点になりました。富士通株式会社からキャリアをスタートし、サン・マイクロシステムズ株式会社(現・日本オラクル株式会社)で専門性を磨きました。
そんな中、私にとっての大きな転機となったのが株式会社セールスフォース・ドットコム(現・株式会社セールスフォース・ジャパン)との出会いです。そこでお客様の業務に直結するアプリケーションを提案し、実際のユーザーから直接フィードバックをもらえる面白さと重要性を学びました。これが、私が現在までビジネスアプリケーション領域で営業を続けている理由です。
ーーそこから、どのような経緯で貴社に入社されたのですか。
佐藤範之:
私は会社選びの軸として、「テクノロジーが尖っていること」「創業者のビジョンが面白いこと」、そして「まだ出来上がっていない小さな組織であること」を重視していました。その中で、2014年、社員がまだ8人ほどしかいないタイミングで「Box」と出会いました。創業者のアーロン・レヴィが語るビジョンやプロダクトのロードマップを聞いて、この事業には大きな可能性があると確信したのです。
入社後は、広大な日本市場をもう一人の営業担当と2人で網羅するように新規開拓営業を行い、初年度から非常に大きな案件を獲得し、成果につなげることができました。当時から私が営業として一貫して大事にしているのは、「お客さんの成功ファースト」というスタンスです。しっかりとした企画を立て、経済合理性を見極めた提案をしなければ、結果的にお客様を不幸にし、解約につながってしまいます。
このスタンスを貫いた結果、ありがたいことに日本法人はグローバルで見ても絶好調に伸び続けてきました。こうしたこれまでの歩みもあり、2025年に社長執行役員という大任を拝命するに至ったのです。
AIが切り拓く15兆円市場への挑戦

ーー現在の貴社の事業内容と、注力している取り組みについて教えてください。
佐藤範之:
世間では「Box=ストレージ」と思われがちですが、弊社の事業は単なる保管庫ではなく、「インテリジェントなコンテンツプラットフォーム」の提供です。企業が持つあらゆるファイルをクラウド上でお預かりし、ランサムウェアや情報漏洩から「守る」機能と、スムーズなコラボレーションで生産性を高める「攻める」機能を両立させています。
現在、最もホットな取り組みが「Box AI」です。企業データの約9割は、ファイルなどの非構造化データ(※)であり、これらは宝の山です。「Box AI」の取り組みによって具体的に何ができるかというと、これまでは人が中身を読んで判断していた契約書の金額や日付といったメタデータをAIが自動で読み取り、機密ラベルを付与したり、自動で承認ワークフローを走らせたりすることが可能になります。
(※)非構造化データ:メール、動画、画像、音声、PDF資料など、データベースで整理・管理できない、定義された構造を持たない形式のデータ。
ーー生成AIの登場で、ビジネスの対象も大きく広がるのでしょうか。
佐藤範之:
AIが登場したことで、従来のIT部門だけでなく、総務部や研究開発部などあらゆるユーザー部門の業務に深く入り込めるようになりました。これによって市場規模はぐんと拡大し、この15兆円市場への挑戦がこれからのテーマになります。
この広大な市場を開拓していくために、今後は営業活動の強化が大きなテーマです。そのための人材を集めていくべく、セキュリティやインフラなどの基盤系の話だけでなく、ビジネスアプリケーションとしての価値を提案できる人材を増やし、パートナー企業とも連携しながら中堅・中小企業へもアプローチを広げていきます。
失敗を恐れない「自走できる人」と共に日本を再び「ライジングサン」へ
ーー組織を拡大していく中で、どのような人材を求めていますか。
佐藤範之:
私たちが求める人物像は、指示待ちではなく「自走できる人」です。組織が大きくなると、どうしても部分最適に走ったり、意思決定が遅れたりする官僚主義的な空気が生まれがちです。それを防ぐために、弊社ではBox, Inc.が掲げる7つの行動指針の1つである「Take risks. Fail fast. GSD.(リスクを取り、早く失敗しろ)」という精神をとても大切にしています。とにかくスピードを重視し、失敗してもいいから挑戦し続ける。そんなマインドを持った方と一緒に働きたいですね。

ーー最後に、今後のビジョンをお話いただけますか。
佐藤範之:
弊社のミッションであり、創業者のアーロンが常に語っている「Power how the world works together(人と組織の働き方を変革する)」という思い。これは全くブレていません。
私は現在53歳で、日本経済が絶好調だった時代を知っています。人口が減少し、GDPも低下していく今の日本を覆う停滞感を、AIの力でブレークスルーしたいと本気で考えています。企業が持つ9割の非構造化データにAIでインパクトを与え、人が少なくても圧倒的な成果が出せるようになれば、もう一度、世界を照らす「ライジングサン(日の出)」のような成長軌道へ回帰できると確信しています。そのために、私たちはこれからも挑戦を続けていきます。
編集後記
常に楽観的でありながら、ビジネスの原理原則である「お客様の成功ファースト」から決して目を逸らさない佐藤氏。数名の立ち上げ期から同社を牽引し、巨大な組織へと成長させた手腕の裏には、失敗を恐れない行動力と、組織の硬直化を防ぐための絶え間ない対話があった。企業データの9割を占める「非構造化データ」という宝の山を、AIという最強の武器で掘り起こす。15兆円という途方もない市場に挑む同社が、日本の働き方をどう変革していくのか、その未来が非常に楽しみだ。

佐藤範之/1972年生まれ、大分県出身。慶応義塾大学総合政策学部卒業。96年、富士通に入社し営業としてキャリアをスタート。セールスフォース・ドットコム(現セールスフォース・ジャパン)など数社を経て2014年、Box Japanに参画。日本市場の開拓や西日本などの営業組織立ち上げをリード。22年に専務執行役員。25年2月より現職。