
モバイルオンラインゲームの開発・運営を主力事業としてきたKLab株式会社。同社は今、ゲーム事業で培った技術力を礎に、AI技術を駆使した新たなエンターテインメント領域へと大きく舵を切ろうとしている。その変革を牽引するのは、創業者であり、2025年に代表取締役社長CEOへと電撃復帰を果たした真田哲弥氏である。連続起業家として常に時代の先を読み、iPhone登場の7年も前にモバイルアプリの未来を予見してみせた。業績悪化という逆境の中、なぜ同氏は再びトップに戻ってきたのか。世界初となる独自の財務戦略、そしてAIが切り拓く未来像とは。創業以来変わらぬ「挑戦者の信念」に迫る。
連続起業家が33歳で初就職 モバイル革命を予見した創業の原点
ーーこれまでのキャリアの歩みについてお聞かせください。
真田哲弥:
学生時代から起業を繰り返してきましたが、インターネット黎明期に「この技術は世界を変える」と確信し、この分野での再起業を決意しました。しかし、すぐには動かず、将来の起業を見据えて技術を一から学ぶため、あえて33歳で人生初の「就職」を選んだのです。サラリーマンとして開発の現場に飛び込み、モバイルインターネットの仕組み作りを徹底的に学んだその1年間が、後のKLab創業の大きな礎となりました。
ーー創業の経緯や背景についてうかがえますか。
真田哲弥:
サラリーマンを経て立ち上げた最初の会社を上場させた後、「これからは携帯電話がソフトウェアをダウンロードして実行できるコンピューターになる」と確信し、新たな挑戦として2000年にKLabを創業しました。iPhoneが発売される7年も前の話ですから、当時は理解されず、変わり者扱いされることもありました。しかし、そのビジョンに可能性を感じた非常に優秀な人材が集まってくれたのです。彼らと共にさまざまな開発を手がけた中で、最もビジネスとして成功したのがゲームでした。そこで経営判断として他の事業をすべて売却し、リソースをゲーム一本に集中させることにしたのです。
業績悪化からの電撃復帰 大胆な改革で描く再成長への道筋
ーー経営の第一線に復帰された経緯をお聞かせください。
真田哲弥:
かつてゲーム事業への集中を決めた際、私は制作の専門家ではありませんでした。そのため、現場を熟知した人間に任せるべきだと判断し、一度は会長職に退いたのです。
しかしその後、市場環境の悪化や戦略的な失敗が重なり、業績は低迷してしまいました。結果として株主総会で前社長の再任が否決される事態となり、経営を立て直すため、私が再び社長として陣頭指揮を執ることになったのです。
ーー今後、どのような戦略で事業を展開されていくのでしょうか。
真田哲弥:
大きく分けて「ゲーム事業」「新規領域」「財務」という3つの柱で改革を進めています。まず主力のゲーム事業では、市場競争が激化する中、世界的に人気の高い日本のIP(知的財産)を活用し、グローバル市場で収益を上げることに勝ち筋を見出しました。次に新規領域ですが、私たちが培った技術力や企画力は、AIやブロックチェーンといった技術と非常に相性が良いため、これらを掛け合わせた新しいエンターテインメントの創出に注力していきます。そして、これらを支えるのが「デュアル・ゴールド・トレジャリー戦略」です。これは、調達した資金の一部でビットコインと金を保有し、財務基盤の安定化を図る弊社グループ独自の戦略です。「攻め」と「守り」の両輪で、再成長を目指す方針です。
AIで誰もがクリエイターに 「世界と自分をワクワクさせる」未来

ーー新しいエンターテインメントの創出とは、具体的にどのようなものでしょうか。
真田哲弥:
私たちが推進している「総合AIエンタテインメント事業」のことです。多くの企業がAIを業務効率化のために導入していますが、私たちが目指しているのは「クリエイティブツールとしてのAI活用」です。具体的には、AIが生成した歌声やキャラクターを用いた「AIアーティスト」のプロデュースや、それらを用いた映像・楽曲制作などが挙げられます。
もともとゲーム開発は、プログラム、3Dグラフィックス、シナリオ、音響などが融合した「総合芸術」であり、弊社にはその全てのリソースが社内に揃っています。この強みとAI技術を掛け合わせることで、アニメや映画の制作プロセスそのものを変革し、新しいエンターテインメントの形を世界へ提案していこうとしています。
ーー今後のビジョンについてお話しいただけますか。
真田哲弥:
創業以来、弊社は「世界と自分をワクワクさせろ」というミッションを掲げています。人をワクワクさせるには、まず作り手である自分たち自身が仕事に熱狂し、楽しんでいなければなりません。その思いは、必ず作品を通じて伝わると信じています。今後はAI技術の進化により、誰もが音楽や映像を生み出せる「全員クリエイター」の時代がやってきます。私たちはその先頭に立ち、今までにないエンターテインメントを実現したいと考えています。会社としては、既存のゲーム事業を立て直しつつ、AI分野で複数の新サービスを立ち上げ、再び強い成長軌道に乗せていきます。この挑戦を共にする、新たな仲間も積極的に迎えていきたいです。
編集後記
“まだ誰も形にできていないことを形にすることにワクワクする”。取材中、真田氏は何度もこの言葉を口にした。モバイルインターネットの黎明期から今日のAI時代まで、常に未来を予見し、新たな挑戦の先頭に立ち続けてきた同氏の姿勢は、まさに“ファーストペンギン”そのものである。逆境の中での社長復帰は、守りに入るためではなく、再び世界をワクワクさせるための新たな挑戦の始まりに他ならない。同社がAIと共に描き出すエンターテインメントの未来に、大きな期待が寄せられる。

真田哲弥/関西学院大学在学中より5度の起業を経験したシリアルアントレプレナー。1998年に株式会社サイバードを共同創業し、当時史上最短記録でJASDAQ上場を果たす。2000年KLab株式会社を設立し、2011年にマザーズ、2012年に東証一部への上場に導く。2019年の社長退任後、2022年にWeb3事業を手がける株式会社BLOCKSMITH&Co.を設立。2025年、KLab株式会社代表取締役社長CEOに復帰、AI関連事業を主導する。