※本ページ内の情報は2026年8月時点のものです。

1990年代から海外での製造に着目し、服飾資材の供給から縫製、完成品までの一貫体制を構築してきた清川株式会社。代表取締役社長の清川要治氏は、社長就任以来「社員を幸せにする」という信念を掲げ、独自の教育体制や手厚い福利厚生の整備、社員との対話を重視した経営を貫いている。近年は消費者向け事業への参入や自社ブランドの展開など、新たな取り組みを推進。入社当時の営業経験や海外拠点の立ち上げといったこれまでの歩みから、連結売上高200億円を見据えた同社の今後の事業展開、そして組織づくりの具体的な行動に迫る。

常識を覆す「工場直販」戦略 独自体制で築いた事業拡大の基盤

ーーまずは、清川社長のキャリアの原点を教えてください。

清川要治:
大学卒業後に、弊社に新卒入社しキャリアをスタートさせました。入社後は、まず弊社の強みである海外展開を深く理解するため、貿易や経理の実務から学んでいきました。その後、本格的に営業の第一線へ出るにあたって、ファッション市場の中心である東京へ赴任することになり、約8年間営業として現場経験を重ねました。この経験が、現在の私の大きな基盤となっています。

ーー東京での営業活動において、どのような戦略を取っていましたか。

清川要治:
アパレル企業ではなく、海外の縫製工場を直接の顧客として狙う戦略をとりました。当時の繊維業界は、海外での縫製が本格化し始めた時代で、同業他社の多くはアパレル企業に対して服づくりの企画を提案する営業スタイルでした。そんな中で弊社は、海外に複数の拠点を持つ強みを活かしたのです。日本で指定された部材を、現地の自社拠点が直接縫製工場へ納品する仕組みを構築し、現地での部材調達に特化して、他社にはない供給体制をつくることに成功しました。その結果、大手企業からも高い評価をいただき、売上高の拡大につなげることができました。

ーーその強固な供給網を築き上げるまでには、品質面での苦労もあったのではないでしょうか。

清川要治:
たしかに海外拠点は営業における最大の強みでしたが、その体制を裏で支え、さらに拡大していく過程では、日本と同等の品質基準を現地に根付かせることに大変な時間を費やしました。当時は供給網を広げるべく海外進出を加速させている最中でしたが、日本と現地とで品質に対する考え方に大きな違いがあったのです。コストを優先するあまり取引先に事前の相談なく材料が変更されたり、試作品と微妙に異なる色が納品されたりと、問題がたびたび発生しました。

そこで文化や商習慣の違いによるトラブルに対し、現地の製造担当者と対話を重ねて解決を図りました。結果的に日本の品質基準を満たす関係性を築き上げるまでに、約20年の歳月を要しましたが、逃げずに現地の工場と向き合ったこの経験が、現在の強固な基盤となっています。

ーー現地の工場と信頼関係を築き、組織体制にはどのような変化がありましたか。

清川要治:
特定の顧客に向けた資材供給のため、2003年頃に中国で新たな独資会社(4社目)を私自身が立ち上げた経験が大きな転機になっています。当時の私は現地の社長として日本と中国を頻繁に行き来しながら営業活動をしていましたが、それでは現地の責任者が不在がちになってしまい、人が育たないという強い危機感を覚えたのです。

そこで、現地の社員を抜擢し、日本でしっかりと研修を受けさせてから拠点長として任せる体制へと舵を切りました。私が立ち上げた現地法人だけでなく、それ以前に設立していた3社も含めて、すべて現地の人材を社長に据えたのです。日本からの駐在員は、あくまでその下で統括や教育のサポート役に徹する形にしました。言語や文化を深く理解する現地の人間が組織を率いる手法が機能し、現在では中国に7社、ベトナムに3社の現地法人を構えるまでに拡大しています。

「仕事は利益を出すこと」 社員の生活を支えるトップ自らの対話

ーーその後、社長に就任されてからはどのような方針を掲げましたか。

清川要治:
2010年の日本本社の社長就任時に、「社員を幸せにする」という目的を第一に置き、現場との直接的な対話を重視する方針を固めました。トップとしての自身の役目を考え抜いた結果、この答えに行き着いたからです。しかし、全員と日常的に会話することは容易ではありません。そこで、社員本人やそのご家族の誕生日にメッセージを送る取り組みを16年間続けています。「今日はお子さんの誕生日だから早く帰って祝ってあげなさい」と声をかけたりして、社員の家族も含めて大切にしたいという意思を行動で示しています。

ーー「社員の幸せ」を実現していく上で、事業において重要視されていることは何ですか。

清川要治:
適正な利益をしっかりと出すことです。これが社員の幸せを実現する大前提となります。社会貢献や雇用創出も大切ですが、仕事の原点は利益を得ることです。業績を向上させて初めて、社員の給与を引き上げ、広く社会に還元することができます。そのため、社員には常に利益を意識した仕事を求めており、実践的な営業教育にも力を注いでいます。

ーー利益を生み出すための営業教育として、具体的にどのような取り組みをしていますか。

清川要治:
営業担当だけでなく、内勤のスタッフも含めて海外研修を実施し、私自身が同行して弊社の強みを直接伝えています。弊社の武器である海外の供給体制を、社員に肌で理解してもらうためです。他社の優れた経営者が自ら製品の魅力を語るように、会社を最も理解しているトップが方針を示す必要があると考えています。「清川の武器はこれだけある。これをお客様に合わせてどう調整して提案するかは自分たちで考えなさい」といったニュアンスで伝え、現地で直接指導を行っています。

ーー社員を大切にする姿勢は、福利厚生の面にも反映されていますか。

清川要治:
「社員は宝物」という考えのもと、健康を支える制度や環境整備への投資は欠かせません。一例として、健康を意識し、喫煙をしない社員に対して、全額会社負担で高度な先進医療に対応できる医療保険を適用しており、実際にこの制度によって高額な治療費を賄って病を完治させた社員も存在します。

また、本社には安価な値段で食事ができる専用の社員食堂を弊社が入居するビルの食堂街に設けました。ただ単に昼食補助を出すという選択肢もありましたが、社員に温かい食事と落ち着いた休息場所を提供し、全員の顔が見える環境をつくることを優先しました。こうした社員第一の環境づくりが、創業以来の黒字経営を支える組織の力へとつながっています。

ーーこれまでに直面した最も困難な出来事についてお聞かせいただけますか。

清川要治:
新型コロナウイルスの影響を受けた時期は、大変でしたね。アパレルの店舗休業が相次ぎ、本当に泣きそうになるほどの危機でした。しかし、弊社は創業から76年間、一度も赤字を出していません。あの困難な時期を乗り越えられたのは、弊社独自の供給網と人脈があったからです。

弊社はアパレル向けのゴム紐を取り扱っていましたので、当時のマスクの供給不足を少しでも解消できればと思い、その資材を活用してマスク用のゴム紐を生産しました。さらに、弊社が長年培ってきたネットワークや独自の供給網を活かし、医療用のアイソレーションガウンを約300万枚受注することができました。私自身もガウンのモデルを務めて写真を撮影し、その写真が新潟の医療雑誌に掲載されたこともありましたね。あの時は、「ピンチの時こそ社長が先頭に立つべきだ」という思いで動いていました。トップ自らが動き、プレゼンを行い、決断していくことを意識した結果、未曾有の危機ではありましたが、会社としては黒字を維持して乗り切ることができました。

部材から完成品までワンストップ 消費者向け事業への展開

ーー強固な組織力を有する貴社の最大の強みは何ですか。

清川要治:
海外拠点を活用し、部材から完成品までを一貫して製造できる体制を構築できたことです。以前は部材の供給が中心でしたが、現在は生地の調達から自社工場での縫製、製品の完成までをグループ内で完結できるようになりました。これにより顧客は複数企業へ発注する手間が省け、弊社に依頼すれば最終製品として納品される仕組みが整っています。現在ではアパレル関連にとどまらず、異業種の企業様からも製品企画の依頼を受けるようになりました。

ーーワンストップ体制を活かして、現在新たに取り組んでいることはありますか。

清川要治:
企業間取引だけでなく、自社から直接消費者に商品を届けることに挑戦するべく、2026年4月にペット用品を扱うネット通販企業をM&Aしました。現在弊社では、ペット用品にとどまらず、健康器具やリカバリーウェアなど、付加価値の高い商品の開発に注力しています。長年培ってきた製造技術を活かし、自社で企画から販売までを手がける新たな仕組みを構築する段階に入ったと判断し、専門的な知見を持つ企業の買収に至ったのです。

日本の機能性を世界へ 連結売上200億円企業へ向けた次なる組織づくり

ーー自社販売網を強化する中、今後の目標として掲げる経営数値を教えてください。

清川要治:
現在の連結売上高115億円から、5年以内に200億円規模への引き上げを目指しています。この目標を達成するための重要な鍵となるのが、自社オリジナルブランドへの挑戦です。オリジナルブランドを通じて、世界でも類を見ない日本の優れた繊維技術の機能性を、海外へ広く届けていきたいと考えています。たとえば日本の吸水速乾技術には、糸の断面構造を工夫して表面積を増やし、水分を素早く発散させる高度な加工が施されているのが特長です。またリカバリーウェアや健康用品などの機能性の高い製品は、気候条件の厳しい海外地域でも確実な需要が見込まれるでしょう。弊社の強みである海外での生産・供給網を最大限に活かし、日本の高品質な製品を世界に向けて直接販売するとともに、今後は海外向けのネット通販も展開していく方針です。

ーー売上目標の達成に向けた、社内組織の強化にはどのように取り組んでいきますか。

清川要治:
自社にない知見を外部から取り入れるため、ブランド構築や販売促進の専門知識を持つ企業のM&Aを推進していきます。M&Aにおいては、率直に「一緒にやろうぜ!」という思いを何よりも大切にしており、買収後も元の社長が残ってともに事業を大きくしていける会社しか選びません。規模が小さな会社であっても、やる気と独自のノウハウがあれば大歓迎です。弊社の経営基盤や国内外のネットワーク、事業インフラと掛け合わせることで、大きなシナジーを早期に創出し、双方にとって大きな成長につなげられると確信しています。

同時に、社内の生産性を高めるためのDXにも着手し、定型業務をシステムに移行することで、社員には企画や販売といった付加価値の高い創造的な業務へ注力してもらう環境を整えていく方針です。経営トップの役割は、会社の目指す方向性を具体的に示し、人材が能力を最大限に発揮できる組織の環境をつくることだと考えています。

ーー今後はどのような人材を求めていらっしゃいますか。

清川要治:
弊社は今、部材の供給から完成品までを手掛ける確かな製造基盤を活かし、繊維業界をリードする存在を目指して新たなステージへと進んでいます。今後の最大の課題は健康グッズやリカバリーウェアなどの優れた製品を、いかに魅力的な自社ブランドとして育て上げ、日本の高い技術を世界へ発信していくかです。

この大きな目標を実現し、事業をさらにスケールさせていくためには、ともにビジョンを描き形にしてくれる仲間が必要です。これまでにない自社ブランドの企画やブランディングなど、弊社の持つ「武器」をフル活用しながら、ゼロからイチを創り出す面白さを存分に味わえる環境があります。私が描く未来の設計図をもとに、ともにワクワクしながら新しい挑戦を楽しめる方をお待ちしています。

編集後記

「仕事の原点は適正な利益を得ること」。清川要治氏の言葉の根底には、利益を出さなければ社員を幸せにできないという強い責任感がある。現場の最前線で培った営業戦略や、苦労の末に築き上げた海外拠点への権限委譲、そしてトップとして実践し続ける家族ぐるみの対話。これら一つひとつの行動が、76年間赤字なしという同社の強固な組織基盤を形作っている。今後は、自社一貫体制という最大の武器を活かし、BtoC市場への参入やオリジナルブランドの展開を通じて、日本の優れた技術力を世界へ発信していく構えだ。経営の合理性と社員を重んじる姿勢を両立させる清川氏のもと、同社がどのような飛躍を見せてくれるのか。新たなステージへの挑戦に注目していきたい。

清川要治/1972年、大阪府生まれ。同志社大学卒業。1995年に入社し、2010年同社代表取締役社長に就任。