
九州大学発の革新的なCO₂回収技術の社会実装に挑む株式会社JCCL。同社は、これまで大量の熱や大規模な装置が必要とされてきたCO₂回収を、圧倒的な低エネルギーで実現する革新的な脱炭素技術で、気候変動問題を解決するための「グローバルスタンダード(世界標準)」を目指している。この事業を率いる梅原俊志氏は、大手企業で1000億円超の事業を創出した。大企業とベンチャー双方の知見を熟知する同氏が、厳しい若手時代に自ら答えを出して鍛えた「ビジネス胆力」の原点から、JCCLが描く未来と「ギャンブルとチャレンジの違い」に迫る。
結論延ばしをしない当時の厳しい環境が直感的なビジネス力を育てた
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。
梅原俊志:
大手化学メーカーに入社し、メカニカルエンジニアとしてキャリアをスタートしました。その後15年ほど、さまざまなプロセス開発に携わっていました。入社して間もない若手時代は、具体的な指示がない状況下で、何度も壁にぶつかる日々でした。しかし、その環境をただ嘆くのではなく、自分を成長させる原体験の機会にしようと考えたのです。上司が指示をくれないのであれば、自分が誰よりも考えて動くしかありません。
そこで、当時の自分自身に「絶対に結論を先延ばしにしない」というルールを課しました。ビジネスにおいて判断を先送りにすることは、最も停滞を生む行為だと考えているためです。目の前の問題に対する正解がわからなくても、逃げずにその時点での最善の答えを導き出すこと。大手化学メーカーでの若き日に自分で答えを出して前へ進む真摯な姿勢を徹底し、その後のキャリアでも一貫して貫き通してきました。
1000億円超の事業創出 大企業・スタートアップの架け橋となる知見
ーー前職で培われたビジネスへの姿勢は、その後どのような実績につながりましたか。
梅原俊志:
事業部責任者として、米国大手IT企業との直接交渉に臨み、取引がゼロだった状態から数多くの大型受注を獲得しました。相手が求めるリクエストに対して、3Cの視点から自社が対応すべきか否かをその場で明確にジャッジし、信頼を勝ち得ることが出来ました。最終的には1000億円以上を売り上げる一大ビジネスへと繋がりました。また、当時不採算だった2つの事業の構造改革を任されたときも、単に閉鎖させるのではなく、原点回帰から課題を再吟味し再び成長させるシナリオを描くことで、不採算事業を稼げる事業へと導くことを経験しました。
ーー大企業の中で新規事業を活性化させるためにどのような施策を行いましたか。
梅原俊志:
最高技術責任者(CTO)に就任した際、意思決定を迅速化させるためのCTOファンドを立ち上げました。大企業は判断に時間がかかる傾向にありますが、外部のベンチャー企業や大学との協業を推進して新しい技術を社内に取り入れるには、スタートアップ並みのスピードが不可欠です。
そこで、「社内の技術と掛け合わせればこんな面白いものが生まれる」という提案に対しては、私の権限でその場で即決し、予算をつけました。大企業の資金力とベンチャーの機動力を融合させることで、技術者のモチベーションを大きく高めていったのです。このCTO時代に「企業とアカデミアの強みを融合させる実践的な仕組み」の必要性を痛感したことが、大手化学メーカーを退任後に北海道大学の理事(非常勤)と慶應義塾大学の特任教授を務める契機となりました。実際に大学の運営や教育の現場に身を置き、アカデミアの思考論理や優れた研究が埋もれてしまう課題を肌で理解できたことは、非常に大きな財産となっています。
大企業での事業創出力、ベンチャーのスピード感、そして大学(アカデミア)のリアルな知見。これらすべての領域を実体験として深く知っているからこそ、現在の九州大学発スタートアップであるJCCLにおいて、最先端の技術をいかにしてスムーズに社会実装へ導くかという、実践的な舵取りができています。大学での3年8ヶ月に及ぶ経験は、まさに今のJCCLを牽引し、技術をグローバルスタンダードへと押し上げるための大きな原動力として活かされています。
巨大な装置や大量の熱は不要 革新的な技術を世界標準へ

ーー現在展開されている貴社の事業はどのようなものですか。
梅原俊志:
九州大学の星野教授が開発した、革新的な「CO₂回収技術」の社会実装を進めています。最大の特長は、CO₂を回収するプロセスにおいて、従来のように大量の熱や大規模な装置、さまざまな複雑な条件を必要とせず、独自の仕組みによって簡単に回収できる点にあります。これにより、従来の手法よりも圧倒的な低エネルギーでの回収が可能になります。コスト面も含めて、まさに社会実装に最も適した次世代の技術であると確信しています。
ーー脱炭素社会の実現に向けた今後の目標をお聞かせください。
梅原俊志:
この低エネルギーで済む技術を「世界標準にする」ことです。気候変動や温室効果ガスの問題は、日本国内にとどまらず、地球全体で解決しなければならない一刻を争う課題です。だからこそ、この日本発の優れたイノベーションを国内の枠だけに閉じ込めることなく、世界のあらゆる地域における気候変動問題への「具体的な解決策」として、広くグローバルに展開していきます。世界のマーケットでデファクトスタンダードとして認められ、地球規模でのカーボンニュートラルに直接的に貢献していくことこそが、弊社の果たすべき最大の使命です。
「ギャンブル」と「チャレンジ」は違う 強い個が世界を変えるチームをつくる
ーービジネスにおいて未知の領域へと踏み出す際、どのようなことを意識されていますか。
梅原俊志:
「ギャンブル」と「チャレンジ」を明確に分けることですね。手立てもなく運任せに飛び込むのは単なるギャンブルにすぎません。ビジネス胆力を駆使して徹底的に考え抜き、勝算を見出した上でリスクを取るのがチャレンジです。弊社の取り組みもギャンブルではなく、世界標準を見据えたチャレンジとなるでしょう。
ーー最後に、挑戦を支える組織やチームについてのお考えを教えてください。
梅原俊志:
個人の能力を高めることが大前提です。「チーム力」とは、単に人が集まれば生まれるものではありません。「結論を延ばさない」「自分で答えを出す」ことができる強い個人が集まって初めて、真の力が発揮されるのです。弊社も強い個人の集まりとして、チーム一丸となって世界標準をつくる壁に挑んでいきます。
編集後記
「ギャンブルとチャレンジは違う」。梅原氏の言葉には、1000億円超の規模の事業を牽引してきた実績と厳しい環境下で自ら鍛え上げたビジネス胆力の裏付けがあった。大企業の実現力とベンチャーの機動力を併せ持ち、アカデミアの世界にも深く通じる同氏。彼が率いるからこそ、九州大学発の革新的なCO₂回収技術は、単なる有望技術ではなく、社会を変える可能性として確かな説得力を帯びる。「強い個の集まり」がつくり出すチーム力で、日本の技術が世界標準になる日は着実に近づいている。

梅原俊志/1984年4月、大手化学メーカーに入社。エンジニア/事業責任者/CTO/代表取締役を歴任(~2020年6月)。大学理事(非常勤)/特任教授(2020年8月~2024年3月)。東証プライム市場上場企業複数社の社外取締役(現任)。2022年9月、株式会社JCCL社外取締役。2023年4月、同社代表取締役(現任)。