※本ページ内の情報は2026年8月時点のものです。

マニュアル化された大手から一転、見て覚える職人気質の家業へ。28歳で異業種から株式会社フカサワへ入社した深澤友志氏は、現場を一歩一歩経験する中で、弊社の持つアットホームな強みと、「利益が出ない」弱みに直面した。2017年の社長就任後、深澤氏は社内の意識を覆す「利益体質」への改革を断行。同時に「受注生産品(特注品)」へのシフトによる競争力の強化や、年間1000万〜2000万円規模の教育投資、月平均残業5.9時間という働きやすさを実現した。いかにして古い体制を見直し、離職率1%未満の組織を築いたのか。変革の軌跡と未来への展望に迫る。

大手チェーンから家業への転身 現場から見えた弊社の強みと弱み

ーーまずは、貴社へ入社されるまでの経緯をお聞かせください。

深澤友志:
もともと家業を継ぐ意識はまったく持っていませんでした。大学では化学を専攻していましたが、研究室にこもる環境が自分には合いませんでした。そこで、体を動かす仕事に就こうと、卒業後は大手飲食チェーンのすかいらーくへ入社。店舗で3年ほど業務を経験しました。その後も家業に戻るつもりはありませんでしたが、家業であるフカサワの当時のナンバー2(番頭役)の方から約1年間にわたり「戻らなきゃだめだ」と強く説得されました。その言葉に背中を押され、28歳のときにフカサワへの入社を決意したのです。

ーー大手企業から地方の中小企業へ移り、どのようなギャップを感じましたか。

深澤友志:
非常に大きなギャップがありましたね。勤めていた大手飲食チェーンではマニュアルが完備され、やるべきことが明確に決まっています。しかし当時のフカサワには発注システム程度しかなく、先輩の背中を見て教わるという、いわゆる職人気質の環境でした。マニュアルが完備された前職とはまったく違うやり方に戸惑うばかりでした。

ーー入社後は、どのようなキャリアを積みましたか。

深澤友志:
最初は一般の営業職からスタートし、郡山店への配属を皮切りに、宇都宮店、本社、と1年半ずつ各部署に異動していきました。主任、本社の総務部長、支店長など現場の仕事を一歩一歩順番に経験できたことは、非常に有意義だったと感じています。現場を知ったからこそ、社員を大切にするアットホームな社風という「強み」と、利益がほとんど出せていない「弱み」を明確に把握できました。自分が経営に携わる際には、この弱い部分を改善できれば業績は上向くだろうと予測をつけることができたのです。

社長就任と「利益体質」への改革 当たり前を疑い無駄を削ぎ落とす

ーー2017年の社長就任時、貴社をどのように変えていこうと考えたのですか。

深澤友志:
利益構造の改善が急務でした。先代が築いた「社員を大切にする」家族主義の社風は、経営理念の第一である「全社員の幸福」の通り、守るべき部分です。一方で、当時は年間で100億円近い売上高がありながら、純利益は1000万から3000万円程度の厳しい水準でした。利益を出さなければ給料も上げられず、新しい投資もできません。だからこそ、しっかり稼げる利益体質の企業へ変える必要がありました。

ーー具体的にどのような改革から着手されたのでしょうか。

深澤友志:
誰も疑問に思っていなかった無駄をなくすことから始めました。たとえば、当時は年間約1000万円の不動在庫を捨てていましたが、社内ではそれが普通とされていたのです。また、100円で仕入れたものを98円で売るといった、赤字で販売している商品も年間で約1000万円分はありました。不動在庫の原因は、お客様との打ち合わせ不足です。そこで、販売終了の際に在庫が残らないように、月末にお客様と在庫状況の確認する事を徹底しました。

さらに、2年以上動かないものを不動在庫と認定するルールを設け、結果として、現在では赤字商品を年間100万円以下に抑え、不動在庫もほぼゼロになりました。これで年間約2000万円の利益改善につながっています。

ーーほかにも見直した点はありますか。

深澤友志:
購買部の新設です。当時は専門の購買部がなく、各支店の営業担当が各自で仕入れていました。そのため、同じ梱包用テープを仕入れるのに、Aさんは90円、Bさんは80円といった事態が起きていたのです。これでは利益が安定しません。弊社が扱う10万〜15万の品物すべてを管理するのは難しいため、売上高の上位6割を占める主要商材について、本社で仕入れ価格を一括管理し、適正価格で販売するプロジェクトを立ち上げました。この取り組みで、年間約5000万円も利益が変わったのです。当たり前のことを地道に改善し、「売上高重視ではなく利益が重要だ」と社内に浸透させた結果、純利益を約4億円まで引き上げることができました。

価格競争を脱却する「受注生産品」へのシフト

ーー主力事業についてはどのような改革を行いましたか。

深澤友志:
販売する商材の割合を変えました。以前はテープやストレッチフィルムなどの「規格品」の販売が中心でした。しかし規格品は価格競争に巻き込まれやすく、ネット通販などに切り替えられてしまうリスクがあります。そこで注力したのが、お客様ごとに特注でつくる「受注生産品(特注品)」です。たとえば、エンジンの部品に合わせて設計した輸送用の専用器具や、指定サイズにカットされた気泡緩衝材などです。現在ではこの受注生産品の割合が、全体の半分以上に増えています。

ーー受注生産品特有の強みは何だとお考えですか。

深澤友志:
規格品と比べ価格競争になりにくく、一度仕様として組み込まれれば、他社に切り替えられるリスクが低いという特徴があります。切り替えるには版や型をつくり直したり、品質の再検証が必要になるため、お客様にとっても大きな手間がかかってしまうからです。

また、専用器具を設計・提案するような対応はネット通販では難しく、弊社の明確な差別化ポイントになっています。「工場まるごとフカサワへ」という弊社のコンセプトのもと、生産現場で必要とされる資材やシステムの提供に力を注いでいるところです。

ーー専門性の高い商材を扱うにあたり、営業担当者をどのようにサポートしていますか。

深澤友志:
負担をカバーするため、専門部隊を配置しています。お客様を担当する営業約60名のうち、約10名を専門部隊として配置しています。デジタル技術を活用したシステムや複雑な設計など、弊社の営業担当だけでは知識が追いつかない領域について、専門部隊が同行して支援する仕組みです。一般の営業担当がすべてにおいて専門家になる必要はなく、基本を押さえた上でプロの知識を活用できる体制を整えています。

離職率1%未満 「人への投資」と残業削減の実現

ーー採用面ではどのような工夫をされていますか。

深澤友志:
弊社は、100名規模の社員数ながら、年間の離職率は0.7〜1.0%程度と低い水準を維持しています。理由の一つは、半期に一度、統括部長と社員で行う個人面談に私も立ち会い、社員の要望を直接聞いて対応していることにあると思っています。また、採用段階から「会社の現状の良いことも悪いことも正直に伝える」ことを徹底しており、入社後のギャップが少ないため、定着につながっているのだと思います。

ーー入社後の「社員の育成」についてはどのような方針をお持ちでしょうか。

深澤友志:
私は、社長就任時に最も大切だと宣言したのが、人材教育への投資です。生産設備への投資も重要ですが、一番大切なのは「人」です。そのため、まだ十分に利益が出ていなかった時期から、人材教育に多くの予算を投じてきました。具体的には、内勤営業、外勤営業、次長クラス、支店長クラスの4階層に分け、2ヶ月に1回のペースで外部講師を招いた研修を実施しています。この研修の成果がアウトプットされるようになったことも、業績向上の大きな要因です。

ーー働き方や勤務体制の面ではどのような変化がありましたか。

深澤友志:
現在、月平均の残業時間は管理職を含めても8.0時間、役職を持たない社員に限れば5.9時間です。入社当時は20時や21時まで働くのが当たり前の環境でした。しかし「時間内に集中して働き、長く働くのはやめよう」という方針のもと、社内のシステムを強制的に終了する仕組みを導入したのです。最初は「売上が落ちるのではないか」と不満の声も上がりましたが、運用を始めてみると業績への悪影響は一切ありませんでした。そこで段階的に終了時間を早めていき、現在では18時半でシステムが切れるよう設定しています。限られた時間で集中して業務に取り組む環境が整ったことで、労働時間を大幅に削減しつつも業績を向上させることができました。

ーー評価制度については、どのような基準を設けているのでしょうか。

深澤友志:
年功序列と成果主義を組み合わせ、昇給や昇格の条件はスキルと評価表で明確にシステム化しています。たとえば等級を上げるためには、直近の一定期間で高い評価を平均して取らなければならないといった基準を設けています。評価表も等級によって異なり、若い頃は基本行動の配点が高いですが、等級が上がると「利益」といった成果の配点が高くなる仕組みです。社長の好き嫌いではなく、基準をクリアした人が正当に評価される環境を整えています。

10年後に売上高200億円へ 誠実さを貫き新たな価値を提供する

ーー今後の中長期的な展望についてお聞かせください。

深澤友志:
社員とともに「10年後のビジョン」を策定し、現在約120億円の売上高を200億円まで引き上げる目標を掲げました。これを達成するために、販売エリアの拡大と新規事業の推進に力を入れており、現在、北関東が中心ですが、すでに東北地方へも進出し、新規開拓を進めています。東北地方は手応えを感じており、順調に伸びています。

ーー新規事業としてはどのような取り組みをされていますか。

深澤友志:
デジタル技術を活用した事業部門を新設し、お客様の工場へ向けた業務改善策の販売に注力しています。例えば、いまだに手書きで温度管理を行っている現場に対し、パソコンへ情報が自動送信される仕組みや、熱中症対策の顔認証システムなどを提案するようになりました。人手不足や生産性の向上といったお客様の課題解決に直結するため、現在非常に伸びている分野です。

ーー最後に、組織としての今後の課題や、経営との向き合い方を教えてください。

深澤友志:
組織の課題は「女性の活躍」です。現在、女性の管理職が2名誕生しましたが、いまだ男性が中心です。そこで、女性営業として支店長を目指すような人材が育ってほしいと考え、推進に取り組んでいます。

経営者として大切にしているのは、お客様に対しても社員に対しても「誠実に向き合い、信頼関係を築くこと」です。嘘をつかず、約束を守り、対応をしっかり行う。そして、社長自身の感情の起伏で職場の空気を悪くしないよう、私も常に一定の状態を保つように心がけています。経営の基本に忠実に、弊社に足りない仕組みを一つひとつ地道につくり上げてきた結果が、今のフカサワにつながっているのだと思います。

編集後記

インタビューを通して、深澤社長の「誠実さ」と「実行力」に胸を打たれた。長年の慣習を疑い、無駄を削ぎ落としながらも、先代から受け継いだ「社員を大切にする」という本質的な思いは揺るがない。「人」への投資を惜しまず、働きやすい環境を整えながら着実に利益を創出する手腕は、多くの中小企業にとって大いに参考になるはずだ。10年後の売上高200億円という目標に向け、次々と新たな仕組みづくりに挑む同社は、今後もますますの変革を遂げることだろう。

深澤友志/1979年栃木県生まれ。2003年に東京農工大学工学部を卒業後、株式会社すかいらーく(現・株式会社すかいらーくホールディングス)に入社。2007年、株式会社フカサワに入社。2013年同社取締役に就任後、常務、副社長を経て、2017年に代表取締役に就任。