
創業から80年、大阪・泉州の地でタオルの製造を手がけてきた株式会社成願。日本の繊維産業全体が縮小傾向にある中、同社は問屋を通じた従来の流通構造から脱却して通信販売やSNS、外部企業との協業を活用した新たな販売戦略へと舵を切っている。単なる「モノ」としてのタオルではなく、良質な「体験」を消費者に直接届ける。安価な海外製品が台頭する厳しい市場において、「唯一無二」の存在を目指す代表取締役の仙波一昌氏に、老舗メーカーの生き残り戦略と今後の展望を聞いた。
商社から転身し直面した流通構造の大きな変化
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされましたか。
仙波一昌:
最初は商社へ入社しました。将来の選択肢の一つとして海外で働きたいという気持ちがあったためです。その後2000年頃に弊社に入社しています。
入社後は、2007年に代表へ就任するまでの約7年間、製造部門も含めて社内の業務を一通りすべて経験しました。中でも特にやりがいを感じたのは、新規得意先の開拓営業です。当時はある程度固定された顧客基盤でしっかりとした業績を上げていたものの、時代の流れでなくなってしまった会社もあり、業界の変化を肌で感じた時期でもありました。
ーー代表に就任された当時、どのような課題感を抱いていましたか。
仙波一昌:
お客様に長く繰り返し使っていただける商品を提供したいという気持ちを強く持っていました。しかし、当時はタオル業界を取り巻く流通構造が大きく変化し、問屋が減少しつつある過渡期だったのです。問屋を通さずに直接販売しなければならず、手間や費用がかかっても自分たちで商売を開拓していく形へと変えざるを得ませんでした。倒れそうなくらい厳しい環境の中で、いつか国内外さまざまな場所で商売を展開したいという思いも抱いていたことを覚えています。
創業80年の技術を強みに縮小市場で唯一無二の存在へ

ーー改めて、貴社の事業内容と独自の強みについて教えてください。
仙波一昌:
弊社は1946年の創業以来、約80年にわたりタオルの製造を手がけています。強みは、安定して供給できる力と、企画開発力です。タオルの織機を使ってタオル以外のものを織るなど、幅広い製品をつくることができます。図面上のデザインを織物で表現するためには製造部門の高度な技術が不可欠であり、長年蓄積された現場の技術力こそが、弊社のものづくりを支える大きな強みとなっています。
ーー現在のタオル業界を取り巻く状況について、どのようにお考えですか。
仙波一昌:
日本のタオルの国内需要は海外製が約70パーセント以上を占め、繊維産業全体が縮小傾向にあります。また人口減少に伴い、需要全体が減少しているのが現状です。安価なものを求める層が多数を占める中、大量生産や大量消費のビジネスモデルでは国内タオル製造業の存続が困難になりつつあるでしょう。
そうした厳しい状況の中、私たちは独自の取り組みを通じて「唯一無二」のメーカーとして選ばれる存在を目指しています。問屋に卸せば売れるという従来の流通構造は変化しました。私たちの規模の会社が生き残るには、昔ながらの製造業の枠組みに固執していては手遅れになります。これからは独自の販売力の強化やSNSの活用を通じ、消費者に直接自社の魅力を伝えていくことが不可欠だと考えています。
モノではなく「体験」を売る新たな流通戦略への手応え

ーー貴社の考える新しい流通戦略についてお聞かせください。
仙波一昌:
単にモノを売るのではなく、商品が使われる「体験」から逆算して接点をつくることです。以前、京都や出雲にある高級ホテルに宿泊した際、そこで使われていたタオルは非常に質の高いものでした。お客様は施設で心地よい体験をした後、ホテル内の売店でそのタオルを買って帰ります。価値をしっかりと体感できる場所へと商品を直接流通させていく手法に手応えを感じています。
ーー商品づくりで大切にしていることは何でしょうか。
仙波一昌:
実際に使っていただければ真の価値が伝わります。ある企画で弊社のタオルを使っていただいた方から、「お風呂から上がるのが楽しくなった」という言葉をいただきました。抜群の吸水性があるからこそ、入浴が豊かなリラックスタイムに変わります。そうした良さは店頭に並べるだけでは伝わりません。だからこそ、私自身が「使ってみて良い」と思えるものだけを厳選しています。バイヤーに「自信を持って差し出せるもの」を追求し、本当に価値のあるものづくりにこだわっているのです。
外部企業との協業とデジタル活用による新たな顧客接点の創出

ーー現在、新たに取り組まれていることについて教えてください。
仙波一昌:
外部企業と積極的に協業し、新たな価値を生み出すことです。大手企業の技術を取り入れた繊維を開発した企業と、数年前から共同で商品開発を行っています。その縁もあり、万博関連商品の制作を任せていただきました。カンファレンスに共同出展し、弊社の広報活動にも好影響がでています。単独では難しいことも、他社と組むことで大きな可能性が広がるのです。
ーー他にも新たに取り組まれていることはありますか。
仙波一昌:
感染症拡大の影響で展示会が中止になったことをきっかけに、2020年頃からクラウドファンディングを始めました。これは単なる資金調達の手段ではなく、新商品の広報の場でもあります。消費者の方からの生の声を直接拾い上げるための、貴重な接点となっているのです。そこから新しい発想が生まれるケースも多く、非常に有効な手段だと実感しています。
外部の知見を吸収し新たな流通を開拓する組織へ
ーー採用についてはどのような人材を求めていますか。
仙波一昌:
今後、新しい流通開拓に向け、営業部門の体制強化を図っていきたいと考えています。新しい届け方や共同開発といった道をさらに広げていくためです。ずっと社内に留まっていては新しい発想は生まれません。そこで必要となるのが、人の話を素直に聞き、外部の知見を積極的に吸収できる人材です。新しい流通開拓や挑戦に前向きに取り組める方を採用したいと考えています。
ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。
仙波一昌:
80年積み上げてきた技術とノウハウを最大限に活かし、しっかりとした収益力を持つ企業として進化し続けることが大切ですね。業界全体が厳しい状況にあるからといって、ただ細々と伝統を守るだけでは事業として成り立ちません。これからも外部との交流を深めながら同じ方向を向き、「『成願』って変わったことやってるな」と思われるような、唯一無二の存在を目指して挑戦を続けていきます。
編集後記
創業80年の歴史を持ちながらも、現状に甘んじることなく危機感を抱き、次々と新たな一手を打つ仙波社長の姿勢が印象的だった。タオルという日常的な品を「心を動かす体験」へと昇華させ、外部企業との協業やインターネット活用といったアプローチで消費者に直接届ける戦略。それは、縮小する製造業界において一つの道標となる。従来の枠組みを超え、独自の立ち位置を築こうとする同社は今後もさらなる飛躍を遂げる。

仙波一昌/1971年、愛媛県生まれ。神戸大学を卒業後、1994年に大手商社へ入社し、鉄鋼原料の輸入および国内流通業務に従事する。2000年に株式会社成願へ入社し、新規得意先の開拓を牽引。2007年、同社代表取締役に就任した。現在は大手企業との共同開発やクラウドファンディングの活用など、新たな流通開拓と新規分野への挑戦を積極的に推し進めている。