※本ページ内の情報は2026年8月時点のものです。

大阪を拠点に鉄スクラップの買い取り、加工、販売を行う大阪故鉄株式会社は、長きにわたり関西圏で実績を積んできた。代表取締役の矢追大祐氏は、家業である同社を継ぐことは、かつては考えていなかったという。前職での厳しい環境を経て、大阪故鉄株式会社に入社した同氏を待っていたのは「子どもに自分の仕事をいえない」と語る社員の姿だった。さらには、10年以上若手が入社していないという深刻な人手不足。そのような状況からいかにして家族に誇れる組織へと改革し、独自の調達・販売基盤を構築するに至ったのか。変革の歩みと、新たに迎える「新卒第一期生」への期待に迫る。

厳しい環境を経て家業へ「子どもに誇れない」という言葉が変えた意識

ーーまずは、貴社に入社された経緯をお聞かせください。

矢追大祐:
父からの誘いがきっかけです。もともと家業を継ぐ意思はなく、大学卒業後は住宅設備関係の会社に営業職として就職しました。しかしそこは深夜まで働く厳しい環境だったため、子どもが生まれるタイミングで転職を考えていたのです。そんな折に、父から「うちの会社を選択肢に入れてみたらどうだ。夕方5時に帰れるぞ」と声をかけられました。この言葉が決め手となり、入社を決断した次第です。

ーー入社後はどのような業務を担当されたのですか。

矢追大祐:
現場作業と、顧客の新規開拓を担当しました。当時は「社長の息子」というプレッシャーがあり、「ゼロから実績をつくって認めてもらおう」と必死に営業活動を行いました。その結果、徐々に実績を上げることはできました。しかし、現場や営業の仕事を通じて社内の深刻な課題に直面することになったのです。

ーーそれはどのような課題だったのですか。

矢追大祐:
自社の仕事に対する社員の意識と、採用状況です。あるとき、工場の責任者から「子どもに自分の仕事を“スクラップ屋”だといえない」と打ち明けられました。立派に働いているはずの社員が、自分の仕事に胸を張れない現状に大きなショックを受けたのです。この言葉を聞いて「社員が家族に胸を張れる会社」をつくらなければいけないと強く決意しました。

10年間の採用ゼロを覆す リアルを伝える採用とボトムアップの環境改善

ーー「社員が家族に胸を張れる会社」をつくるために始めたことをお聞かせください。

矢追大祐:
まずは、採用活動の抜本的な見直しです。私が入社した当時は、10年以上も若手が入社しておらず、私より下の世代がいない状態でした。ハローワークに求人を出して待つだけの採用では、将来、上の世代が抜けたときに会社が回らなくなると危機感を抱いたのです。そこで私が専務になったタイミングで採用権をもらい、スマートフォンに慣れ親しんだ若い世代に直接届くよう、Webの求人媒体を活用した採用へと大きく切り替えました。

また、若手の採用と定着率の向上につながる工夫も取り入れました。たとえば、ミスマッチを防ぐために、面接では「本当にしんどいよ」などと現場のリアルな情報を包み隠さず伝えています。また、面接には指導役となる社員にも同席してもらい、お互いの相性を確認する場にしました。現場の厳しさを事前に開示し、教育担当との相性を見ることで、入社後の人間関係による早期離職を防ぐ仕組みをつくったのです。

ーー受け入れ態勢はどのように整えたのですか。

矢追大祐:
「働きやすさ」と「働きがい」の両立を図りました。まず働きやすさの面では、年1回の1on1を通じて社員の意見を吸い上げています。休日の増加や社内設備の改修など、ボトムアップによる環境改善を進めました。

一方、働きがいの面では、営業担当者に大きな裁量権を与え、自ら考えて動ける環境を構築しています。その結果、従業員の約3分の1がリファラル採用で入社するようになりました。休日でも会社のイベントに家族を連れてきてくれたり、定年退職後も顔を見せに来てくれたりする温かい組織へと変化しています。

他社が避ける広域ネットワーク 独自の強みで挑む新たな市場


ーー事業面における貴社の強みを教えてください。

矢追大祐:
鉄スクラップの「地域ごとの価格差」を活かした独自の広域ネットワークです。かつては大阪で集めたものを大阪で販売するのが主流でした。しかし鉄の相場は地域によって異なります。少し遠方であっても高く売れる地域に販売し、仕入れも大阪以外のエリアに広げれば利益が生まれると考えたのです。

遠方との取引には輸送の手配など時間とコストがかかるため、地元での商売にとどまる企業が多いのが実情です。しかし、私たちはその手間を惜しみません。中部や北陸、中四国といった大阪以外の地域での独自の仕入れ・販売網を開拓してきました。他社が避ける広域エリアにあえて踏み込んでいることが、現在の事業基盤につながっています。

東京進出と「新卒第一期生」の採用 次世代とつくる新たな歴史

ーー今後の展開や構想についてはどのようにお考えでしょうか。

矢追大祐:
二つの構想があります。一つは、現在進めている本社工場の建て替え。もう一つは、市場規模の大きい東京への進出です。工場を建てるわけではありませんが、東京に営業所を開設し、圧倒的な市場の中で私たちの力を試してみたいと考えています。

ーーその構想を実現するために、どのような人材を求めていますか。

矢追大祐:
受け身で指示を待つのではなく、「自分ごと」として物事をとらえて自ら考えられる人ですね。弊社では現在、2027年卒に向けた「新卒第一期生」の採用活動を開始しました。これからの大阪故鉄の新たなステージをともにつくり上げ、そして将来の幹部候補として活躍する意欲ある方とお会いできるのを楽しみにしています。

編集後記

「子どもに自分の仕事を誇れない」。その一言から始まった大阪故鉄の組織改革。社長の行動力は、採用難と人手不足に悩む多くの企業にとって大きなヒントとなるだろう。ボトムアップの環境改善によって社員が家族を連れてくる温かい組織へと生まれ変わった。同社は今、独自の広域ネットワークを武器に、東京進出という新たなステージへ向かおうとしている。「新卒第一期生」とともに次世代のリーダーたちがどのような未来を描いていくのか、今後の挑戦から目が離せない。

矢追大祐/1979年、大阪府生まれ大阪府在住。2002年、近畿大学卒業。同年、株式会社大五に入社。2004年、大阪故鉄株式会社に入社。2016年、専務取締役に就任。2019年、代表取締役に就任。公職として一般社団法人日本鉄リサイクル工業会関西支部青年交流会の会長に就任。