
子どものための体操教室を全国展開し、業界初となるIPOを果たしたネイス株式会社。代表取締役社長の南友介氏は、かつてオリンピックを目指した体操選手であり、異業種の営業職でトップセールスを記録した経歴を有する。コロナ禍での赤字という危機を乗り越え、なぜ同社は上場という道を切り拓くことができたのか。未経験者をプロの指導者に育てる独自の仕組みと、子どもたちの未来をつくる「サードプレイス」の提供にかける思いに迫った。
挫折とトップセールス経験から見つけた「真の顧客課題」
ーーまずは、キャリアの原点を教えていただけますか。
南友介:
競技生活での挫折と、その後の営業職での経験が私の原点です。私は5歳から体操を始め、オリンピックを目指して強豪校へ進学しました。しかし、同級生がアテネオリンピックで活躍する中、怪我で大きな挫折を経験し、そのまま引退を決断したのです。
その後、恩師の紹介でOA機器の販売会社へ入社し、営業職に就きました。そこで学んだのは、相手が何をほしいと思っているかを汲み取り、私たちがどう提供できるかを考え抜くことの重要性です。たとえば、いきなり事務機器を提案することはしません。「パソコンが動かなくて困っている」といったお客様の細々とした課題を見つけます。そして、その課題を解決することで信頼関係を構築していきました。この「顧客の課題を解決する」という営業の基本は、どのようなビジネスでも普遍的なものだと学びました。
ーーそこから、なぜ起業の道を選ばれたのでしょうか。
南友介:
「会社員として決められた時間に出勤して決められたことをする」という働き方が私にはどうしても合わないと感じ、自分で生計を立てるために起業を決意しました。当初は「体育の家庭教師」というビジネスモデルを思いつき、ポスティングをして事業をスタートさせました。しかし、この手法は全くうまくいきませんでした。「わざわざ家に来てもらうまでもない」とお客様から言われたのです。そこで、レンタルスタジオを借りて「来てもらう」形式にしたところ、問い合わせが殺到しました。自分が良いと思う手法ではなく、お客様が望む形に合わせる。この失敗からの気づきが、需要に応えた現在の教室展開へのシフトにつながっています。
未経験者を即戦力に変える 「2人のお客様」を満足させる仕組み

ーー貴社の事業の強みについて教えてください。
南友介:
数百人規模のインストラクターを育成して未経験者を即戦力化する、独自の育成プログラムがあることが最大の強みといえます。実は、弊社の先生の95%は体操経験者ではありません。それでも高い顧客満足度を得られているのは、この強固な仕組みがあるからです。入社後には体系化された研修を用意しており、現場に出た後も「体験からの入会率」などのデータを定量化し、状況を可視化しています。
また、「親御様」と「お子様」という、2人のお客様を相手にしていると強く意識している点も特徴です。特に親御様の視線のなかで堂々と指導できるかが重要になるため、採用面接の時点で、とっさに子どもを褒める模擬演習を行って適性を見極めています。さらに、子どもが飽きないように進級テストを細分化し、「できた」という実感を得やすくする工夫も取り入れました。目に飛び込んでくるカラフルな自社開発の器具など、2人のお客様を満足させる徹底した仕組みづくりにこだわっています。

ーー新たに発達支援事業を立ち上げられたとうかがいましたが、その狙いは何ですか。
南友介:
体操教室を運営していく中で、発達に特性のあるお子様をお断りせざるを得ないケースが出てきていました。これでは私が掲げる「子どもの未来をつくるサードプレイス」というビジョンに反してしまいます。そこで、行政の枠組みを活用し、運動療育に特化した発達支援教室「ネイスぷらす」を立ち上げました。私たちが得意とする「体を大きく動かす」粗大運動を安全に提供できるチェーンはまだ少なく、大きな社会的意義があると感じています。
コロナ禍の危機を越え上場企業として「新たな仲間」を集める
ーー同業界でも数少ないIPOを果たした最大の要因は何だとお考えですか。
南友介:
コロナ禍で創業以来初めての赤字を経験し、「従業員やそのご家族に安心を提供できる会社をつくらなければならない」と強い危機感を抱いたことがはじまりです。あの苦しい時期、子ども向けの体操教室は専門チェーンが存在せず、ビジネスとして成り立つと思われていない側面がありました。実際、内定を出した学生から「親に体操教室への就職を反対された」と辞退されたこともあり、社会的な信用を得るためには上場が必要不可欠でした。IPOはゴールではなく、これから一緒に事業を伸ばしていく「新たな仲間」を集めるための決意の表れであり、スタートラインだと位置づけています。
ーー今後はどのような人材を求めますか。
南友介:
物事を他責にせず、自責で考えられる方、そして自分を客観視する「メタ認知」ができる方です。弊社は中途採用がメインですが、過去の成功体験に固執する方は、入社後に苦労する傾向があります。そうではなく、「どのようなフィールドでも戦える力を伸ばしたい」「ここで新しい挑戦をしたい」と覚悟を持てる人材を求めています。
国内500店舗と海外展開で目指すサードプレイス創出
ーー最後に、今後の展望をお聞かせいただけますか。
南友介:
直近の4、5年の中期的な目標として、主力の体操教室を国内500店舗、発達支援教室を30店舗へと一気に拡大していく計画です。さらに、国内における少子化を見据え、今年の夏からはマレーシアを皮切りにASEANへの海外展開も本格始動します。しかし、単なる店舗数の拡大がゴールではありません。
根底にあるのは「社会にはまだまだサードプレイスが足りていない」という強い課題意識です。子どもたちが行きたくなる、自己肯定感を高められる居場所をひとつでも多くつくり出すことが最大の目的です。体操教室や発達支援教室という既存の枠にとらわれず、「サードプレイスをつくり続ける組織」として絶えず進化し、社会に新しい価値とインフラを提供し続けていきます。

編集後記
トップセールスの経験と「体育の家庭教師」の挫折から、全国展開を成し遂げた同社の代表取締役社長、南友介氏の軌跡は挑戦の連続である。未経験者をプロに育てる緻密な仕組みと、親と子という2人のお客様に寄り添う徹底した姿勢は、ビジネスモデルとして秀逸だ。既存の枠組みにとらわれず「サードプレイスをつくり続ける組織」として進化し、日本のみならず世界へ打って出る同社の確信に満ちたビジョンは、これからの社会がどう豊かに変わっていくのか、読者に大きなワクワク感と期待を抱かせる内容となっている。今後のさらなる飛躍が楽しみだ。

南友介/1980年、大阪府生まれ。元体操選手。岡山県の関西高等学校と、日本体育大学で体操競技に打ち込み、全日本選手権種目別準優勝などの実績を持つ。怪我により競技を引退後、大手のOA機器販売会社や広告会社を経て独立。2010年にネイス株式会社を創業し、「ネイス体操教室」や発達支援教室「ネイスぷらす」を全国展開。2026年6月、体操教室業界初となる株式上場を果たす。