
2年前の2024年に取材した当時、「新規事業への注力」という展望を掲げていた加藤軽金属工業株式会社。金属加工メーカーとして長年の歴史を有する同社は、その言葉どおり確かな歩みを進めており、現在は「アルミ+α」の価値を追求し、最先端の放熱塗工技術から農業を支えるソーラーシェアリングまで、次々と新規事業を打ち出している。かつて「全員が作業員」だった組織は、いかにして自律的に動く集団へと進化したのか。社会課題の解決と業界の持続可能性を見据える代表取締役社長の加藤大輝氏に、当時の構想から現在に至るまでの変革の裏側と、さらなる未来への展望を聞いた。
売上高目標よりも「社会貢献」への使命感が牽引する新規事業
ーーまずは、現在注力している事業について教えてください。
加藤大輝:
新規事業として複数の開発が着実に進んでいます。たとえば、従来の製品より放熱能力が150%優れており、安価に製造できる塗工技術の実用化です。これはお客様の利益に貢献する武器として活用していただく方針です。また、最先端モーター向けの異種金属接合技術の共同開発も進めています。そのほか、AIによるミクロン単位の画像検査技術など、新たな柱が育ちつつあるのです。
さらに、一般向けの領域では「ソーラーシェアリング」の取り組みも進行中です。農地の上に作物の妨げにならない形で太陽光パネルを設置し、発電によって農家の収益を最大で4倍ほどに引き上げる仕組みです。エネルギーと食料は安全保障上不可欠であるため、事業として形にしていきたいと考えています。
ーー多岐にわたる事業の発案から実行まで、どのように進めているのですか。
加藤大輝:
新規事業は、ある程度芽が出るまでは基本的にすべて私が一人で担います。「これはいけそうだ」となった段階で社員に加わってもらうのです。発案の根底には「アルミに+αの付加価値をつけて、業界をしっかり今後に残していく」という強い思いがあります。また、私自身に「電力を食うアルミ事業を日本で残していくために電力や蓄電に関わる事業を展開したい」という明確な軸があるため、自ら各地へ赴き、情報を集めて必要な技術を結びつけています。
「売上高100億円」という宣言を出していますが、数字自体に固執しているわけではありません。売上高があっても利益が伴わなければ意味がないからです。数字を追うよりも、私たちが事業規模を拡大することが社会貢献につながるのであれば挑戦する、というスタンスですね。利益を確保しつつ、社会の役に立つ体制を構築することが何よりも重要だと考えています。
「全員作業員」からの脱却 内省が育む自律型組織

ーー新規事業の拡大に伴い組織体制にも変化はあったのでしょうか。
加藤大輝:
以前の弊社は、極端にいえば全員が作業員のような状態でした。しかし、社会のニーズに応えるためには、自分で考えて行動できる人材が不可欠です。そこで数年前から、主任クラス以上の社員全員にコーチングを受講させています。
「なぜ自分はこう感じたのか」「どうして不満を抱いたのか」など、自分の心と日々向き合い自己理解を深める。この内省の習慣化により、社員の視座が着実に上がっていくのです。
ーー視座が上がったことで、具体的な変化は生じましたか。
加藤大輝:
自分の業務しか見えていなかった状態から変化しましたね。部署、会社、お客様、そして社会とのつながりを俯瞰して捉えられる社員が増えたのです。その結果、主体的な行動が次々と生まれています。
たとえば、社員の発案で地元の町おこしに貢献する動きが生まれており、弊社で蟹江町のマスコットキャラクター『かに丸くん』の型をつくってアルミを流し込んだアイテムを製作しました。また、地域の祭りに社員が自発的に参加するようにもなっています。会社が強制するのではなく、社員自らが積極的に声を上げ、周囲を巻き込みながら動ける環境ができあがりつつあります。これが弊社の最大の強みである組織力につながっているのです。
業界を持続可能な形で未来へ残すために
ーー今後の注力テーマである新技術の開発は、どのように進めていくのでしょうか。
加藤大輝:
日本の製造業が今後も生き残るためには、優れた技術で外貨を稼げる輸出製品をつくる必要があります。すでに台湾へ赴き、半導体関連やデータセンター関連の企業へ自社の放熱技術を提案するなど、海外進出の動きを強めています。今後は半導体産業が盛んな地域へ、さらにアプローチを広げていく方針です。
ーー最後に、会社としての今後の展望をお聞かせください。
加藤大輝:
一番の目標は、この業界と会社を持続可能な状態にすることです。社会から求められる製品をつくり続けるとともに、リサイクルが国内で循環する仕組みをつくりたいですね。現在も、樹脂とアルミが混ざった製品から樹脂を分解し、アルミをリサイクルに回す技術を有する企業への支援を行っています。
また、アルミの製造には大量の電力を消費します。将来的には、その電力を自社で創出できる体制の構築が理想です。誠実な商いを続けながら、社会の維持発展に貢献できる企業であり続けたいと考えています。
編集後記
加藤氏の言葉からは確固たる使命感がひしひしと伝わってきた。単なる自社の利益追求にとどまらない「社会と業界をどう持続させていくか」という思いだ。トップが孤独なゼロイチの立ち上げを担い、視座を高めた社員たちがそれを大きなプロジェクトへと育て上げる。内省を促す独自のコーチングによって「全員作業員」から脱却した。同社は、自律的に動く組織力を武器にアルミの可能性を次々と拡張している。最新技術を携え、国境を越えて打って出る老舗メーカーの次なる一手から、今後も目が離せない。

加藤大輝/1990年、愛知県生まれ。慶應義塾大学卒業後、機械商社、ハラル食材輸入事業、パーソルグループの専門家紹介事業に従事。約200社の経営改善・新規事業支援を経験し、2020年に家業の加藤軽金属工業株式会社へ参画。アルミ押出技術とディープテックを軸に事業変革を推進する。