※本ページ内の情報は2026年8月時点のものです。

「ホテルオークラ京都」と「からすま京都ホテル」の2館を運営し、現在はスタンダード市場にも上場している株式会社京都ホテル。旧長州藩邸の跡地に佇み明治時代に創業して以来、138年間にわたり京都の地で歴史と伝統を刻んできた老舗企業だ。同社のトップを務める清水博氏は、1988年に日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)へ入行し、37年間にわたって融資や投資、プロジェクトファイナンスの第一線で活躍してきた多彩な経歴を持つ。「伝統を守るだけでなく、常に新しいことにも挑戦する」と語る同氏に、金融機関で培った経営目線と、時代を超えて愛され続けるホテルづくりの真髄、そして今後の展望について話を聞いた。

外部から企業を支援する立場から 当事者として自ら経営を担う立場へ

ーーまずは、ご自身のキャリアのスタートについてお聞かせください。

清水博:
就職活動の際、特定の業種に絞りきれず「いろいろな産業に触れてみたい」という思いがあり、1988年に日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)へ入行しました。数ある銀行の中でも、同行は国の銀行として非常に特殊な立ち位置にありました。融資した資金がどのように使われたかを現場でしっかりと確認することが必須業務となっており、実際に工場やホテルなど幅広い現場へ足を運ぶ機会に恵まれたのです。社会は企業活動によって成り立っていますから、さまざまな産業の現場に直接触れ、企業そのものを深く学べる点に大きな魅力を感じました。

ーー銀行時代の経験で、特に印象に残っていることは何でしょうか。

清水博:
経営が厳しい状況にある企業でも、ポイントを突いて変革すればうまくいくと肌で学べたことです。私はこれまで融資や投資のほか、プロジェクトの成否によって返済が決まるプロジェクトファイナンスなど、多岐にわたる業務に携わってきました。中でも印象深かった一例としては、関西の大規模テーマパークの再生案件が挙げられます。第三セクターとしてスタートした当初はさまざまな問題が重なり、低迷期が続いていました。しかし事業が持つ大きなポテンシャルを見込み、他の銀行と協調して投資と融資の両面からバランスシートを抜本的に見直すファイナンスを実行したのです。同時に、本場からプロの経営者を招へいして体制を刷新しました。当時は許されなかった日本独自のキャラクターを導入するなど、日本の市場や家族連れのニーズに合わせた柔軟なマーケティングを展開し、見事に事業が再生していく過程を体感できたことは、非常に良い経験となりました。

138年の歴史とおもてなしが生む親子3代からの信頼

ーー貴社の現在の事業内容について教えていただけますか。

清水博:
弊社は「ホテルオークラ京都」と「からすま京都ホテル」の2館を経営するスタンダード市場上場のホテル企業です。ホテルオークラ京都は、大小13の宴会場や8つの直営レストラン、結婚式場を備えた総合型のグランドホテルであり、からすま京都ホテルも宴会場やレストランを完備しており、いずれのホテルも交通至便な立地にあります。

この2館を支える最大の強みが、138年にわたり紡いできた歴史そのものです。私たちは施設(Accommodation)、料理(Cuisine)、サービス(Service)において最上のものを目指す「Best ACS」を掲げていますが、中でも特に「サービス」にはご注目いただきたいと思います。先輩から後輩へ脈々と受け継がれてきた、自然体でお客様に寄り添うおもてなしの心が多くのリピーターを生み、「ゆっくりと落ち着けて大変満足できた」との高い評価に結びついているのです。

ーー長きにわたる歴史の中で、お客様からはどのような反響がありますか。

清水博:
ありがたいことに、非常に厚い支持をいただいています。親子3代にわたって結婚式を挙げられたお客様がいらっしゃるなど、地元京都からの信頼が厚いのが特徴です。長きにわたり当ホテルのサービスに深く満足していただいている表れだと受け止めています。

京都の人々と共に歩む140年 伝統と革新で挑む、次世代のホテルづくりと組織のあり方

ーーホテル経営において最も印象に残っている出来事を教えてください。

清水博:
コロナショックにより稼働が激減し、非常に厳しい経営状況に直面した時のことです。採算だけを考えれば一旦全てのレストランを閉じるという選択肢もありましたが、宿泊のお客様や通りを行き交う人のためにも「1階(カフェ『レックコート』)の灯りだけは絶対に消さない」という強い決意で営業を継続しました。すると、地元のお客様から「いつか必ずお客さんは戻るからその時まで頑張って」と温かいお声がけを多数いただいたのです。この経験を伝え聞いて、私たちがどれほど京都の人々に支えられているかを改めて深く胸に刻みました。

ーー現在の採用方針や組織づくりについてはどのようにお考えですか。

清水博:
今年の春は40名強の新卒採用を行っており、未経験の20代の若手を自社でイチから育て上げることを大切にしています。若手社員が現場で懸命に働き、お客様から感謝され、また時には叱咤激励されることによって成長していく姿は、組織にとって非常に心強いものです。従業員が自らの仕事に誇りとやりがいを持つことが、結果として「顧客満足」につながります。お客様の満足と従業員の満足が好循環する状態をつくることが何よりも重要です。この考えのもとで組織づくりが進められた結果、直近では従業員エンゲージメントの数値が高まり、離職率も低下傾向にあります。

ーー最後に、今後の展望やビジョンをお聞かせください。

清水博:
2年後に迎える創業140周年に向けて、お客様と従業員の満足が循環する歴史と価値を、改めて社内で共有し直す方針です。また、インバウンド6000万人時代を見据え、ホテルオークラ京都の強みである充実した宴会場、良質の料飲提供力、京都を広く眺望できる客室などを活かし、海外のMICE(国際会議や企業研修などのビジネスイベント)需要の取り込みにも一層の注力をしていきます。

そしてもう一つの柱である「からすま京都ホテル」についても長年ご愛顧いただいている常連のお客様や企業・学校などの団体様のニーズにもしっかりお応えし、高稼働率を維持していきたいと思います。価格帯や役割の異なるこの2館があることで、企業として非常に良いバランスが保たれていると考えています。「伝統を守るだけでなく、常に新しいことにも挑戦する」という京都ならではの姿勢で、今後も両ホテルのアップデートを続けていく覚悟です。

編集後記

数字の重要性を熟知しながらも「人の心の動き」を何より大切にしている点が非常に印象的だった。従業員のやりがいを引き出し、地元客からの温かい声援を組織の力に変えていく姿には、地域と共に歩むトップとしての揺るぎない覚悟と手腕がうかがえる。140周年という大きな節目に向け、顧客と従業員の双方が満たされる好循環を生み出しながら、同社の飽くなき挑戦はこれからも続くことだろう。

清水博/1964年大阪府生まれ。京都大学経済学部卒。1988年日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)入行。常務執行役員関西支店長、取締役常務執行役員などを歴任し、2025年6月より株式会社京都ホテル代表取締役社長に就任。