
国内外で多様な教育サービスを展開し、圧倒的な教室数とブランド力を誇る株式会社やる気スイッチグループ。同社を率いる代表取締役社長の高橋直司氏は、大学卒業後、資格試験の勉強と並行して飛び込んだ塾業界で個別指導の大きな可能性を見出し、現場の教室長からキャリアをスタートさせた。入社後わずか7年で取締役に就任し、幼児教育部門の立て直しを成功させ、2018年に社長として第二創業を牽引した。組織改革や知覚品質の向上、さらに教室内にとどまらない新たな教育体験の創出など、次々と革新的な取り組みを形にしている。そんな高橋直司氏のこれまでの歩みと独自の教育メソッド、そして業界全体を見据えた未来への展望を紐解いた。
資格勉強の傍らで見出した「個別指導塾」の圧倒的な可能性
ーーまずは、貴社に入社された経緯をお聞かせいただけますか。
高橋直司:
「個別指導」というビジネスの面白さと収益性の高さに気づいたことがきっかけです。大学卒業後、私は公認会計士資格の勉強をしながら、塾で働いていました。塾の仕事は午後から始まるため、午前中を勉強に充てられるという理由からでした。当時は集団塾と個別指導塾の双方を担当していましたが、やっていく中で「個別指導」の面白さに気づきました。
集団塾の場合、教室という箱を用意して、講師を配置するために、授業を受ける生徒の人数にかかわらず一定のコストがかかります。一方で個別指導は、生徒が授業を申し込んだあとに講師をつけるというオンデマンドに近い形です。当時のデータを見ても、個別指導を展開している会社のほうが利益率が高いという事実がありました。
何より驚いたのは、個別指導のほうが、圧倒的に子どもの成績が上がりやすいということです。こちらが思いをもち、一人ひとりを気にかけて接することで、子どもたちの成績が上がり、見違えるほど成長する姿を見ることに大きな楽しみを感じていました。しかし、当時の関東地方では、個別指導は授業料が高いというイメージがあり、本格的なマンツーマンや1対2の指導はまだ全国に広まっていなかったのです。そこで、大企業が参入しづらいこの領域は、フランチャイズ展開によって必ず全国に伸びていくと予測し、そのうえで千葉県でフランチャイズを始めて1年目だった前身企業の可能性に惹かれて入社を決めました。

ーー入社後はどのようなキャリアを歩まれたのですか。
高橋直司:
入社して、最初の4年間は教室の責任者やエリアマネージャーとして、神奈川県全体の統括などを務めました。その後の3年間は新規開校の責任者を任され、11カ月ほどで投下資本を回収する仕組みを構築して、年間20校ほどのペースで開校を進めました。現場での指導から組織の管理、そして事業拡大の最前線に立ち続け、これらの実績を評価していただいたことで、入社から7年後の2005年には取締役に就任しています。
当時の躍進を支えたのは、生徒を集めるための確かな「勝ち筋」を見つけたことです。かつての塾は教えることが仕事といったような競合が多く、子どもや保護者さまの深層心理まで把握しきれていませんでした。しかし保護者には、「子どもの頑張りを褒めてほしい」「塾や学校でしっかり話を聞いてほしい」という強い要望があります。私たちはそこに寄り添い、面談や電話連絡を通じて一人ひとりの課題に向き合い、保護者の心配事に耳を傾けました。家庭を巻き込んで努力する環境をつくることで顧客満足度が高まり、紹介が生徒を呼ぶ好循環が生まれたのです。
また、全国3000カ所以上の商圏を調べ上げる徹底した市場調査も、事業拡大の大きな推進力となりました。当時の塾は駅前への出店が主流でしたが、保護者には「繁華街に子どもを通わせたくない」という本音があります。そこで競合が少なく、保護者が安心して子どもを預けられる住宅街の幹線道路沿いなどを中心に出店しました。現場で顧客の声に真摯に向き合い、独自の戦略で期待に応え続けたことが、自身のキャリアを切り拓く結果につながったのだと思います。
ーー次なるステップとしては、どのような領域に挑戦されたのでしょうか。
高橋直司:
2008年からの10年間は、「チャイルド・アイズ」や英語学童の「Kids Duo」をはじめとする幼児教室の立ち上げと立て直しを主導しました。英会話事業は以前からありましたが、当時は数教室規模にとどまっていたのです。
そこで、個別指導で培ってきた「子ども一人ひとりを見る」「一つひとつのご家庭をみる」という運営手法を幼児部門にも導入し、一人ひとりの成果を挙げることに注力しました。あわせて、コスト構造を見直し、論理的に早期の損益分岐を越える仕組みを構築しました。そういった取り組みの結果、「小さい頃から教育に投資しよう」という保護者の要望が高まってきた時代背景とも重なり、幼児部門の売上高は大きく伸長したのです。その後2013年には子会社の社長に就任し、そこから数年で多数の幼児教育ブランドを立ち上げていきました。
第二創業の幕開け 組織改革と「知覚品質」の向上でブランドを再定義する

ーー経営トップとして会社全体を牽引する立場になり、どのような変革を実行しましたか。
高橋直司:
2018年にグループ全体の社長に就任し、私としては「第二創業期」を迎えたという思いでさまざまな変革を行いました。まずは、ビジネスの本来の目的を再定義したのです。保護者は子どもの幸せのために塾にお金を払っているにもかかわらず、成績が上がらずに家庭内が不穏な空気になってしまうような本末転倒な状況があってはなりません。
そこで、全ブランドにおいて「子どもの成長と保護者に喜んでもらうこと」が確実に実現できる型と運用方法を定めたり、社内の組織設計や人事制度をいろいろと変革しました。たとえば社員が選ぶMVP制度の導入や、入社2年目までの新卒社員を対象としたアワード、良いチームを支える存在を表彰する「フォロワーシップアワード」の創設などです。こうした組織改革の結果、離職率は以前の半分ほどにまで低下しました。
ーー社内制度の変革に加え、対外的なブランディングにおいても変化はありましたか。
高橋直司:
特に大きく変えたのは「知覚品質」です。以前放映していたテレビCMは非常にインパクトの強いもので、知名度の向上には大きく貢献しましたが、生徒数増には繋がりませんでした。
そこで、私たちが提供している価値を正しく伝えるため、新たなブランド動画を制作することにしたのです。動画内では、単なる成績アップの訴求ではなく「子どもが毎日成長していく中で、家庭でも学校でも自ら学びたくなる環境をつくる」という私たちの教育に対する姿勢を前面に打ち出しました。この方針転換は保護者からの強い共感を呼び、動画公開後の問い合わせ数は大幅な増加を記録しています。
この変化の根底にあるのは、「世の中に真に必要とされるサービスをつくる」という経営者としての信念です。表面的な面白さで目を引くのではなく、子どもたちの成長とご家庭の豊かな時間をつくり出す。そうした本質的な価値を社員全員が共通の理念として持ち、生き生きと働くことが、結果として社会への貢献につながると確信しています。
教室の枠を超える教育体験「やる気メソッド」と多角的なアプローチ

ーー改めて、現在の貴社が展開する事業内容や強みを教えてください。
高橋直司:
現在は個別指導塾にとどまらず、英会話、幼児教育、プログラミング、スポーツなど、幅広い領域で多角的な教育ブランドを展開しています。全国のオーナー様と協力し、直営とフランチャイズ、さらには他塾も交えた提供体制によって、サービスを一気に全国へ広げている状況です。

こうした事業展開を支える最大の強みが、全教室の基盤として確立された独自の「やる気メソッド」にあります。これは、子どもたちに小さな成功体験を積ませて「自分でもできる」と客観視させ、自らやりたいことを探しに行くサイクルをつくる仕組みです。私たちが提供する価値は、単なる知識の詰め込みではありません。子どもの主体性を促す「自分力」、周囲との関係性を通じて意欲を身につける「共創力」、見えない未来や他人の気持ちを考える「想像力」を育むことに注力しています。このメソッドを通じて自立して学べる生徒を育成することが、結果として成績の向上と顧客満足度の高さにつながっているのです。
ーー現在、新たに展開している教育サービスはありますか。
高橋直司:
近年は教室の枠を超えた新たな取り組みも始めています。具体的には、子どもの力を引き出し、家族に豊かな時間を提供する「スタディツアー」をスタートさせました。これは、実例のひとつとしては、親子で長野県の国立天文台へ行き、子どもが宇宙や星について学んだあとに子どもが親に向けて授業をするというツアーです。子どもが親に何かを教える機会は日常にはなかなかありません。保護者は感動しますし、子どもはさらに頑張ろうと思えます。
他にも、福島県の「ブリティッシュヒルズ」での英語体験や、北海道での自然体験など、高い満足度を得ています。また、留学最大手のリアブロード社と提携し、中高生向けの短期留学や親子留学のサポートも始めました。テクノロジーの分野では、AIを活用した小論文の自動添削サービスを導入しています。子どもがAIを「楽をする」ために使うのではなく、フィードバックを早く的確にし、「成長する」部分にのみ活用するルールを徹底しています。高校1年生向けには、著名な経営者やさまざまな職業を知る機会、論理的思考のワークショップなどを通じて、自身の将来を見つめ直すキャリア教育のプログラムも提供しています。

ーー最後に、今後のビジョンと教育業界全体への思いをお聞かせください。
高橋直司:
2032年までに、「日本で教育といえばやる気スイッチグループ」といわれる存在になりたいですね。私たちはこれを「やる気スイッチグループ3.0」と呼んでいます。これまで、事業軸、組織軸、現場、経営という四象限の体制を整えてきましたが、教育のために必要なこととしてさらに強化していくのがブランディングと倫理観です。社内外に「やる気スイッチっていいよね」と思ってもらえる「共感資本」を貯めていくロイヤルカスタマー戦略と、教育に携わる人間として正しい心根をもつ倫理観を醸成することに努めていく方針です。
また、自社の成長だけでなく、教育業界全体にも貢献していく考えを持っています。教育業界は間接費がかさむ構造にあるため、現場で働く講師たちの給与水準が上がりにくいという課題があります。その解決策として弊社では業界再編にも取り組み始めました。先日、グループに加わった愛媛県の名門学習塾である寺小屋グループでは、私たちが培ってきたノウハウを共有し、社員の意識行動の変革やブランド再構築をともに実行した結果、業績の落ち込みが反転し、短期間で大きな成長を遂げました。
こうした地元の名門塾とタッグを組んで新たな成長を生み出し、教育業界全体の労働環境や水準を民間のトップレベルにまで引き上げていきたいと願っています。全体をまとめて底上げを図ることこそが、私たちが教育に携わる企業として果たすべき使命だと捉えています。
編集後記
個別指導の現場からキャリアをスタートさせ、徹底した市場調査と顧客の深層心理の分析で数々の実績を積み上げてきた高橋直司氏。その原動力は常に「子どもと保護者の豊かな時間をつくる」というぶれない信念にあった。教育の本質を追求し、AI技術や異業種との提携も柔軟に取り入れながら、新たな「学びのプラットフォーム」を構築し続ける同社。規模の拡大にとどまらず、共感資本の醸成と倫理観の向上を掲げ、次世代に向けた経営を展開する。また、地方の名門塾と協業した再成長モデルの創出や、業界の構造課題である待遇改善への挑戦など、日本を代表する教育企業として、同社の今後の飛躍が楽しみだ。

高橋直司/1969年、静岡県生まれ。横浜国立大学経営学部卒業。1998年に株式会社拓人(現・株式会社やる気スイッチグループ)に入社後、取締役やグループ内法人の代表、専務取締役を歴任。2018年、株式会社やる気スイッチグループの代表取締役社長に就任。就任後はグループの「第二創業」を標榜。強固なリーダーシップのもと、組織改革と積極的な事業拡大を推し進め、グループの成長を牽引している。