※本ページ内の情報は2026年8月時点のものです。

テニスショップの2代目として生まれた、株式会社キャピタルスポーツの代表取締役、新谷和敬氏。同氏の歩みは赤字だったクラブの再建からEC事業立ち上げ、ミャンマーでの海外展開まで挑戦の連続である。現在は同業他社との事業統合を果たし、テニス業界の入口から出口までを担う体制を構築した。幾多の困難を乗り越えてきた根底には、新卒時代に恩師から学んだ「継続」の哲学がある。業界の枠を超え、次々と新たな事業の柱を打ち立てる同氏に、これまでの軌跡と経営の信念を聞いた。

メーカーでの経理経験と今も胸に刻む「継続」の大切さ

ーーまずは、社会人としてのファーストキャリアについてお聞かせください。

新谷和敬:
最初のキャリアは、大手スポーツメーカーであるダンロップの販売子会社の経理部門です。実家がテニスショップを営んでおり、私自身もいずれは二代目として家業を継ぐものだと考えていました。そんな中、就職活動の時期を迎え、進路について両親と相談していたところ、父親から同業であるダンロップを紹介され、まずはそこで経験を積むために入社を決めたのです。

入社当初は営業への配属を希望していましたが、当時の専務に目をかけていただき、経理部門へと配属されました。同期が営業で活躍する中、私だけが畑違いの部門を担当することになったのです。最初は会計の専門用語もわからず苦労しましたが、一念発起して必死に勉強し、結果的に5年間その部署で勤め上げました。専務から商売の基本を叩き込まれ、そこで身につけた財務や経営の知識が、現在の会社経営の大きな基盤として活きています。

ーー当時の専務から教わったことで、現在の判断軸となっているものは何でしょうか。

新谷和敬:
「going concern(ゴーイング・コンサーン)」という言葉です。これはつまり、「商売において一番大切なのは、とにかく継続することだ」ということを意味します。事業をやっていれば上手くいかないことも当然あります。しかし、どんな状況であっても会社を残し、事業を継続させることが何より重要だと教わりました。その言葉は、今でも私の判断軸として心の中に深く刻まれています。

多額の赤字をV字回復し、人の縁で拓いたEC事業の裏側

ーー家業へ入られてからは、どのような壁がありましたか。

新谷和敬:
2001年に家業へ戻った直後、非常に大きな困難に直面しました。当時お世話になっていた大家さんから、「経営難に陥ったスポーツクラブの運営を引き継いでほしい」と懇願されたのです。初めはお断りしたものの、通っている生徒さんたちを放っておくわけにもいかず、やむを得ずお引き受けしました。しかし、いざ引き継いでみると、その事業だけで毎月大赤字を出している危機的な状況だったのです。

それでも、引き受けた以上は何としても事業を継続させなければなりません。当時の私は20代後半と若かったこともあり、がむしゃらに改革へ乗り出しました。具体的には、現場のシフトを抜本的に見直し、無駄な経費を削減するとともに、スタッフの役割を明確化したのです。そんな徹底した業務の効率化を進めた結果、2〜3年で赤字を解消することができ、無事に事業の立て直しに成功しました。

ーー事業の立て直し後、次に取り組まれたことは何でしょうか。

新谷和敬:
スポーツクラブの経営が軌道に乗り、少し時間に余裕が生まれたタイミングで、新たにEC事業を立ち上げました。当時は実店舗の維持だけでも大変な時代になりつつあり、販路を広げて少しでも会社の売上に貢献できないか、そして販売数が増えれば商品の仕入れ値も抑えられるのではないかと考えたことがきっかけです。

ちょうどその頃、私たちの事務所と同じビルに有名なネットショップの店長さんが入居されていました。幸運なことにその方とのご縁が繋がり、EC運営のノウハウを基礎から教わる機会に恵まれたのです。当時は右も左も分からない状態でしたが、いただいたアドバイスを素直に一つひとつ実行していきました。その結果、時代の後押しもあって月に数百万円を売り上げる事業へと急成長を遂げ、現在では複数のサイトを展開するまでに拡大。会社の大きな柱の一つとなりました。

ミャンマーへの展開と業界を巻き込んだグループ統合

ーーEC事業が拡大していく中で、次に見据えている展開を教えてください。

新谷和敬:
将来的な価格競争を見据え、運用コストを最適化する仕組みが必要だと考え、海外への事業展開を決断しました。具体的にはミャンマーに子会社を設立し、現地人材を採用したのです。ECサイトの更新作業やシステム開発など、幅広い業務を受託する事業を展開しています。さらに、テニス用品の企画や卸を手がける外部企業と意気投合し、各社の強みを持ち寄って一つのグループを形成しました。小売・卸・企画製造が一体となることで、テニス業界において独自の立ち位置を確立しています。

ーー改めて現在の事業展開と、ミャンマーでの活動についてお聞かせください。

新谷和敬:
現在は、テニス・バドミントン用品の店舗販売やECサイトの運営を主軸としています。加えて、ミャンマーの子会社を通じてシステム開発やECサイトの運用代行なども行っています。

また、ミャンマーでは現地のテニス発展を応援する「ミャンマー架け橋プロジェクト」という支援活動にも取り組んでいます。日本のメーカーで使われなくなった試打用ラケットを譲り受け、ミャンマーのテニス協会へ寄付する活動です。日本では無料で配布すると市場のバランスを崩すため、廃棄されることが多いラケットを有効活用しています。ミャンマーの人々は本当に優しく、収入の一部を寄付するなど、他者へ施す文化が根付いています。現地の方々に支えられている私たちとしても何か貢献したいと考え、毎年このプロジェクトを続けているのです。

事業の継続と1日1時間の積み重ねが切り拓く未来

ーー今後の展望をお聞かせください。

新谷和敬:
最大の目標は、利益を出して事業を「継続」し、全国のお客様やテニス業界全体の発展に貢献することです。競技人口の急激な増加は難しい環境だからこそ、事業の継続が欠かせません。一方で、ミャンマーでのシステム開発などの事業も大きな可能性を秘めています。分野を問わずさまざまな企業の課題を解決できる事業として、今後さらに伸ばしていく考えです。

ーー最後に、次世代へのメッセージをお願いします。

新谷和敬:
20代の人たちに伝えたいのは、「1日1時間の積み重ね」が持つ威力についてです。1日8時間働く人がいるとして、その人より毎日1時間多く仕事のことやビジネスのヒントを考えたとしましょう。これを10年続けると、途方もない差が生まれるはずです。日常の買い物やテレビを見ているときでさえ、「なぜこれが売れているのか」と思考を巡らせるだけで、将来の景色は全く違ったものになるでしょう。ほんの少しの意識の差を積み重ねることが、圧倒的な結果を生むのだと信じています。

編集後記

最も強く胸に響いたのは、奇をてらった手法ではなく、物事を「継続」することの尊さと、日々の思考の積み重ねが持つ計り知れない力である。「1日1時間の思考が10年後に圧倒的な差を生み出す」と語る新谷氏の言葉には、幾多の困難を自らの手で乗り越えてきた経営者ならではの熱量と強い説得力が宿っていた。一つの枠にとらわれず、常に先を見据えて新たな形を模索し続ける同社のさらなる飛躍を、心から期待せずにはいられない。

新谷和敬/1996年4月、株式会社ダンロップスポーツへ入社。2001年4月、株式会社キャピタルスポーツに入社し、2004年4月に同社取締役、2013年4月に同社代表取締役社長へ就任(現任)。2014年4月に株式会社キャピタルナレッジ、同年6月にCapital Knowledge Myanmar Co., Ltdを設立し、各社の代表取締役社長に就任(現任)。2019年4月、アクトグループ株式会社を設立、同社代表取締役社長に就任(現任)。2020年1月、株式会社テニックの代表取締役に就任(現任)。