
大阪市住吉区を中心に薬局を展開する株式会社メディカルクルーズ。同社は在宅医療に注力し、特定の地域に資源を集中させるドミナント戦略と「24時間365日対応」の徹底により、地域に欠かせないインフラとして厚い信頼を獲得している。今後は医療・福祉・介護が交わる独自の拠点「CRUISE PORT (クルーズポート)」構想の実現に向け、さらなる事業拡大を見据える。代表取締役の芳川卓司氏に、創業の原点や独自の組織体制、未来へのビジョンをうかがった。
幼少期の記憶と父の闘病 医療従事者の「心の支え」に憧れて
ーーまずは、薬剤師を志した背景を教えていただけますか。
芳川卓司:
二つの体験がきっかけです。一つは幼少期に町の薬局を訪れた際、薬剤師の方が私を子ども扱いせず、一人の人間として親切に接してくれたことです。そのうれしかった記憶が、薬剤師という仕事を意識するきっかけになりました。
もう一つは、父の闘病生活です。がんで入院していた父に対し、医療従事者の方々がそばに寄り添い、何気ない会話を交わしてくれました。一生懸命なその姿は、父だけでなく私たち家族にとっても大きな「心の支え」だったのです。その姿を見て、私も誰かの役に立ち、支えになる存在になりたいと強く思い、薬学部への進学を決めました。
ーー薬学部を卒業した後の歩みについてお聞かせください。
芳川卓司:
学生時代にのめり込んでいたスノーボードができる雪国で働きたいと考え、全国展開する大手薬局に入社しました。しかし、入社後は同期約150人の中で2人だけの大阪配属となり、実家から通うことになったのです。配属先の門前薬局では、ひたすら処方箋をさばき、間違いなく薬を渡すだけのルーティン業務が続きました。「人の役に立ちたい」という本来の目的を見失い、「私は誰のために働いているのか」と違和感を抱きながら過ごしていました。
ーーそこから、どのような転機が訪れたのでしょうか。
芳川卓司:
入社から4年ほど経った頃、調剤薬局へ転職した大学時代の先輩を見学に行ったことです。その先輩は、在宅医療に携わっており、ご自宅で療養される患者さんやそのご家族、さらには医師や看護師、ケアマネジャーなどと直接連携をとりながら親身に向き合っていました。薬を渡すだけではない、本来あるべき医療従事者として活躍する姿に、純粋に「格好いい、私もこうなりたい」と衝撃を受けたのです。そしてすぐに、その先輩がいた会社への転職を決めました。
くるーず薬局の誕生と社名の由来

ーーその後、ご自身で独立を決断された理由は何でしたか。
芳川卓司:
理想とする医療の形を、自分自身の責任で実現したいと考えたためです。転職先では仲間に恵まれ、やりがいをもって働いていました。しかし、先輩がトップを務める子会社で体制の変更があった際、社長から「引き続き先輩をサポートしてほしい」と打診されたのです。その時すでに自分の目指す医療の形が見え始めていた私は、先輩後輩という既存の組織体制の中ではその理想を形にすることが難しいと悟りました。そこから独立へと一気に気持ちが切り替わり、資金を集め、くるーず薬局を立ち上げたのです。
ーー会社名である「メディカルクルーズ」には、どのような思いを込めているのですか。
芳川卓司:
大好きなスノーボードから名付けました。山の頂上から麓まで地形を活かして滑り降りることを「クルージング」と呼びます。ゲレンデには急斜面や緩やかな場所、凹凸もあり、一見滑りにくい場所でも、視点を変えれば技を出したり高く飛んだりするきっかけに変えられます。ビジネスや医療の現場でも同様であり、いかなる状況でも前向きに進んでいける組織でありたいという思いを込めています。
「深夜でも必ず駆けつける」 徹底した在宅医療と地域密着の展開
ーー貴社ならではの強みはどこにあるとお考えですか。
芳川卓司:
大阪市住吉区という特定のエリアに集中して店舗を展開し、迅速に連携できる体制が強みです。すべて自転車で移動できる範囲内に店舗を配置しているため、スタッフ同士がすぐに情報を共有して助け合うことができます。また、各店舗それぞれに「在宅特化型」や「完全地域密着型」といった明確な機能を持たせています。
最大の差別化ポイントは、形だけではない「真の24時間365日対応」です。外部企業では深夜の対応が十分に機能していない事例もあり、結果として私たちに緊急の依頼が来ることも少なくありません。夜中の対応は決して容易ではありませんが、真摯に駆けつけることでご家族から「一生懸命な姿に救われた」と感謝の言葉をいただけます。その積み重ねが、私たちが選ばれる理由だと自負しています。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
芳川卓司:
医療・福祉・介護が交わる「CRUISE PORT(クルーズポート)」という構想を描いています。港のように多様な人と情報、文化が混じり合い、人が集まる価値を生み出す場所をつくりたいと考えています。その一環として、2026年6月から障がいのある方向けの就労支援サービスを開始し、2027年4月には老人ホームの運営など介護事業もスタートさせる予定です。医療に福祉と介護を掛け合わせ、新たな価値を創出していきます。
数値目標としては、10年以内に薬局を4店舗から7店舗に拡大し、就労支援を5拠点、介護施設を5拠点以上展開することを目指しています。現在の売上高約7億円から、まずは10年後に売上20億円を目指し、将来的には50億円規模の企業へと成長させていく計画です。
ーー事業の拡大を見据え、これからどのような人材と一緒に働きたいと考えていますか。
芳川卓司:
会社の成長を牽引するような、次世代のリーダーになれる人です。また、10年後に売上20億円を目指している中で、50億円企業への道筋を描ける財務の責任者や経営企画など、専門的な知識を持つ人材も必要としています。社内は非常に風通しが良く、ライフステージに合わせた働き方の相談にも柔軟に対応しています。
加えて、月に一度、書籍や映画など人生を豊かにするための自己研鑽に3000円を補助する制度も設けています。当社の理念に共感し、人を大切にできる方、そして成長の過程を共に面白がれる方をお待ちしています。
編集後記
最も印象に残ったのは、芳川氏の「人を思う温かさ」と「前例にとらわれない柔軟な発想」である。患者への真摯な向き合い方はもちろんのこと、社員の人生をも豊かにしようとする姿勢に、同社の離職率の低さと組織力の高さの理由を見た。スノーボードのクルージングのように、困難な状況さえも推進力に変えて進む株式会社メディカルクルーズ。医療・福祉・介護の垣根を越えた「CRUISE PORT(クルーズポート)」が地域にどのような新しい波を起こすのか、その未来が非常に楽しみである。

芳川卓司/1981年、島根県生まれ大阪育ち。2005年、近畿大学薬学部卒業。同年、総合メディカル株式会社に入社し、4年半の期間を経て2009年に有限会社イマトクメディックに入社。2014年7月、くるーず薬局を独立開局。2015年4月、法人化して株式会社メディカルクルーズを設立。現在、大阪市住吉区内にくるーず薬局を4店舗展開。