
冠婚葬祭業を中心に、人々の節目を支え続ける株式会社ラック。1979年に営業職として新卒入社し、現場の最前線を駆け抜けてきた松井秀二氏は、2019年に代表取締役社長へ就任した。コロナ禍という厳しい環境下で主力だったウエディング施設の売却や新規事業の立ち上げといった「両利きの経営」を断行。同時に、社員主導のプロジェクトを通じた企業理念の策定など、ボトムアップ型組織への変革も推進してきた。冠婚葬祭の枠を超えて「人生100年時代のトータルライフサポート企業」を目指す同氏に、変革の裏側にある「社員第一」の思いや、次世代に向けた人材育成について話を聞いた。
がむしゃらに数字を追った日々から「話を聞く」経営者への転換
ーー新卒で入社されてからの歩みについて教えてください。
松井秀二:
実はもともと経理希望として入社したのですが、営業現場へ配属されました。すると、営業の面白さに引き込まれ、そのまま15〜16年ほど現場で走り続けることになりました。営業時代は「目標を達成すること」「人材を採用すること」、そして「採用した人を教育すること」の3つを常に念頭に置いて無我夢中で走ってきました。明確な目標に向かって強い思いを持ち、決して諦めない心で取り組んだことが、その後のキャリアを切り拓く土台になっています。
ーー役職が上がるにつれ、仕事への向き合い方はどのように変化しましたか。
松井秀二:
支配人へと昇格し、組織全体に関わるようになる中で、社員の人生を背負う立場へと徐々に意識が変わっていきました。その過程で私が最も大切にしてきたのが「社員の話を聞く」ことです。ときには耳の痛い意見も出ますが、現場の社員の真摯な声の中には経営陣の考え方を変えるほどの大きな力があります。そうした厳しい意見を受け止めることで、本物のサービスを提供しなければならないという思いが私の中に強く根付いたのです。
社員の声から生まれた理念と「両利きの経営」による挑戦

ーー2019年の社長就任後は、具体的にどのような組織改革に取り組まれたのでしょうか。
松井秀二:
就任直後の厳しい環境下において、私は「ボトムアップ経営」「企業理念経営」「両利きの経営」の3つを軸に改革を進めました。企業理念についてはトップダウンではなく、社員から選ばれた10名の「スイッチプロジェクト」が1年をかけてつくり上げました。彼らが導き出したミッションやビジョンが、現在の私たちの根幹となっています。
ーー「両利きの経営」が示す新たな事業展開についてお聞かせください。
松井秀二:
本業である冠婚葬祭業を深掘りしながら、同時に新規事業を開拓していくというアプローチです。大胆な改革として、一部の大規模ウエディング施設を売却し、介護や飲食、不動産、買い取りといった新しい事業を次々と立ち上げました。すべて本業と将来的なシナジーを見込める領域です。重要なのは、まずはそれぞれの新規事業単体でしっかりと黒字化させること。足腰を強くしながら、新たな柱を育てています。



「人生100年時代」に寄り添うトータルライフサポート企業への進化
ーー多角的な事業の先に見据えるグループ全体の未来像とはどのようなものでしょうか。
松井秀二:
グループ全体で「人生100年時代のトータルライフサポート企業」へと進化することです。一人の社員がお客様の結婚式を担当し、その後の親御さんの介護施設のご案内や遺品整理の相談まで担う。人生のあらゆるフェーズに寄り添い、適切な案内や交通整理ができる存在になってほしいと考えています。
ーーそのビジョンを実現するためには、どのような人材が必要になるとお考えですか。
松井秀二:
「人に尽くすことに喜びを感じられる人」ですね。事業が多角化しても、最後にお客様から選ばれるのは社員という「人」そのものです。そのため教育には非常に力を入れており、月に1回、私が自ら20代の若手社員に向けてコーチングを行っています。そこで求めているのは、明確な目標と行動スケジュールを持ち、「継続して学び実践すること」「他者への配慮や信頼を築くこと」そして「挑戦し続けること」です。物事の本質を捉える知、他者を感じる力、そして先頭に立つ勇気を持った社員に成長してほしいと願っています。
社員の幸福が感動を呼ぶ、妥協なき「一流のおせっかい」
ーー最後に、社員のモチベーションを高めるための独自の施策についてうかがえますか。
松井秀二:
私は「社員の幸せがなければ、お客様を幸せにすることはできない」と確信しています。その思いを形にした一つが、福岡・糸島に建設した社員用の保養所「ITOSHIMA BASE」です。約3億円を投資し、プールやサウナを備え、社員が家族や友人とゆっくり過ごせる施設をつくりました。一見すると直接的な利益を生まないように見えますが、これが社員の意欲を高める最も効果的な施策のひとつだと信じています。
また社内では、素晴らしい対応を称賛する「OSEKKAI AWARD(おせっかいアワード)」や、縁の下の力持ちを他薦で表彰する「アンサングヒーロー」といったイベントも実施しています。社員一人ひとりが目の前のお客様を思いやり、真摯に寄り添う。これからも変化を恐れず、会社を挙げて妥協なき「一流のおせっかい」を追求し続けていきます。
編集後記
強く感じたのは、トップ自身の「社員の幸せなくして顧客の幸せはあり得ない」という揺るぎない覚悟だ。利益や効率を度外視してでも働く仲間の憩いの場を作り上げる姿勢には、社員一人ひとりへの深い愛情が溢れていた。現場の小さな声に真摯に耳を傾け、ボトムアップで組織を動かすその手法は、これまでの強力なリーダー像を覆すほどの温かさに満ちている。自らが愛され、満たされているからこそ、他者へも心からの手を差し伸べることができる。同社が掲げる「一流のおせっかい」は、決して見返りを求めない純粋な思いやりの連鎖なのだ。顧客の人生のあらゆるフェーズに寄り添う社員たちの人間力が、これからの100年時代を明るく照らしていくと確信した。

松井秀二/福岡市博多区出身。1979年に株式会社ラックに営業職として入社。以来40年以上にわたり同社一筋に歩む。冠婚事業部課長、支配人、部長などを歴任し、執行役員、取締役、常務取締役を経て、2019年12月に代表取締役社長に就任。