
千代田エクスワンエンジニアリング株式会社は、千代田化工建設グループの3社が統合して誕生したエンジニアリング企業だ。プラントの新設から既存設備のメンテナンスまで、国内の社会インフラを支える幅広い事業を展開している。2026年、36年間にわたり親会社で海外プロジェクトの最前線を駆け抜けてきた内藤崇之氏が、同社の代表取締役社長に就任した。新たな中長期経営計画「Beyond Vision 2030」を掲げ、AI活用能力の向上による圧倒的な業務効率化と、社員への利益還元を通じた「選ばれる会社」づくりを力強く推進している。未曾有の人財不足時代において、同社はいかにして日本の社会インフラを守り抜くのか。独自のビジネスモデルから、社員の健康経営まで、次代を見据えた多角的な組織変革の全貌に迫る。
36年間の海外経験から一転 青天の霹靂だった社長就任と「笑顔」へのこだわり
ーーまずは、これまでのキャリアについてお聞かせください。
内藤崇之:
もともと、親会社である千代田化工建設の建設本部や業務本部で本部長を務めておりました。私自身、入社して以来36年間にわたり、海外のお客様を相手にしたプロジェクトへ携わってきた人間です。打診を受けたのも、そろそろ後任を探して次世代に道を譲り、自身はカタールの現場へ行ってサポートをしようと考えていたところでした。
ーー社長就任の打診を受けた当時の率直なお気持ちをお聞かせください。
内藤崇之:
打診されたときは、まさに青天の霹靂というほかありませんでした。千代田エクスワンエンジニアリングは国内マーケットを主戦場とする会社ですので、「なぜ私なのか」というのが率直な思いでしたね。国内での仕事の進め方が分からないうえ、これまで国内で頑張ってきた社員たちの中に急に入っていくことに対する不安も抱えておりました。
こうした不安を抱えつつも、新しい挑戦ができることへのやりがいは非常に大きく、実際に着任すると、3年前に3社が統合した企業であるにもかかわらず、元々は別会社の社員同士が分け隔てなく会話しており、すでに一つの企業として一体化されている素晴らしい雰囲気を感じました。
ーー社長就任にあたり、どのような決意を抱きましたか。
内藤崇之:
「社会インフラにとことんまでこだわって支え抜く」という覚悟です。弊社の経営理念である「エンジニアリングの力で、笑顔あふれる未来へ」という言葉を見たとき、非常に感銘を受けました。私自身、社会や会社、個人の幸せを測るバロメーターは「笑顔」だと考えていたからです。社会インフラを生業とする会社として、社員はもちろん、同業他社やパートナー企業も含めた仲間を増やしていくことが、社長としての使命だと強く感じました。
コミュニケーションの質を高める「健全な好奇心」と「リスペクト」

ーー経営トップとして、大切にされている価値観や考え方を教えてください。
内藤崇之:
「健全な好奇心」を持つことです。エンジニアリングは、最終的には人同士のコミュニケーションでできあがります。お客様やビジネスパートナーの技術をすり合わせ、一つのものにまとめ上げるのが私たちの仕事です。だからこそ、新しい技術や自分の知らないことに対して逃げず、専門外の領域であっても興味を持つ姿勢が不可欠です。
ーー相手との良好な関係を築く上で、意識されていることはありますか。
内藤崇之:
相手を敬う精神です。アメリカで仕事をした際に「Respect each other(互いを尊敬し合う)」という考え方を学びました。好奇心を持って相手に質問するのは良いことですが、相手の価値を認め、尊重する気持ちが根底になければ、単なる追及やハラスメントになりかねません。相手を尊重し、笑顔で接する。これが質の高い対話の基本だと考えています。
新設の「攻め」とメンテナンスの「守り」両輪を回して生み出す独自の強み
ーー同業他社と比較した際の貴社ならではの強みをお聞かせください。
内藤崇之:
新しいプラントをつくる「新設」の仕事と、既存の施設を維持する「メンテナンス」の仕事、その両方を高い水準で提供できる点です。メンテナンス専門の会社は他にもありますが、弊社は千代田化工建設の設計ノウハウを受け継いでいます。そのため、単なる維持管理にとどまらず、プロセスの本質的な問題解決や高効率化、脱炭素に向けた設備の刷新まで踏み込むことができます。メンテナンスという守りの事業で安定的な収益基盤を築き、そこから得た利益を新たな攻めの事業に投資できる。この攻守のバランスこそが最大の強みです。
ーーグループ会社との連携を活かした独自の取り組みについてお聞かせください。
内藤崇之:
国内の案件に特化した企業でありながら、千代田化工建設のグループネットワークを活用できる点は弊社の大きな強みです。たとえば、国内では調達が難しい機材を海外から手配し、日本の厳しい基準に適合させる独自の知見を持っています。
また、フィリピンにある海外グループ会社の設計技術者を日本に招へいし、国内プロジェクトの設計に参画してもらうという新しい取り組みも始めました。彼らには日本語をしっかりと習得してもらい、日本の文化を理解した上でコミュニケーションの質を上げながら現場で活躍してもらう方針です。
事業共創とデジタル化 新たな価値を生み出す独自のビジネスモデル

ーー現在推進されている事業領域について教えてください。
内藤崇之:
今年度から新たに「事業共創部」を立ち上げました。既存事業の枠を超え、エンジニアリングの知見を活かして社会課題を解決し、社会実装までお手伝いする部門です。現在はライフサイエンスなどの新規分野からアプローチを始めています。また、既存のメンテナンス領域においては、SDM(シャットダウンメンテナンス)工事の自動化など、業界の先頭に立つための技術開発を進めているところです。
これらに加え、「ベンダーCXO(シーエクスワン)」という構想も推進しております。かつてグループが持っていた機器製造の知見を活用し、自社で工場を持たないファブレスの形態で設計から製作までを管理し、製品を販売するビジネスの確立に向けた挑戦を続けています。
ーーグループ会社と連携した推進事業などはありますか。
内藤崇之:
千代田化工建設の「O&M-Xソリューション事業部」との協業を進めています。IoT・データサイエンス・AI・3Dデジタルツインなどの親会社が持つ高度なデジタル変革の技術と、私たちが持つ現場でのリアルな課題把握力を掛け合わせた「ハイブリッドメンテナンス」の提供により、顧客の安全・安定操業を支える次世代型の設備保全を実現します。すでにお客様からも高い関心を集め、具体的なビジネスの芽が育ちつつあります。
「Beyond Vision 2030」の実現へ
ーー今後の会社としてのビジョンや展望をお聞かせください。
内藤崇之:
今年新たに、中長期経営計画「Beyond Vision 2030」を策定しました。3社統合の相乗効果もあり、昨年度は統合前の各社の最高益を合算した数値を上回る売上高と利益を達成しました。これを受け、経営計画をさらに進化させたのです。このビジョンで掲げている粗利率は15.7%ですが、将来的にはエンジニアリング業界全体で20%以上を目指したいと考えています。
ーー業界全体として利益率の向上を強く掲げる背景にはどのような理由があるのでしょうか。
内藤崇之:
単に利益を増やすためのものではありません。社会インフラを維持し、刷新し続けるための人財を確保し、待遇を高めるためです。現代は理系の学生や現場の職人は減少しており、人財獲得において大競争時代へと突入しています。社会インフラを守るという誇りだけでは、人は集まりません。優秀な人財に選ばれる会社・業界になるためには、しっかりとした収益を上げ、それを社員の待遇として還元していく好循環が不可欠です。20%という数字は、その原資を生み出すための目標です。
ーー目標達成に向けて、社内ではどのような業務改革を進めているのですか。
内藤崇之:
今年度中に「業務改革推進部」を新設し、間接業務の無駄を徹底的に排除します。システムの導入だけに頼るのではなく、全社最適化の観点で業務プロセスを根底から見直します。この推進には、デジタル技術に精通した執行役員をトップに据えました。社員一人ひとりのAI活用能力を高め、業務改革とAIリテラシーを両輪で進めることで、圧倒的な速度で効率化を実現していきます。
多様な人財が笑顔で活躍できる「選ばれる会社」への環境づくり

ーー人財の確保に向けた取り組みについて教えてください。
内藤崇之:
何よりも「選ばれる会社になること」を至上の命題として、働きやすい環境の整備を進めています。一方で、エンジニアリング業界の特性上、どうしても現場に長期間常駐しなければならない仕事が存在し、現場力を疎かにすることは絶対にできません。そのため、子育てなどが落ち着いたシニア層の方々に、最前線で存分に活躍していただく体制を整えています。例として、シニア層の給与水準を引き上げ、業績連動の賞与も支給するなど、現場をしっかりと回せる魅力的な待遇を用意しました。
ーー若手社員の育成やキャリア形成についてはいかがですか。
内藤崇之:
新卒入社後のギャップを防ぐため、入社4年目で他部署に異動する「ローテーション制度」を設けています。弊社には設計・調達・工事・営業など別の場所で能力を発揮できる可能性があるため、計画的な配置転換を行うことで、一人ひとりがより活躍できるフィールドを見つけられる環境づくりを進めています。会社の中に社員を固定化するのではなく、多様な経験を通じて成長を促すことを重視しています。また、1社だけでは事業環境の変化を乗り越えていけないため、親会社である千代田化工建設との交流も開始し、協業を通じたリソースや知見の相互活用を進めています。
ーーエンゲージメント向上や社員が長く活躍するための取り組みをお聞かせください。
内藤崇之:
現在、30代を中心とした次世代を担う社員で2040年のありたい会社像を描く「みらい戦略策定活動」を進めています。社内外双方から見た自社の強みや現在の立ち位置を議論しながら、「これからどのような会社を目指したいか」「どのような価値を社会に提供していきたいか」について、参加メンバーが自由に意見を出し合っています。
成果物をつくることも重要ですが、この活動で最も大切なのは、社員一人ひとりが会社の未来を自分事として考える機会を持つことだと思っています。経営層だけが将来像を示すのではなく、社員自身が未来を考え、その実現に関わっていくことが、エンゲージメント向上につながると考えています。
また、「健康経営」に力を入れています。社員に長く元気に働いてもらうためには、心身の健康が不可欠だからです。弊社では充実した検査項目の健康診断を実施しており、産業医との連携も密に行っています。健康経営施策への参加をポイント制にし、表彰する制度も導入しました。実は私自身も、全社員に向けて減量宣言をしました。単に体重を落とすだけでなく、内臓脂肪を減らす生活習慣の改善プログラムにも参加しています。社員に健康を促す以上、まずはトップである私が本気で取り組む姿勢を見せなければならないと考えています。
ーー最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
内藤崇之:
弊社は、長年培ってきた歴史ある技術力と、新しいことに挑戦し続ける柔軟性を兼ね備えた会社です。「エンジニアリングの力で、笑顔あふれる未来へ」という経営理念を合言葉に、社員一人ひとりが主役となって、社会に不可欠なインフラを守り、つくり続けています。自分の手がけた仕事が形として残り、社会の役に立っているという実感を得たい方は、ぜひ私たちの仲間に加わっていただきたいですね。歴史と革新が交錯するこの場所で、あなたの力を最大限に発揮し、ともに未来をつくる仲間をお待ちしています。
編集後記
「笑顔が幸せのバロメーター」。そう語る内藤社長の言葉からは、長年世界の最前線で多様な人々と渡り合ってきた確かな人間力が感じられる。インタビュー中、幾度も周囲を和ませるその「笑顔」に触れ、質の高いコミュニケーションの本質を目の当たりにした思いだった。社会インフラを守る人財にしっかりと報いるという確固たる信念と、一人ひとりの社員に対する深いリスペクト。その両輪を回しながら、自らも率先して減量プログラムに挑む姿には、組織を牽引するリーダーの体温とユーモアが溢れている。社会のために変革を続ける同社の飛躍が、いまから楽しみでならない。

内藤崇之/1964年、京都府生まれ。東京理科大学大学院にて建築を専攻。1990年に千代田化工建設株式会社に入社。建設部に配属後、中東向けの海外プロジェクトに従事。ロシア向けヤマルLNGプロジェクトコンストラクションダイレクターや、米国向けキャメロンLNGプロジェクトダイレクターなどを経て、建設本部、業務本部の本部長を歴任。2024年に同社の常務執行役員に就任。2026年4月より千代田エクスワンエンジニアリング株式会社の代表取締役社長に就任。