
トヨタグループの強力なブランド力とシナジーを活かし、戸建てからリフォーム、賃貸管理や不動産売買まで幅広く展開するトヨタホーム東京株式会社。グループ内での強固な連携を独自の強みとし、多様な事業ポートフォリオを構築している。2024年4月、この企業の変革を託されたのが、代表取締役の細谷昭弘氏である。パナソニック ホームズでキャリアをスタートさせ、一貫して「見える化」を推し進め、行く先々で組織を成長させてきた「成長請負人」だ。社員一人ひとりの「自己実現」を支援し、従業員満足度を向上させている同氏に、組織変革の哲学と展望を聞いた。
揺るぎない哲学の原点 「見える化」で組織は変わる
ーーまずは細谷社長のキャリアの原点についてお聞かせください。
細谷昭弘:
新卒採用でナショナル住宅産業(現パナソニック ホームズ)に入社し、ゼロからお客様と一緒につくり上げていく住宅営業の仕事に、大きな喜びを感じたのが原点です。完成品を販売するのとは異なり、設計や建設、協力会社の職人さんなど、多くの人が関わって一つの家が完成します。そのプロセス全体を実感できたこと、そして他社ではなく私たちを選んでいただけたときの喜びは、何事にも代えがたいことだと感じました。
成果が出るようになるとマネージャー職を任せてもらえるようになりましたが、部下の成長が大きなやりがいにつながりました。特に商談が終わった後、移動の車中で行うフィードバックは「黄金の時間」と呼び、大切にしていました。「あそこの一言は良かった」「次はこう話してみよう」と具体的に振り返ることで、部下は自分ごととして吸収し、次に会うときには劇的に変わっているのです。その瞬間に立ち会えるのが、マネジメントの面白さだと感じます。
ーー執行役員として、特に力を入れて取り組まれたことは何でしたか?
細谷昭弘:
役員になった際、特に力を入れたのは「営業のスタンダード」をつくることでした。全国の拠点で営業のプロセスや言語がバラバラだったため、まずは共通の言語、仕組みを導入しました。これは、個人の感覚や「頑張れ」といった精神論に頼るのではなく、営業活動を数値化・見える化し、組織全体で目標達成に向かうためのものです。いわば「営業を科学する」という試みで、課題を客観的に捉え、誰もが納得して行動できる文化の醸成を目指しました。結果として、プロセスの見える化、業績の拡大に大きく貢献することができました。
「正しい手順」が変革の第一歩、成長請負人の組織改革
ーー貴社に着任後、最初に取り組まれたことは何ですか。
細谷昭弘:
前職の実績を評価され、トヨタホームからお声がけをいただき移籍しました。私が着任して最初に感じたことは、業務のルールが地域ごとに異なり、共通の言語で話せていないということでした。そこで、まずは「正しい手順で仕事をする」という、ごく当たり前のことを徹底することから始めました。具体的には、営業から設計、建設、アフターサービスに至るまで、全部門の業務フローを再構築する「業務標準マニュアル」の作成に着手したのです。
ーーその取り組みは、社内にどのような変化をもたらしましたか。
細谷昭弘:
社員の皆さんが何をやればよいか明確になったことで不安や不満が解消され、従業員満足度調査の結果が向上しました。「正しいことをやろう」というシンプルなメッセージが、社員の安心感につながったのだと思います。
また、その過程で現場からの意見を集約し、マニュアルに取り入れることを心がけたため、「自分が意見を言ってもいいんだ」という風通しの良い雰囲気が生まれたとも感じています。
総合力とグループシナジーで描く未来
ーー貴社の強みについて教えてください。
細谷昭弘:
まずは、トヨタグループの一員であることが大きなアドバンテージです。絶大なブランド力はもちろんのこと、特にグループ内での強固な連携は他にはない独自の強みとなっています。たとえば、トヨタグループの社員の方に買っていただくことも多いですし、社屋の建築も手掛けています。また、車両販売店様から毎月多数の顧客の紹介を受けております。トヨタグループの連携は、当社にとって大きな強みです。
また、弊社の強みは、住まいに関する多様なサービスをワンストップで提供できる「総合力」にあります。戸建て、賃貸住宅、分譲、リフォーム、不動産、特建事業といった事業を分社化せずに一体で運営することで、部門間のスムーズな連携を実現しています。
社員の「自己実現」を支援し、未来を共創

ーー社員の方々には、日頃どのようなメッセージを伝えていますか。
細谷昭弘:
「この会社をフィールドとして、あなたがなりたい自分になってください」という、自己実現に関するメッセージを繰り返し伝えています。今、なりたい自分がなくても、この仕事を通して見つけてほしい。会社と個人の成長の方向性が一致している状態をつくり出すことが理想だと考えています。
ーー今後のビジョンと、どのような方と共に働きたいかお聞かせください。
細谷昭弘:
これまでは新築事業に頼る部分が大きかったのですが、今後はリフォームに加え、賃貸管理や不動産売買といったストック事業、法人連携を通じた特建事業を強化し、事業ポートフォリオを再構築していきます。その実現のためにも、業務の標準化をさらに進め、「連携」をより一層強化し、組織全体の力を高めていきたいと考えています。共に働く仲間として求めるのは、前向き(貪欲さ)と誠実さ。その上で、協調性を大切にしながらも、自分の考えを持ってチームを牽引できる方に来ていただきたいですね。
編集後記
細谷氏の哲学の根幹は、「見える化」と「正しい手順」という、普遍的でシンプルな原則にある。しかし、その当たり前を組織の隅々まで浸透させる情熱と実行力こそが、同氏が「成長請負人」と称される所以があるのだろう。社員に「なりたい自分になってほしい」と語る言葉は、単なる理想論ではない。社員が安心して挑戦できる「風通しの良い土壌」を自ら整えるという、リーダーとしての強い覚悟が感じられた。新築中心のビジネスモデルからの転換が求められて久しい住宅業界において、細谷氏率いるトヨタホーム東京の挑戦から目が離せない。

細谷昭弘/1962年生まれ。1985年、ナショナル住宅産業株式会社(現パナソニックホームズ株式会社)に入社。2014年に同社の執行役員へ就任。2020年、同社ストック事業部長に就任、パナソニックホームズ不動産株式会社取締役社長を兼務、2021年パナソニックリフォーム株式会社取締役社長に就任。2023年にトヨタホームリフォーム株式会社の取締役社長に就任。2024年より、トヨタホーム東京株式会社の代表取締役に就任。