
1999年の電子カルテ黎明期から医療情報システム業界に身を置き、現在は株式会社レスコの代表取締役を務める藤川佳應氏。富士通エフ・アイ・ピーでの15年にわたる経験を経て独立し、現在は精神科医療に特化した電子カルテメーカーである同社の経営を担っている。近年は、国の医療DX推進と合致したクラウドネイティブ型の製品「Waroku(ワロク)」を展開。病院経営への貢献を問い続けた先に見出した独自の指針である「成育カルテ構想」と、AIを前提とした次世代の病院情報インフラについて話をうかがった。
病院経営への貢献を問い続け、見出した「自らの王道」
ーーまずは、現在の道に進まれたきっかけを教えてください。
藤川佳應:
もともとは富士通エフ・アイ・ピーという会社で15年間、電子カルテシステムの販売に従事していました。現在の道に進んだ最大の理由は、導入した電子カルテが病院経営や臨床現場にどう貢献できるのかを追求するためです。
30代前半までは社内の評価や目標達成にこだわっていましたが、30代後半になるにつれ、一企業のシステム提供だけでは医療機関への貢献に限界があると感じ始めたのです。折しも、私が師匠と仰ぐ上司が定年退職を迎える時期でした。そういった背景から、医療機関に最大限の効果を発揮できる仕事をしたいと強く思い、複数企業の商品を扱うべく2008年に独立に踏み切りました。
ーーそこから、どのような経緯で貴社に参画されたのですか。
藤川佳應:
最初は5社ほどの販売代理店と協業し、営業担当者への指導や自ら販売するといった活動を行っていました。その中の1社が、レスコの前身であるベータソフトです。当時のベータソフトはさらなる成長に向けた組織の再構築期にありました。その中で「事業を手伝ってほしい」と要請を受け、精神科医療に特化する方針に共感し、顧問として支援を始めたのです。
その後弊社に入る大きなきっかけとなったのは、富士通エフ・アイ・ピー時代の師匠と再会した際に「お前の目指す王道とは何か」と問われたことです。その言葉にハッとさせられ、2009年に個人事業主から「株式会社い組」として法人化し、より多くの顧客の役に立てるように、拡大路線に舵を切りました。その後ベータソフト側から、一緒に医療業界の変革を実現してほしいという要請があり、2015年に正式に弊社に参画したのです。
四国の病院で得た学びと「成育カルテ構想」の誕生

ーー2016年の社長就任後、事業の方向性をどのように再定義されましたか。
藤川佳應:
改めて精神科医療の歴史を学び直し、自社の羅針盤となる基本思想を描き直しました。大きな契機となったのは、四国の病院のとあるイベントで聞いた大学教授の講演です。そこで、患者さん一人ひとりに最適な医療を提供するには、どのような家庭に生まれ育ち、今に至ったのかという「成育環境情報」を正確に把握することが重要だと学んだのです。
ーー「成育環境情報」への着眼は、現在の事業にどう結びついているのですか。
藤川佳應:
「成育カルテ構想」という独自の指針へと昇華されました。心の問題は妊産婦への支援から子どもの発達、そして高齢者の認知症まで、生涯にわたって続きます。だからこそ、国民一人ひとりが必要な支援を受ける際、本人の同意のもとで成育環境情報を活用できる情報基盤の整備が必要です。この実務研究の考えを専門家に伝えたところ高い評価をいただいたため、2018年に自社の基本思想として明文化しました。
国策と合致したクラウドネイティブ型システムによる医療DX
ーー「成育カルテ構想」を実現するため、具体的にどのような製品を展開していますか。
藤川佳應:
相談支援から訪問、通院、そして入院までをカバーする、精神科医療の包括的な支援システムを提供しています。さらに2020年からは、新製品のクラウド型電子カルテ「Waroku(ワロク)ホスピタルカルテ」の開発に着手しました。従来のオンプレミス型システムは、保守の負担や互換性の欠如によるデータの孤立化といった課題を抱えていました。そこで国が提示する標準コード・マスタを採用し、医療機関同士で互換性を持つ、クラウドネイティブ型で管理するシステムを構築したのです。
ーー国の標準コードを採用したシステムは、現在の医療政策とどう連動しているのですか。
藤川佳應:
私たちが実務研究を重ねて製品化した方向性が、そのまま国の政策として推進されています。開発を進めていた矢先にコロナ禍となり、医療機関のデジタル化の遅れが顕在化しました。これを受け、国は新たに「医療DX推進本部」を立ち上げました。そこで掲げられたデータ共有や標準化の方針が、私たちの構想と合致していたのです。自社の方向性が国の政策と重なったことは大きな自信となり、現在では急速に社会実装が進んでいます。
AIを前提とした次世代インフラと経営DXのパートナーへ
ーーAIを活用した次世代の医療情報インフラについて、どのような展望をお持ちですか。
藤川佳應:
来年には、AIの存在を前提とした新しい病院情報システムの提供を予定しています。従来のシステムは画面や操作手順が固定されていましたが、次世代型は標準的な医療データベースにAIを接続し、操作画面などのUI自体をAIが自動生成する仕組みです。現場の医療従事者が「こんな入力画面が欲しい」「こういうデータの見方をしたい」と指示すれば、AIが個別に対応してくれます。現場のスタッフは入力作業に追われることなく、本来のケアや治療に専念できるようになるのです。
ーー最後に、医療機関のパートナーとしての今後の展望をお聞かせください。
藤川佳應:
設備の適正化や購買コストの削減など、経営改善に向けたさまざまなサポートを始めています。現在は病院の財政が厳しく、システム導入の原資を確保すること自体が難しくなっています。これからの医療機関が望むものは、現場の業務効率化だけでなく「病院経営そのもののDX化」であると私は考えています。臨床データと財務データを掛け合わせ、根拠に基づいた経営判断を後押しする。私たちはシステム提供にとどまらず、病院経営をともに考えるパートナーとして、医療情報インフラの発展に貢献していきます。
編集後記
電子カルテというツールの枠を超え、生涯にわたる心の支援を見据える藤川氏。何より印象的だったのは、日本の医療インフラを根本から良くしたいという静かな、しかし確固たる熱量だ。現場の課題と真摯に向き合う中で生まれた独自の構想が、結果として国の政策と重なった事実は、同社の先見性と本質を突く姿勢の証左だろう。来たるAI時代に向け、既成概念にとらわれず新たな医療情報インフラを切り拓こうとする力強い言葉を聞き、業界の希望に満ちた未来を確信した。

藤川佳應/1970年9月28日生。広島市中区出身。広島修道大学卒業。1993年、富士通エフ・アイ・ピー株式会社(現:富士通Japan株式会社)に入社。2008年、同社を退社。株式会社F・Mプランニングを設立。株式会社ベータソフト(現:株式会社レスコ)営業部⾧に就任。2009年、株式会社い組を設立。2016年、ベータソフト社の代表取締役に就任。2017年、株式会社レスコへ社名変更。2019年、クラウドネイティブ型かつ標準コード・マスタに対応した電子カルテの開発開始。