
LRM株式会社は「Security Diet®」をミッションに掲げ、情報セキュリティサービスを展開している。各社の実情に深く寄り添う専門的なコンサルティングを強みとし、創業以来「プロフェッショナルであること」を哲学に成長を続けてきた。同社を率いる代表取締役CEOの幸松哲也氏が目指す「仲良しこよしのプロフェッショナル集団」とは、いかなる組織なのだろうか。売上100億円という壮大なビジョン達成に向けた戦略に迫る。
アパレル志望からセキュリティの専門家へ
ーーIT業界に就職した経緯を教えていただけますか。
幸松哲也:
もともとはアパレル志望でした。しかし、服は好きでも販売の仕事は違うと気づき、将来性を考えて大学卒業後はIT業界へ進みました。システム開発や運用保守などさまざまなキャリアを積む中で、お客様との対話に楽しさを見出し、コンサルタントを志すようになります。そして20代の僕でも通用し、かつ将来性のある分野として、セキュリティコンサルタントに行き着きました。
ーー起業まで経緯と起業後のお話をお聞かせください。
幸松哲也:
所属部署の部長が独立し、部署のメンバーが僕一人になるタイミングで、自然な流れで起業を決意しました。コンサルティング業務は自分に向いていると感じていましたし、30歳という年齢もあり「たとえ失敗してもその経験を糧に再挑戦できる」という自信があったからです。
事業が軌道に乗る転機は2つありました。1つ目は、事業を情報セキュリティに絞ったことです。起業当初は、Web制作なども手掛けていましたが、それをやめてセキュリティ分野に特化しました。これにより「情報セキュリティの会社」として事業内容が明確になったのです。採用する人材も、セキュリティの知見のあるコンサルタントや営業、マーケティング担当者に絞れるようになった点も大きかったです。
2つ目は、2016年に自社開発のセキュリティ教育サービス「セキュリオ」を発表したことです。それまではコンサルティングと他社商材の販売が主でした。「自社のサービスを持ち、事業を展開していく」という意思決定も、会社にとって非常に大きなターニングポイントになりました。
ーー貴社はどのような組織を目指しているのでしょうか。
幸松哲也:
まず大前提として、メンバーにはプロフェッショナルであってほしいと考えています。その上で、一人ひとりが個性を最大限に発揮するためには、互いを尊重できる関係性が不可欠です。隣にいる人と足を引っ張り合うような、ギスギスした職場は絶対につくりたくありません。
プロ同士が安心して背中を預け合い、誰かが困っていれば「お互い様だから」と評価を気にせず自然にフォローし合える。それが、僕が昔から言い続けている「仲良しこよしのプロフェッショナル集団」です。温かい人間関係の中で仕事ができたら、きっと楽しいはずだと思います。
人の意識を変えるLRMの主力事業
ーー貴社の事業内容についてお話しいただけますでしょうか。
幸松哲也:
弊社は「人のセキュリティレベルを上げる」ことに特化した情報セキュリティサービスを提供している会社です。事業の柱は2つあります。1つは企業の課題に合わせてルールづくりなどを支援するコンサルティング事業、もう1つはクラウドサービスとして提供するセキュリティ教育クラウドである「セキュリオ」事業です。
特に、急成長を続けている「セキュリオ」は、セキュリティを一人ひとりが「自分ごと」として捉え、正しい行動を促すことを目的としています。たとえば、回数無制限の標的型攻撃メール訓練や、1回3分で学べる短時間の学習コンテンツを提供しています。知識の詰め込みではなく、「ついうっかり」を防ぐための行動変容を促すことが狙いです。僕たちの目標は、お客様に「正しいセキュリティの慣習」を根付かせることにあります。
ーーお客様からはどのような反響がありますか。
幸松哲也:
「従業員同士でセキュリティの会話が生まれた」といった、意識変革につながるお声をいただいています。セキュリティの堅いイメージを払拭するために、ロゴも親しみやすくデザインしました。以前、息子の野球カバンにつけていたロゴのキーホルダーに気づいた方から「セキュリオだ!」と声をかけられたこともあり、サービスが身近なものとして浸透し始めている手応えを感じています。
ーーコンサルティング事業の特長は何ですか。
幸松哲也:
まず、ISMS認証(※1)取得支援の実績が豊富で、年度によっては国内の新規取得組織の約20%を弊社が支援したこともあるほど、この分野には強みを持っています。
また、約20名のプロパーのコンサルタントが在籍しており、人材が豊富な点も特長です。比較的若い年齢層のコンサルタントが多く、威厳のあるタイプというよりは「信頼できて気軽に相談できる」存在として、お客様に寄り添うことを大切にしています。そのため、生成AIのリスクといった最新の経営課題にも、お客様と同じ目線で迅速に対応することが可能です。
さらに、セキュリオを活用して、ルール構築の支援だけでなく、従業員一人ひとりのセキュリティ意識の向上までを一貫してサポートできる点も、弊社ならではの強みだと考えています。
(※1)ISMS認証:ISMSは「Information Security Management System」の略。組織の情報セキュリティを包括的に管理する仕組み
5年で売上100億円へ 共に未来を拓く仲間を求めて

ーー今後の事業展開はどのようにお考えですか。
幸松哲也:
これから注力していきたいことの一つは、パートナー戦略の強化です。代理店の方々と連携し、より多くの企業にサービスを届けたいと考えています。サービス面では「セキュリオ」の機能をさらに深化させ、お客様一人ひとりに合わせた学習の提供やAIの活用などを進めます。
コンサルティング事業では、単なるルールづくりにとどまりません。経営課題とセキュリティを結びつけて提案できる人材の育成に力を入れていきます。
ーー今後の具体的な目標と、それを実現するための人材戦略をお聞かせください。
幸松哲也:
現在、社員約100名、売上10億円規模の会社ですが、5年後の2030年には売上100億円、社員は200名規模への成長を目標に掲げています。生産性の高い組織をつくり、株式上場も成し遂げたいです。
この目標を達成するため、採用にも力を入れています。新卒・キャリア採用を問わず、プロフェッショナルであることを前提に、周囲を巻き込みながら主体的に物事を進められる方に来ていただきたいです。指示待ちではなく、自ら提案し実行できる推進力を持つ方を求めています。そして、他者へのリスペクトを忘れず、弊社の社風に共感しながら一緒に会社を成長させてくれる方と働きたいです。
ーー最後に読者へのメッセージをお願いいたします。
幸松哲也:
弊社では、本気で仕事に取り組む人にとって働きやすく、働きがいのある会社を目指しています。「日本のセキュリティレベルを上げることで社会に貢献したい」という高い志を持った方にとって、やりがいのある楽しい職場です。「自分を一人前にしてほしい」という受け身の姿勢ではなく、「自分が会社と社会を変えていく」という主体性を持った方と一緒に働けることを楽しみにしています。
編集後記
「プロフェッショナルであること」への厳しい追求と、「仲良しこよし」という言葉に象徴される温かさ。幸松氏が目指す組織像は、一見すると相反する要素を内包しているように聞こえる。しかし取材を通して見えてきたのは、互いへの深いリスペクトに基づいた、高次元での両立であった。セキュリティという不可欠でありながらも「やらされ感」がつきまとう領域に、「自分ごと」として取り組める楽しさという新しい価値を吹き込む同社の挑戦。売上100億円という目標は、その価値が社会に広く認められた証となるだろう。今後の飛躍に期待したい。

幸松哲也/1976年兵庫県生まれ、徳島大学卒業。TIS株式会社に入社し、システム開発の提案から開発、運用保守まで幅広く担当する。2006年12月にLRM株式会社を設立。代表取締役として経営を行うかたわら、自ら情報セキュリティコンサルタントとしても活動。ISMS認証審査機関における主任審査員を務めるなど、情報セキュリティ業界における第一人者としても精力的に活動している。