
1994年の創業以来、中古バイクの買取市場を開拓し、10年以上にわたり買取シェアNo.1を誇る株式会社バイク王&カンパニー。同社を牽引する澤篤史氏は、1997年に19歳で前身企業へ入社し、店舗の立ち上げから株式上場の準備まで、企業の成長のあらゆるフェーズを最前線で支えてきた。かつて職人気質が強かった業界に「ホスピタリティ」という新たな価値観を持ち込み、現在は豊富な仕入れ台数を武器に小売事業への展開も推進している。2024年に代表取締役CEOに就任した同氏に、業界への思いを聞いた。
19歳での挑戦 閉鎖的な業界を「フレンドリー」に変える
ーー貴社へ入社した経緯を教えてください。
澤篤史:
最初は人と話すことが好きだったことから、高校卒業後にホテル業界へ就職しました。しかし実際に働いてみて、思い描いていた業務内容とのギャップを感じ、1年余りで退職しています。その後は自分が好きな分野で働きたいと考え、物心ついた頃からバイクが身近にある環境で育ち、中学生の頃からバイクを愛好していたことも影響し、19歳だった1997年1月に前身のメジャーオート有限会社に入社しました。
ただ、当時のバイク業界には、職人としてのこだわりを大切にする気風が色濃く残っていました。技術は先輩の背中を見て学ぶという伝統的な指導方針や、馴染みのお客様との深い関係性を重んじるような独自の文化が根付いていたのです。しかし、私自身はバイクに乗ることで世界が広がる喜びを知っていました。もっとフレンドリーでホスピタリティあふれる環境をつくれば、より多くの方がバイクに親しんでくれるはずです。当時のバイク業界に感じていた、こうした課題を解決したいという思いが私の原動力になっています。
ーー入社後は、どのような業務に取り組んだのでしょうか。
澤篤史:
当時の弊社はまだ創業3年目ということもあって、組織体制が整っていない状況でした。ですから、店舗での販売や整備はもちろん、電話対応から書類作成まで、あらゆる業務をこなしていました。
また、当時はまだ「中古バイクに価値がある」という認識が世間に広くは浸透しておらず、不要になったバイクは販売店に無料で引き取ってもらうケースも少なくなかったようです。中には山に不法投棄されるケースもあり、それが放置バイクとして社会問題化していたのです。
そこで弊社では「中古バイクにも価値がある」といったことを、消費者に気づいていただくためのプロモーションを打ち出しました。その結果、買取専門店というビジネスモデルが世の中のニーズと合致し、買取事業を拡大していくことになったのです。その中で、学生が多くバイク需要の高い京都への出店が決まりました。私はその店舗の責任者に自ら立候補し、1年以内には店舗を軌道に乗せて21歳の頃には営業部長になり、複数店舗のマネジメントを任されながら全国展開を進めていきました。この時期に現場で店舗運営と経営の基礎を学んだのです。
ーーその後は、どういったキャリアを歩まれましたか。
澤篤史:
株式上場に向けて、準備室へ異動をしました。私が22、23歳の頃には、店舗の全国展開もある程度軌道に乗っていました。その段階で、創業者が「バイク業界の社会的地位を向上させたい」という強い思いから、上場を目指すことになったのです。出張買取はお客様のご自宅に直接うかがう性質上、企業としての安心感や信頼感を示すことが不可欠であり、上場はそのための重要な手段でもありました。
しかし、当時の社内は営業部門が中心で、上場に必要な管理部門が全く整っていませんでした。そこで、役員から「上場に耐えうる管理部門を立ち上げられる人材がほしい」と私に声がかかったのです。私自身も新しいことに挑戦したいと考えており、畑違いの上場準備室への異動が決まりました。そこからは、会社の仕組みをゼロから構築していく作業です。就業規則や人事規程、財務、事業計画などに携わり、結果として会社経営の全般を把握するゼネラリストになれたことは、非常に貴重な経験でしたね。
ーー2024年に社長に就任された際は、どのような思いを抱きましたか。
澤篤史:
私自身、これまで社長になる野心を持っていたわけではなく、ただ純粋に「バイク業界を良くしたい」という強い思いだけで走り続けてきました。しかし前社長は、代表取締役の世代交代を図り、持続的な成長への道筋を固めるとともに、一層の飛躍を期すべく、60歳を節目に退任する意向を固めていました。その中で、私に白羽の矢が立ち、代表を引き継ぐことになったのです。今でもバイクに対する熱意は変わりませんが、代表取締役CEOという役職を与えられたからには、業界を変革するための「強力な武器」を得たと捉え、覚悟を決めました。
買取シェアNo.1の仕入基盤を活かし、「厳選した良質な車両」で小売りに挑む

ーー改めて、貴社の事業内容と強みを教えてください。
澤篤史:
弊社は、買取・販売にとどまらず、整備、カスタム、保険、ツーリズムまで、バイクに関わる幅広いサービスを展開する「バイクライフの循環プラットフォーム企業」です。事業における強みとしては、10年以上にわたり「買取シェアNo.1」を獲得している仕入れ力と、ホスピタリティの高さです。かつての業界には存在しなかった、お客様のご自宅まで直接うかがう「出張買取」の仕組みをいち早く構築しました。それに伴う煩雑な書類手続きも、すべて弊社で引き受けています。
さらに、業界でいち早く査定スタッフにPCを貸与し、査定現場から迅速に、車両状態に応じた適正な相場情報を確認できるシステムを構築したのも特徴の一つです。査定担当者の主観に依存しない「明朗会計」を実現したことが、お客様の安心感につながっていると考えています。
ーー買取事業で培った強みは、現在の展開にどう生かされていますか。
澤篤史:
小売事業の拡大において、非常に有利に働いています。オートバイ販売店は、業者間の市場から車両を仕入れるのが一般的です。しかし、そこに出品されるのは各店舗で売り手がつかなかった車両も少なくありません。
対して弊社は、一般のお客様から直接買い取った、市場に出回る前の質の高い車両を豊富にそろえることが可能です。そのため、中古車では珍しい「100日返品保証」や「7年保証」をはじめとする手厚いサービスを実現いたしました。直近の調査でも、弊社の整備やサービスに対する利用意向が過去最高レベルに達しており、確かな手応えを感じています。
ーー貴社で働く魅力や、現場でのやりがいはどのようなところですか。
澤篤史:
弊社は未だ発展途上の段階にあるため、社員と一緒に会社をつくり上げていくダイナミズムを実感できる面白さがあります。何よりも、現場においては、バイクという商材特有の「お客様との関係性の深さ」が最大の魅力です。
バイクは単なる移動手段ではなく、趣味性の高いお客様にとってパートナーのような存在であり、愛着のあるバイクを委ねていただいたり、次の一台をご提案したりする過程で単なる売買を超えた深い信頼関係が築かれます。そのため、お客様からいただく感謝の言葉の重みが格別なのです。多くの社員も、こうしたお客様との深いつながりや、信頼される喜びに大きなやりがいを見出しています。
一社独り勝ちではなく業界全体を盛り上げるエコシステムを

ーー今後の自社のマーケティングやブランディングに関する取り組みを教えてください。
澤篤史:
国内のバイク市場は縮小傾向にあるといわれることもありますが、私はそのようには考えていません。実際、当社の主力商材である高額車輌(原付二種以上)は前年を上回っており、十分な成長ポテンシャルを秘めています。その中で弊社のシェアはまだ限定的であり、小売の分野を中心に大きく伸ばせる余地が残されているのです。お客様がバイクを購入してから手放すまでのライフサイクルに寄り添い、メンテナンス対応やツーリング、イベントの企画を行うなど、バイクライフ全般に寄り添う企業へと進化していくことが今後の目標です。
ーー業界全体への影響を広げていくための、具体的な取り組みをお聞かせください。
澤篤史:
バイク業界において、一社が単独で勝ち残ることは不可能です。メーカーや用品店、そして全国各地のバイク店が存在してこそ、業界のエコシステムが成り立ちます。そこで弊社では具体的な取り組みの一つとして、四輪業界で豊富な実績を持つ上場企業と連携し合弁会社を設立しました。この会社では、全国のバイク店に向けて「在庫共有の仕組み」やファイナンス、「全国規模の保証制度」などを提供しています。
地域の店舗が活性化しなければ、20代などの若手世代がバイクに触れる機会が失われてしまうと考えています。そこで私たちが後方支援を行うことで業界全体が盛り上がり、結果として弊社も成長するという仕組みをつくりたいですね。
また、行政と連携してイベントを行い、ライダーが地域貢献しながら楽しめる環境づくりも進めています。女性層や若年層など、これまで主なターゲットとしてこなかった層へのプロモーション活動にも注力しています。バイクという乗り物の魅力を広く発信し、過去のネガティブなイメージを払拭していく方針です。

ーー最後に、業界全体の活性化を見据えた将来のビジョンをお聞かせください。
澤篤史:
まずは国内市場において、多角化するのではなく、あえてバイク事業一本に特化して挑戦を続けていきます。国内のバイク市場は縮小していくという意見もありますが、私はまだまだ成長の余地があると確信しているからです。私たちが事業を拡大し、国内市場の可能性を自ら証明することが、結果として業界全体の活性化につながると考えています。
その上で、長期的には海外展開も視野に入れています。世界全体で見れば、オートバイ市場は右肩上がりで成長を続けているからです。まずは国内でしっかりと役割を果たし、ゆくゆくは日本で培ってきたホスピタリティや独自のサービス体制といった強みを、海外市場へ展開していきます。
編集後記
今回の取材の中で最も強く感じたのは、澤氏が抱き続ける「大好きなバイク業界をより良くしたい」という真っすぐで純粋な熱量だ。印象的だったのは、自社の成長だけにとどまらず、地方のバイク店や行政をも巻き込み、共存共栄の精神で業界全体を盛り上げようとする視座の高さである。業界の課題解決に向けてひたむきに走り続けてきたその姿勢は、次世代のバイクライフに新たな光を当ててくれると確信した。かつての閉鎖的な業界にホスピタリティの風を吹き込んだ同社が、次にどのような未来を見せてくれるのか。学生時代、友人のバイクの後ろに乗って旅をした記憶が蘇るような、心躍る取材となった。

澤篤史/1997年1月にバイク王&カンパニーの前身であるメジャーオート有限会社へ入社。法人化に伴い、1998年9月に株式会社アイケイコーポレーション(現株式会社バイク王&カンパニー)へ移籍。1999年7月に営業部長に就任し、全国における多店舗展開に尽力。その後、株式上場準備に伴い経営企画室長に就任。株式上場後は経営管理室長や企画本部長、マーケティング戦略部門長を歴任し、経営および営業戦略の立案・実行に従事。2017年にバイクライフプランニング事業部担当執行役員、2021年に取締役執行役員(バイクライフプランニング事業部管掌)を経て、2024年に代表取締役CEOに就任し、現在に至る。