
1962年の創業以来、日本のジュエリー業界を牽引してきた株式会社ナガホリ。素材の仕入れから製造、販売までを一貫して手がけ、東証スタンダード上場企業としての信頼と品質で独自の存在感を放つ。幾多の激動の時代を乗り越えて、卸売りから百貨店を中心としたビジネスモデルへと転換を図り、現在は富裕層へのアプローチや海外ブランドとのシナジー創出など、次々と新たな挑戦を繰り広げている。日本最大級の展示会「創美展」の開催もその一つだ。銀行員を経て30歳で家業に入った代表取締役社長の長堀慶太氏に、同社を支える信念と未来への戦略について話を聞いた。
経営者としての土台を築いた銀行員時代と家業への合流
ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされましたか。
長堀慶太:
大学卒業後、協和銀行(現・りそな銀行)へ就職しました。理由は大きく2つあります。1つは大学の先輩に銀行員になった方が何人かおり、銀行という職業に親しみを感じていたこと。もう1つは、子どもの頃からの環境です。弊社は父が創業した会社であり、私はその二代目にあたります。
幼い頃から「将来は社長になるのだから、勉強しなさい」と言い聞かされていました。将来、会社を背負って立つための、いわば父親からの家業を継ぐ者としての教えを受けて育ったのです。そのため、昔から経営者になる道は避けられないと意識していました。いずれ経営に携わる上で、世の中全体の動きやお金の仕組みを勉強するには最適だと考え、銀行を選びました。
ーー30歳で貴社に入社された経緯をお聞かせいただけますか。
長堀慶太:
父が還暦を迎えたタイミングで、家業に戻るよう促されたことがきっかけです。ちょうど私が30歳になった年でした。銀行には6年間いましたが、本当は10年ほど勤めたいと考えていました。しかし、こればかりは抗えないタイミングだと腹を決め、上司に退職を申し出て弊社に入社したのです。
ーー入社後は、どのような業務からスタートされたのでしょうか。
長堀慶太:
最初の1年間はさまざまな部署を回り、OJTを通じて会社の業務全体を学んでいきました。弊社は製造から販売までを一貫して手がけています。そこでまずはジュエリーのつくりを覚えるべく、1ヶ月ほど自社工場で研修を受け、その後はお客様のデザインをもとにジュエリーをつくるOEM担当の営業課長に就き、素材の知識から原価計算に至るまで商売の基礎を徹底的に勉強しました。将来の後継者として会社を背負うプレッシャーはありましたが、純粋な労働環境や業務のハードさという意味では、銀行員時代の方が大変だったと感じます。その分、銀行員時代にずいぶんと鍛えられましたね。
激動の時代 百貨店へのチャネルシフトとリーマン・ショックの危機

ーーその後の歩みと、直面した課題についてお聞かせください。
長堀慶太:
社長に就任する前の10年間は、商品本部長を務めました。当時はバブル崩壊後で、市場には価格重視の商品が大量に出回っていた時代です。デフレによる価格競争が激化する中、いかにして私たちが扱うジュエリーの差別化を図るかが大きな課題でした。
また、経済環境の変化に伴い、従来のビジネスモデルも大きな転換期を迎えていました。1990年代以降、既存の問屋のビジネスが厳しくなり、自社工場でつくった商品や輸入した商品を全国の問屋へ卸すという従来の手法が通用しなくなっていったのです。
そこで、私たちは販売チャネルを問屋から百貨店へと少しずつシフトさせるとともに、自社ブランドの価値向上と海外ブランドとの代理店契約に舵を切りました。百貨店で地位を確立するには、妥協のない高品質な商品でなければ通用しないと考えたからです。この方針は今でも続いており、現在の弊社の売り上げの大半を百貨店チャネルが占めるまでに成長しました。
ーー2008年の社長就任後、貴社はどのような状況でしたか。
長堀慶太:
就任直後にリーマン・ショックが起き、まったく想定していなかった厳しい環境でのスタートとなりました。当時は、それまで築き上げてきた弊社のビジネスモデルをなるべく壊さないよう、現状の維持に必死でしたね。不況になると工場閉鎖といった話も出がちですが、そういったことは一切考えず、受注が減る中でどうやって工場を操業させ続けるかという点に最も気を遣いました。
「さすがナガホリ」と言われる品質へのこだわりと愚直な企業文化
ーー業界内で高く評価され続ける貴社の強みは何でしょうか。
長堀慶太:
一番の強みは、「さすがナガホリだよね」と評価していただけるクオリティを維持し続けていることや、上場企業としての確固たる信頼です。その根幹にあるのは、仕入れから製造に至るまでの徹底したこだわりにあります。ダイヤモンドや色石、真珠に至るまで、弊社のバイヤーはサプライヤーから見ても非常に厳しい目を持ち合わせています。同じダイヤモンドでもそれぞれの特性を的確に捉え、色石であれば光が入ったときの輝きを、真珠であれば巻きやテリをじっくりと厳選するのが私たちのやり方です。
さらに、自社工場での製造においても少しの傷やへこみすら許さず、100パーセントの完成度でなければ次の部門へは流さないという厳しい基準を貫いております。時にはお客様から「価格が高い」と言われることもありますが、それは決して妥協せず、こうした高い品質を維持し続けているからこそなのです。

ーー高い品質を支える社内文化や社員の方の姿勢についてもお聞かせください。
長堀慶太:
どの階層の社員も「愚直にジュエリーをつくり、売る」という真面目な姿勢が浸透しています。服装ひとつとっても、ジャケットを着てネクタイを締めたり、カラーシャツはなるべく着ないといった向き合い方が文化として残っており、こうした仕事への真面目な姿勢がお客様からの評価につながっているのだと思います。
そして何より社長として一番嬉しいのは、お客様からジュエリーを褒めていただくことや社員を「しっかりしている」と評価していただくことです。自分たちで企画し、素材を輸入し、自社工場でつくる体制に加え、愚直な姿勢が相まって信頼を獲得できていると感じています。
海外ブランドとのシナジーと富裕層マーケットへの新たなアプローチ

ーー自社ブランドに加えて、海外ブランドも展開されている理由をお聞かせください。
長堀慶太:
最大の狙いは、主力である百貨店でのビジネスを維持し、規模を拡大していくことです。百貨店とのお取引が増えていく中で、次第に自社の商品だけでは売り場を確保することが難しくなっていきました。現在の百貨店の売り場は、そのほとんどが有名ブランド品で構成されています。そのため、企業としてある程度のスケールを保つには、メイドインジャパンの自社ブランドに加えて、海外ブランドの力も不可欠だったのです。
また、両方を扱うことは営業面でも大きなシナジーを生み出しています。お客様から見れば、弊社は手数が多く、多彩なメニューを持つ企業として映るはずです。たとえば、ひとつの海外ブランドで売り場をつくった際に、「ナガホリには他にもこういった商品があります」と別の提案へつなげることができます。結果として提案の幅が広がり、着実なシェア拡大につなげられることが大きな強みです。

ーー新規取引先の開拓において、具体的にどのような層をターゲットにしていますか。
長堀慶太:
主に富裕層のマーケットです。日本のジュエリー小売市場は回復傾向にあるものの、実際のところ半分ほどは海外ブランドが占めているのが現状です。そこで、富裕層のお客様が集まる既存の百貨店チャネルとの関係をさらに強化しつつ、百貨店以外の新たなチャネル開拓にも挑戦しています。具体的には、富裕層を顧客に持つ金融機関などと協業し、共同でのイベント開催や互いのお客様を紹介し合うといった新しいビジネスの構築を進めていく方針です。
ーー20代などの若年層へのアプローチはどのように行っているのでしょうか。
長堀慶太:
現在、業界全体を挙げて、若年層に向けた婚約指輪の取得率向上に注力しています。1990年代後半までは結婚するカップルの多くが婚約指輪を購入していたものの、昨今ではその割合が半分程度にまで落ち込んでしまいました。
そこで市場を再び活性化させるべく、業界を挙げてのキャンペーンを展開するほか、弊社としてもブライダルリングのブランドを複数用意し、百貨店や専門店の店頭での提案に力を入れています。さらに、結婚10周年をはじめとする記念日における新たな需要創造も推進しているところです。これらは決して弊社単独の課題にとどまらず、ジュエリー業界全体の未来に向けた極めて重要な取り組みであると捉えています。
非日常の世界観を届ける日本最大級のジュエリー展示会「創美展」
ーー貴社の世界観を象徴する展示会「創美展」の概要とシナジーについて教えてください。
長堀慶太:
「創美展」(※)は、帝国ホテルの孔雀の間を貸し切って年に2回開催している、日本最大級のジュエリー展示会です。かれこれ40年以上続けているこの展示会は、二日間で約1,800名のお客様にご来場いただいており、会場には普段の店頭では見られないような高品質なジュエリーが一堂に会します。
このような大規模な展示会を開催する背景には、日本には欧米のようなパーティー文化が少ないことが関係しています。美しいジュエリーをご購入いただいても、身につけて出向く場所がないと悩まれる方が少なくありません。だからこそ、お客様がとびきりのお洒落をして、美しいジュエリーの世界観に囲まれた非日常の空間を楽しめる、幸せな「場」を提供することが最大の意義なのです。お客様にワクワクしていただき、心から満足していただくことが、結果として弊社のイメージアップというシナジーに直結しています。こうした非日常な体験を通じてお客様との深い絆を育めることは、弊社にとって何よりの誇りです。

(※)「創美展」の実際の様子はこちら
・日本一のジュエリー展示会「創美展」プロモーションムービー
・日本一のジュエリー展示会【2025 夏の創美展】
「好循環の輪」で組織を強化 世界に誇るナガホリブランドへ
ーー今後の組織づくりや採用についての展望をお聞かせいただけますか。
長堀慶太:
業績を向上させることで社員の待遇改善につなげ、それがさらに一人ひとりのモチベーションを高めるという「好循環の輪」をつくり出すことが今の目標です。その一環として、社員がより高い意欲を持って業務にコミットできるよう、時代に見合った評価制度への見直しを進めており、満足感を持って長く働ける環境づくりこそが企業として最も重要だと捉えています。
また、採用面では新卒・中途ともに積極的に募集中です。これからのジュエリービジネスにおいて直接エンドユーザーへ魅力を届ける機会が増えていく中、ブランディングやマーケティング分野の強化が急務となっています。そのため、弊社が誇るものづくりのプロたちと連携しながら、商品の魅力を力強く世に広めていけるような人材にぜひ仲間に加わっていただきたいですね。
ーー中長期的なブランド戦略についてはどのようにお考えですか。
長堀慶太:
ナガホリという企業そのものを、しっかりとブランディングしていくことが中長期的な目標です。日本には「信頼できるジュエリー会社」というポジションが確立しきっていない部分があります。弊社が培ってきた歴史をベースに、品質が良く、誠実で信頼できるブランドとしての世界観をつくっていきたいですね。
また、アジアの20代などの若い世代からはメイド・イン・ジャパンが高く評価されることも増えています。そうした海外からの視点も取り入れながら、国内外でブランドイメージを定着させていく。それを5年から10年がかりで成し遂げたいと思っています。
編集後記
妥協のない品質へのこだわりと、愚直にものづくりに向き合う真摯な姿勢。長堀社長の飾らない言葉からは、上場企業のトップとしての誇りと、日本のジュエリー文化を支えてきた強い責任感が漲っていた。「さすがナガホリ」という確固たる信頼は、厳格な品質基準を守り抜く職人眼と、どんな時代も顧客に寄り添い続けてきた現場の熱量によって紡がれている。華やかな非日常を提供する「創美展」の輝きは、同社が目指す幸福感の象徴そのものだ。誠実なものづくりの魂を胸に、日本発のブランドとして新たな高みへと挑む株式会社ナガホリの躍進に、期待を寄せずにはいられない。

長堀慶太/1963年、東京都生まれ。成城大学経済学部卒業。1987年に協和銀行(現りそな銀行)に入行し、6年間勤務。1993年に株式会社ナガホリへ入社。1998年、常務取締役商品本部長、2008年に同社代表取締役社長に就任。2023年6月から一般社団法人日本ジュエリー協会会長に就任(現職。2027年6月まで)。