
創立40周年を迎え、長きにわたり障がい者雇用のパイオニアとして歩みを進めてきたオムロン京都太陽株式会社。事務や軽作業といった補助的な業務にとどまらず、制御機器などの生産という「モノづくりのど真ん中」を担う同社は、2026年6月に横尾直人氏という新たな代表取締役社長を迎えた。国内外の生産現場で培ったノウハウを武器に、「業務に人を付ける」のではなく、人視点で設備や工程を改善する「人に業務をつける」という独自の生産方式を深化させる横尾氏。社会課題の変化に伴う精神・発達障がい者雇用への挑戦や、長年蓄積された知見を社会へ還元する未来への展望に迫った。
モノづくりの知見を多様な人材の活躍へ活かす
ーーまずは、これまでのご経歴を教えていただけますか。
横尾直人:
私は1992年にオムロンに入社し、最初は静岡県の三島工場に配属されました。その後は滋賀県の草津工場や中国の上海工場を行き来しながら、長年にわたり制御機器事業の生産部門でキャリアを積んでいます。オムロンの制御機器を生産し、お客様に提供していく中で、モノづくりのベースとなるノウハウや、現場での改善活動に関する知見を蓄積してきました。
ーー2026年6月に貴社の代表へ就任された際の率直なお気持ちをお聞かせください。
横尾直人:
弊社の存在意義である「誰もが“イキイキ”と働き続けられる現場を創る」という使命を、一義的に必ず成し遂げ、絶やしてはいけないと強く感じました。オムロングループや共同出資のパートナーである太陽の家などから協力を得ながら、ベースとなる障がい者雇用を継続し、発展させていかなければなりません。
また近年は、社会的にも障がい者雇用の重要性が叫ばれ、法定雇用率の引き上げなどを背景に、雇用を受け入れる企業が増えています。弊社としても、これまでの経験を活かしつつ、新たな領域へのチャレンジャーとしてノウハウを蓄積していく必要があります。そして、そこで得た知見を社内外に発信し、世界において一人でも多くの障がいのある方が働く機会を得られる社会の実現につなげていきたいですね。
人に業務を合わせる独自の生産体制と職域拡大への挑戦

ーー貴社はどのような事業を展開されているのですか。
横尾直人:
障がい者雇用を始める段階では、障がい者にできそうな仕事を用意して人を充てることが一般的ですが、弊社はオムロンの主力事業である制御機器の生産という「ど真ん中の仕事」を担っています。そこで重要になるのが、「業務に人を付ける」のではなく、「人に業務をつける」というアプローチです。一人ひとりの特性を理解し、その人が能力を発揮できるように設備や工程を改善していく。これが私たちらしい強みだといえるでしょう。
ーー職域を広げるために、具体的にどのような工夫をされていますか。
横尾直人:
現在、「業務と人の見える化」を進めています。一つの業務を長く続けてベテランになっていただくことも重要ですが、本人が別の作業を希望した際には、新しい業務に挑戦できる環境を整えたいと考えているためです。
具体的には、業務で求められる要件と個人の能力を照らし合わせて適切な配置を行います。もし個人の能力が業務の難易度に届かない部分があれば、能力開発を行ってスキルを伸ばすか、あるいは治具の導入や設備改善によって、業務の難易度自体を下げるという双方向からのアプローチを取ります。人の能力向上と業務の難易度低下を総合的に進めることで、誰もが多様な業務を担える状態を目指しています。
精神・発達障がい雇用への挑戦と「究極のコミュニケーション」
ーー近年、新たに挑戦されている取り組みがあれば教えてください。
横尾直人:
弊社は設立から40周年を迎えましたが、社会的な課題の移り変わりとともに、7年ほど前から精神障がいや発達障がいの方の雇用受け入れを本格的に開始しました。長らく身体障がいの方が中心だったため、当初は受け入れ側のノウハウが少なく現場が混乱することもありました。
そこで、試行錯誤の末に導入したのが、SPISというWebツールを活用した「究極のコミュニケーション」です。SPISは、精神・発達障がい者本人とリーダー(指導者)が対話を通じて個人特性に合わせた評価項目を設定し、日々の体調や業務での気づきを可視化・共有する仕組みです。これにより、本人は自身の状態への理解を深めるとともに、周囲も必要な配慮やサポートを適切に把握できるようになります。その結果、互いを理解し合える関係性が育まれ、相互理解から相互成長へとつながっています。
ーー社内の環境づくりにおいてはどのような工夫を凝らしていますか。
横尾直人:
ハード面では、健常者も含めた「お互いが働きやすい環境」にするため、ユニバーサルデザインを採用しています。たとえば作業台の高さも、車椅子ユーザー専用にするのではなく、立って作業する人や座って作業する人など、特定の誰かに合わせるのではなく『みんなが働きやすい』を基準に工夫しています。また、知的障がいの人の構内搬送業務のサポートとしてエレベーターや動線をシールで色分けし、視覚的に分かりやすくしています。
また、全従業員で「徹底3S(整理・整頓・清掃)活動」を長年徹底しており、大小含めて年間1万件以上の改善アイデアが現場から上がるのも大きな特徴です。一人ひとりが「もっとこうすれば自分も周りも働きやすくなるのでは」と当事者意識を持ち、どんな小さな気づきでも気軽に声を上げられる風土が根付いている証拠だと自負しています。
蓄積したノウハウを社会へ 自律的キャリアを描ける組織へ
ーー今後の事業展開についてもお聞かせいただけますか。
横尾直人:
弊社として40年蓄積してきた障がい者雇用のノウハウを社外に発信・提供し、社会貢献していくことを目指しています。現在も、企業や大学、自治体関係者の方々が年間4,000人ほど、工場見学に訪れており、社外との活発なコミュニケーションを生かし、私たちが持つ知見を広く還元していきたいと考えています。
ーー社会への貢献を見据える一方で、従業員に対してはどのような展望を描いていますか。
横尾直人:
今後は「業務と人の見える化」をさらに進めていきたいと思います。業務の難易度と人の能力を可視化し、最適なマッチングを生み出すだけでなく、従業員一人ひとりの能力開発や職域拡大につなげる考えです。「別の業務にもチャレンジしたい」という意欲に応えられる環境をつくり、全員がいきいきと働ける会社を目指していきます。
編集後記
「人に業務をつける」。言葉にすればシンプルだが、それを高い品質が求められる製造現場で実現し続ける裏には、並々ならぬ現場の努力と試行錯誤がある。取材を通して最も心を打たれたのは、障がいを過剰に特別視するのではなく、一人ひとりの「特性」として冷静に分析し、どうすればその能力を最大化できるかを突き詰める、同社の極めてフラットで合理的な眼差しだ。「誰もが“イキイキ”と働き続けられる現場を創る」。その答えは机上の空論ではなく、年間1万件の改善アイデアを生み出し続ける彼らの現場にこそあるのではないだろうか。

横尾直人/1970年東京生まれ。1992年4月、オムロン株式会社に入社。2013年4月、OMRON(SHANGHAI)CO.,LTD.へ出向し企画室長に就任。2018年3月、同社インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー商品事業本部草津工場生産管理部部長に就任。2022年3月、同社同カンパニー生産SCM本部草津工場生産管理部部長に就任。2024年3月、OMRON(SHANGHAI)CO.,LTD.へ出向し企画室長に就任。2026年6月、オムロン京都太陽株式会社社長に就任し、現在に至る。