
小学校時代の図鑑やテーマパーク体験で宇宙に魅せられ、九州工業大学大学院で博士号を取得した倉原直美氏。その後、東京大学の特任研究員として約30億円規模の大型研究資金による小型衛星開発に従事し、2013年に大手の宇宙関連企業へ転職。民間ビジネスの最前線を経験した。2016年には株式会社インフォステラを創業し、直近ではさらなる事業成長のために三菱電機グループ入りを果たしている。クラウドデータセンターや海底ケーブルのような「宇宙通信の不可欠なインフラ企業」を目指す倉原氏に、これまでの軌跡と未来への展望、ともに挑む仲間への思いを聞いた。
宇宙への憧れから研究者 そして民間ビジネスの最前線へ
ーーまずは、宇宙分野に興味を持ったきっかけを教えていただけますか。
倉原直美:
原体験は、小学校時代にさかのぼります。私は低学年の頃から星の図鑑やギリシャ神話の本を読んでいましたが、決定打となったのは小学3年生のときに親に連れて行ってもらったテーマパークでの体験でした。そこで大きな影響を受け、将来は何かしら宇宙に関係する仕事をしたいと強く思うようになったのです。その夢を追い続ける形で研究の道へ進み、大学院ではJAXAと共同でイオンエンジンや宇宙プラズマ環境の研究に没頭しました。そして博士号を取得した後、東京大学の特任研究員に着任した次第です。
ーー特任研究員時代にはどのような研究をされていたのですか。
倉原直美:
実利用を目的とした小型衛星の開発と、その実装に向けた実証を行うプロジェクトに取り組んでいました。当時は画期的だった30億円以上の大型研究資金によるプロジェクトで、50キロほどの小型衛星を合計4機つくりました。東京大学だけでなく、ほかのさまざまな大学の先生方も参加する大がかりなものでしたね。ただ衛星をつくって打ち上げるだけではなく、それが社会で実際に利用できることを実証することが目標でした。たとえば、搭載したカメラで撮影した画像が農業の役に立つなど、実社会で使われる性能を示す必要がありました。サービスレベルで実装できるソリューションを提供できると、証明したかったのです。とても小さな衛星でも実社会の役に立つと示すことに、大きなやりがいを感じていました。
ーーその後研究室を離れ、民間企業へと進まれた理由をお聞かせください。
倉原直美:
民間の宇宙ビジネスの盛り上がりを肌で感じ、自らその世界に飛び込みたいと考えたからです。2010年代に入ると、海外を中心に宇宙系のスタートアップが出始めていました。学生時代の友人たちが次々と民間企業へ就職していくのを見ていましたし、私もビジネスの最前線を体験してみたいと思ったのです。そこで、2013年に海外に土台がある大手の宇宙関連企業に転職したのです。
自ら限界をつくらない世界的企業との提携と起業への決意

ーー前職での経験を経て、貴社を創業した背景は何でしたか。
倉原直美:
大企業の枠組みでは実行が難しかった、小型衛星向けの新規事業に自ら挑戦するためです。前職では、成果ベースの働き方など多くの学びがありました。ただし、当時の顧客は政府寄りの大型案件が中心で、私が提案した新しいベンチャー向けの事業は規模の観点で実行が難しかったのです。それならば自分で起業して挑戦しようと決意し、2016年にインフォステラを創業しました。
ーー創業後、事業を拡大していく中で最大の転機となった出来事について教えてください。
倉原直美:
自ら限界をつくらず、ある世界的企業と提携できたことです。創業後、私たちがプロダクトを発表した直後のタイミングで、あるグローバルIT企業が自社で世界中にアンテナネットワークをつくると発表しました。強大な競合の出現に社内は騒然としましたが、参加していたアクセラレータプログラムのメンターと議論する中で、「もし彼らがプラットフォームに参加してくれたら、強力なパートナーにもなるはず。なぜ相談しに行かないのか」と背中を押されたのです。そこで初めて「相手にされないだろう」と勝手に自分の限界をつくっていたことに気づき、直接アプローチをした結果、提携に至ることができました。また、ある国内企業が初めてパートナーとなり、地上局のアンテナをつないでくださったことも大きな転機でした。
三菱電機グループ入りが切り拓く宇宙インフラへの道
ーー直近では三菱電機グループ入りを果たされましたが、どのような背景からでしょうか。
倉原直美:
政府や安全保障分野を中心とした、大型案件を獲得して運用できる体制を構築するためです。今、宇宙産業全体で安全保障向けのニーズが高まっており、この分野のお客様を獲得することが事業成長に直結します。もちろん、スタートアップとして単独で上場を目指す道を諦めることには、非常に悩みました。しかし、国の安全保障に関わる大規模なプロジェクトを、短期間で確実に成し遂げる必要があります。単独で進めるよりも、大企業である三菱電機グループの傘下に入ったほうが成功確率は飛躍的に上がると判断したのです。
また、政府系の案件では、プロダクトの質以前に通信インフラを任せるだけの信用が問われます。「その会社が来年も存続しているか」という、企業としての安定性が求められるのです。資金繰りを気にしなければならないスタートアップでは、契約の検討の土俵にすら上がれないという現実もありました。だからこそ、グループ入りによって一定の信頼を得る決断をしました。
ーー中長期的には宇宙産業でどのようなポジションを確立したいとお考えですか。
倉原直美:
衛星通信のインフラ企業としての立ち位置を確立したいと考えています。規模こそ違いますが、大手クラウド企業がデータセンターなどを保有している状況と似ています。彼らがソフトウェア技術をコアにしつつ、海底ケーブルのようなインフラを支えているイメージです。私たちもそのような、社会の基盤となるインフラを目指しています。保守的で古いインフラ企業ではなく、成長を続けるクラウド企業のような組織にしていきたいですね。インフォステラが提供するシステムが、衛星通信の絶対的な基盤として社会を支えられるよう成長を続けます。
安全圏を飛び出し当事者意識を持って成し遂げる組織へ
ーー今後、貴社ではどのような人材を求めていますか。
倉原直美:
現在、各チームのマネージャーや部長、CXOレベルで活躍していただける方の採用に力を入れています。私たちが求めているのは、指示を待つのではなく、当事者意識を持って事業を牽引する野心を持った人です。能力が非常に高くても、確実に成果を出せるとわかっている安全圏から出てこない人は少なくありません。
たとえば、現在の売上高を4倍、10倍へと飛躍させる局面で、「その成長を私がつくります」と宣言し、実行できるオーナーシップを持った人は貴重なのです。「すべてを任せる代わりに、結果に対する責任も求める」と言われても、「受けて立つ」と胸を張れるほどの熱量を持った方を求めています。「自分がこの会社の売上高を牽引してやる」という強い思いを持つ方々と、一緒に働きたいですね。
ーー最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
倉原直美:
勝手に自分の限界やブレーキをつくらず、まずは挑戦してみてほしいと思います。私自身が世界的企業へ自らアプローチして提携を実現したように、自分で可能性を潰してしまっていることは意外と多いものです。「宇宙に関わる」という原動力を胸に、やりたいことがあるならとにかく試してみてください。挑戦した結果としてうまくいかなかったとしても、挑戦せずに後悔するよりはずっと良いはずです。
編集後記
「宇宙通信のインフラ企業を目指す」という壮大な目標を掲げながらも、倉原氏の語り口は終始地に足が着いており確かな信念を感じさせた。世界的企業への直接交渉というエピソードが象徴するように、自ら設定しがちな「限界」を取り払い、安全圏の外へと踏み出し当事者意識を持ってやり切るスタンスこそが、同社の大きな推進力となっている。世界的企業への直接交渉を成功させた挑戦心は、これからも未知の領域を切り拓いていくだろう。宇宙というフロンティアに絶対的な基盤を構築していくインフォステラと、そこに集う熱量あふれる人材が創り出す未来が非常に楽しみだ。

倉原直美/九州工業大学大学院で電気工学博士号取得。在学中、JAXAと共同でイオンエンジンと宇宙プラズマ環境の研究に従事。東京大学特任研究員として低軌道衛星開発プロジェクトに携わった他、Integral Systems Japan株式会社にて衛星地上システムエンジニアとして勤務。2016年に株式会社インフォステラを設立。