※本ページ内の情報は2026年9月時点のものです。

現在、61もの多彩なブランドを展開し、約450店舗を構える株式会社焼肉坂井ホールディングス。赤字体質からの脱却を目指し、2023年にトップに就任したのが髙橋仁志氏である。銀行員から外食産業への転身、M&Aによる企業再生、そして大ヒットベーカリーブランドの創出と、異色のキャリアを歩んできた同氏。社長就任後、既存ブランドの価値を高める「リブランディング」と、価格適正化を図る「リプライス」を断行し、業績のV字回復を実現した。70周年に向けて、同社はどのような未来を描いているのか。変革の軌跡と、日本の食を世界へ届ける壮大な戦略に迫る。

家族への思いを胸に飛び込んだ外食フランチャイズでの独立と挑戦

ーーまずは、これまでのご経歴をお聞かせいただけますか。

髙橋仁志:
独立前は銀行員として働いていました。実家が割烹料理屋を営んでおり、休みなく働く父の姿を見ていたため、土日休みのあるサラリーマンに憧れていました。その中でも私自身が人とのコミュニケーションを取ることが好きだったので、いろいろな人と関われる銀行に入行したのです。入行後は営業成績がトップクラスになるなど、銀行の仕事は本当に好きで、最後まで勤め上げるつもりでした。

しかし、24歳で結婚し、双子の娘が生まれたことが転機となりました。将来の教育資金などを現実的に考えた結果、自分で稼がなければいけないと強く感じたのです。そこで、銀行員時代に担当していたお客様の事業を参考にフランチャイズでの独立を決意し、宅配ピザや大手カフェチェーンでの展開を始めたのです。

トレンドを生み出す圧倒的なブランド構築力と消費者目線

ーーその後、ベーカリー事業を開拓した背景を教えてください。

髙橋仁志:
フランチャイズ事業を13年間順調に経営した後、37歳のときに自身の人生を再考し、会社を売却しました。その後、事業を買収して再生するM&Aの仕事に携わる中で、ベーカリーの事業と出会ったのです。そして40歳のときに地元・三重に戻り、『513 BAKERY(コイサンベーカリー)』を立ち上げました。父の店の名前だった割烹「こいさん」を世に残したいという思いから名付けたブランドです。

さらに、そこから高級食パン事業を切り出して『銀座に志かわ』を立ち上げました。日本の食やトレンドの中心である銀座から発信すれば、全国的なブームをつくれると考えたためです。私は料理の修業経験はありません。だからこそ純粋に「お客様の目線で見て、もう一度食べたくなるものは何か」を考え抜き、消費者目線を事業の軸として大切にしてきました。

ーー社長就任時、会社はどのような状況でしたか。

髙橋仁志:
私が2023年に株式会社焼肉坂井ホールディングスの社長に就任した当時、弊社はコロナ禍前から5期連続で営業赤字に陥っている状況でした。長引く業績低迷からディスカウント販促なども行っていたが、ブランド価値まで落としてしまう悪循環が生じていたのです。

しかし、社内をよく見渡すと、50年や70年と続く歴史あるブランドが数多く存在していました。そこにある固有のストーリーは、決してお金では買えない確かな価値です。だからこそ事業を再構築できると見立て、回転寿司や居酒屋、和風スパゲッティなど多様な業態で「リブランディング」に着手しました。具体的にはロゴや制服、店舗の内装を現代的で温かみのあるデザインへと刷新。それに伴い、メニューの品質を向上させ、適切な価格設定を行う「リプライス」を実行に移したのです。従業員の皆が自信を持って提供する体制へと変革し、結果的に営業黒字へのV字回復につながりました。

内製化によるスピード感あるシステム開発と好循環を生む採用強化

ーー事業成長を加速させるための、現場のオペレーションや採用における戦略を教えてください。

髙橋仁志:
店舗のDX化を図って、モバイルオーダーやキャッシュレス、配膳ロボットの導入などを積極的に進めています。弊社の強みは、システム開発や物流、店舗の建築デザインなどをグループ内で内製化している点です。自社で一貫して行うことで、最先端の技術をスピーディーに現場へ落とし込めます。

また、先ほどお話したリブランディングは採用にも大きな変化をもたらしました。店舗がスタイリッシュに生まれ変わり活気が出たことで、「このお店で働きたい」と応募が増加し、好循環が生まれたのです。今後はAIなどの導入を進める中、こうしたブランド価値の向上と並行して、より魅力的な組織・店舗づくりを加速させていきます。さらに、社名にも冠している「焼肉」業態にも改めて注力していきます。設備投資やメニューの再構築を進め、グループの成長を牽引する柱として一層磨きをかけていく考えです。

ーー最後に、今後のビジョンについてお聞かせいただけますか。

髙橋仁志:
3年後の70周年に向けて、「日本の食の総合企業」としての確固たる地位を確立します。社長就任以降の勢いを加速させるため、既存ブランドを磨き上げる「RE(再構築)」を推進してきました。今後は新業態の開発やM&Aを通じた「CREATE(創造)」のフェーズへと移行していきます。まずは国内で未出店の5県へ進出し、全国制覇を果たすことが目標です。

さらに注力しているのが、海外戦略です。現在はアジアを中心に展開しており、今後は寿司だけでなく、パンや和風スパゲッティ、居酒屋など、弊社が抱える豊富なブランド群を「横展開」していく構想です。私たちとパートナーシップを結べば、日本の多様な食文化をワンストップでその国に展開できるという圧倒的な強みがあります。ゆくゆくはニューヨークやパリなど、世界の中心地へ進出していく未来像を描きながら、挑戦を続けていきます。

編集後記

銀行員から始まり、類まれなる行動力と消費者目線で数々のビジネスを成功に導いてきた髙橋氏。その根底には、常に美味しいものを追求し続ける「食」への深い探求心がある。「RE」から「CREATE」へと向かう同社。焼肉にとどまらない豊富なブランド群を武器に、日本の多様な食文化をワンストップで世界の中心地へ届けるという壮大な未来図は、これからの外食産業を大きく広げる可能性に満ちている。そのプロセスをこれからも追い続けたい。

髙橋仁志/1968年、三重県生まれ。大学を卒業後、三重銀行(現三十三銀行)に入行。3年後に退行。幼少期より割烹を営む両親の姿に影響を受け、24歳で外食業ビジネスを開始。2008年に三重県・愛知県・東京都・北海道でベーカリー事業を展開する株式会社コイサンズを創業。その後、高級食パン専門店「銀座に志かわ」を率いる株式会社銀座仁志川の代表取締役社長を経て、2023年6月、現職の株式会社焼肉坂井ホールディングス代表取締役社長に就任。