※本ページ内の情報は2026年10月時点のものです。

パイロットの夢を断念し、現場の最前線で14年間介護に向き合ってきた株式会社アライブメディケアの安田雄太氏。その後本社配属となり、同氏を待ち受けていたのは「数字」のみで現場を評価し、疲弊させる業界の構造的な課題だった。現場を守るため、自ら経営陣の刷新と存在意義の再構築という抜本的な組織改革を断行。社長就任後は、スタッフの幸福を最優先する「ウェルビーイング経営」と独自の手法を掲げ、組織を回復させた。これからの介護をどのように構築していくのか、その具体的な軌跡と今後の展開に迫る。

挫折から見つけた原点と 現場を守る覚悟の組織改革

ーーまずは、介護業界へ進まれた経緯について教えていただけますでしょうか。

安田雄太:
新しい価値を自らの手でつくり出せる領域だと考えたからです。私は成人する頃まで、パイロットを目指していました。しかし怪我によってその夢を断たれ、「私は何のために生きるのか」と深く悩みました。そのとき、幼い頃から人のお世話をし、誰かを喜ばせることが好きだったと思い出したのです。戦隊モノで言えば、常に真ん中でみんなを引っ張る「レッド」のような役割です。こうした自身の原点に立ち返り、大学院で医療や介護について学び直しました。そして卒業後、自らの力を試しながら裁量を持って挑戦できる環境を求め、この業界へ飛び込んだのです。

ーーその後はどのようなキャリアを歩まれましたか。

安田雄太:
14年間にわたって介護の現場で経験を積んだ後、本社へ異動し、自ら組織を立て直す道を選びました。入社後は現場の最前線に立ち続けていましたが、2015年の本社配属が大きな転機となります。そこで直面したのは、利益目標を最優先するあまり、現場に過度な負担を強いる経営構造でした。現場のスタッフが疲弊し、離職問題が生じる悪循環に陥っていたのです。共に汗を流した仲間たちが理不尽に苦しむ姿に、私は強い憤りを覚えました。現場を守る責任は自分にあると腹をくくり、当時の経営陣に対して一歩もひかず、組織改革の決断を下したわけです。

ーーそこからどのように組織を立て直していきましたか。

安田雄太:
まず着手したのは、「私たちは何のためにここにいるのか」という存在意義の言語化です。2021年の社長就任直後、改革を本格化させた矢先にコロナ禍が直撃しました。さらに、新たな方針に対して旧体制に慣れた層からの反発が起き、離職率は一時40%まで上昇したのです。それでも「もう失うものはない」と覚悟を決めました。早朝の施設へ足を運び、目指すべきケアのあり方を直接スタッフと対話し続けたのです。その結果、思いに共感する心優しいメンバーが残ってくれました。彼らが理想の介護をSNSなどで発信したことで、思いに共鳴する優秀な人材が他社からも集まるようになりました。

「ウェルビーイング経営」と独自のメソッド

ーー現在掲げている「ウェルビーイング経営」とは、具体的にどのような取り組みですか。

安田雄太:
スタッフの幸福を最優先し、それを組織の文化として根付かせる取り組みです。介護において最も重要なのは「人」です。スタッフ自身が幸せでなければ、お客様を幸せにはできません。人を厳しく指導するのではなく、どうすれば人が育ち、幸せになれるのかを追求しています。私自身が毎月現場へ足を運んで対話を重ねており、スタッフからは「フランクなお父さん」と慕われ、風通しの良い風土が生まれました。

また、独りよがりな経営を防ぐため、外部からの評価も重視しています。その結果、ホワイト企業大賞で「推進賞」を、続く第12回では「継続賞」を受賞し、客観的な証明を得ることができました。

ーーケアの質という面では、どのような強みがあるのでしょうか。

安田雄太:
お客様の真の望みを叶える「情愛」と、客観的なデータに基づく「科学」の融合です。私たちは「アライブケアメソッド」という独自の取り組みを行っています。基盤にあるのは、お客様と真摯に向き合う情愛の精神です。そこに、順天堂大学などの専門機関と連携した多剤削減の推進や、幸福度の分析といった科学的アプローチを掛け合わせています。この実績が評価され、運営する10の施設が日本認知症ケア学会より「機関認定施設」として認定されました。情愛と科学の両輪を回すことで、再現性の高い良質なサービスを提供しています。

報われる環境を築き介護の未来を共につくる仲間を

ーーこの先、どのような事業展開を予定されていますか。

安田雄太:
まず取り組むのは、業界に蔓延する不当な待遇の改善です。利他的で優しい人々が低賃金で働く構造は、正さなければなりません。弊社ではすでに施設長やスタッフの年収下限を業界最高水準に引き上げ、正当な対価を支払う仕組みを整えており、今後もこの改善を推進します。10年後の成長戦略としては、富裕層向けのプレミアムなサービスを開発し単価向上を進めます。

同時に、在宅や地方での定額制サービスの展開も視野にいれています。そこではAIカメラなどを活用したデジタル化による見守り強化や、現在従業員の約40%を占める優秀な海外人材を次世代の幹部へ登用します。ゆくゆくは、高齢化が進む東南アジアなどの課題解決にも貢献する計画です。

ーー今後、どのような方と一緒に働いていきたいですか。

安田雄太:
自ら日本の介護を根本からつくり変える、その気概を持った方です。指示を待つのではなく、自発的に動ける方を求めています。これまでの業界経験の有無は問いません。私たちの考えに共感し、次の大きな挑戦を共に面白がりながら進めてくれる方をお待ちしています。

編集後記

現場の最前線を知り尽くしているからこその「憤り」、そして「スタッフの幸せ」への揺るぎない確信。安田氏の言葉からは、業界の構造的な課題を自らの手で変革しようとする熱量が感じられた。「情愛」という人間本来の温かみと、科学やデジタル技術といった最先端のアプローチを掛け合わせたアライブメディケアの挑戦。それは、これからの日本社会全体にとっての大きな希望となるだろう。

安田雄太/日大理工学部航空学科卒。その後、大学院で修士課程を修了し、2001年アライブメディケア新卒入社。14年にわたって現場からホーム長までを経験、コロナ禍の2021年に社長就任し経営再建を果たす。現在は都内12カ所のホームを運営し「Well-being」を核とした透明性の高い経営を実践。「ホワイト企業大賞継続賞」「経営デザインランクアップ認証」等を受賞。自らもYouTube等で発信し、スタッフが誇りを持てる組織文化の醸成と、介護業界のイメージ刷新に邁進している。