
石川県を拠点に、工作機械メーカー向けの金属加工から組み立てまでを一貫して手がけるヨシオ工業株式会社。10メートル規模の大型設備を擁する同社は現在、従業員一人ひとりが自ら考え行動する「積極的な組織風土」への変革を進めている。代表取締役社長の徳野新太郎氏は、大学進学を機に上京し、監査法人などで経験を積んだ後に地元へUターンした。家業であるヨシオ工業に入社し、社内コミュニケーションの活性化やリスキリングに尽力。複数の企業経営にも携わりながら次世代への権限移譲を推し進める徳野氏に、家業を継いだ経緯から組織改革への歩み、そして未来を見据えたビジョンまでを詳しくうかがった。
外の世界を知るからこそ見えた、社内コミュニケーションの壁
ーーまずは、家業である貴社に入社された経緯を教えていただけますか。
徳野新太郎:
もともとは大学進学を機に上京した後、監査法人で働いていました。実家を出る際、親からは家業を継がなくてもいいと言われていたのですが、次第に父や周囲の方々から「戻ってこい」と声をかけられるようになったのです。そんな中で最終的な決定打となったのは、幼馴染が地元企業の社長に就任する際、「一緒に石川で社長をやって、地元を盛り上げよう」と誘ってくれたことでした。この言葉をきっかけに背中を押され、地元へのUターンを決意しました。
ーー実際に入社された当時、社内にはどのような課題がありましたか。
徳野新太郎:
数字面の立て直しが必要だったのはもちろんですが、それ以上に社内のコミュニケーション不足が大きな課題だと感じました。当時は部署間の交流がほとんどなく、各個人が黙々と自分の作業に向き合う環境だったのです。これでは組織としての力が発揮できないと考え、まずは従業員一人ひとりとの個別面談から始めました。また、並行して工場内での配置転換を実施したり、外部企業への工場見学の機会を設けたりしました。その結果として、従業員が自らの業務の無駄に気づくなど、現場に多くの学びが生まれていきました。
「社会で価値ある人」を目指す 従業員主体の仕組みづくり

ーー組織改革を進める中で、社内はどのように変化していきましたか。
徳野新太郎:
従業員一人ひとりが自らの価値を上げることに時間を使うようになりました。私は常々、従業員に対して「社内で価値ある人材にとどまらず、社会で価値ある人を目指そう」と伝えています。そのためには、会社が従業員を大切にし、学ぶ場を提供し続けることが不可欠です。個人の価値向上が、結果として会社の価値や利益につながっていくと信じています。
ーー従業員の方から生まれた具体的な業務改善の事例をうかがえますか。
徳野新太郎:
有給休暇の申請などを、社内ポータルサイトを通じてシステム化した事例があります。私が大枠のアイデアを出すと、従業員が自らツールを活用して仕組みをかたちにしてくれました。ほかにも、品質管理の国際規格(ISO)に関する手続きなどが従業員の発案でフォーム化されています。従業員一人ひとりが工夫しながら、業務改善に前向きに取り組む文化がしっかりと根付いています。
大型設備による一貫対応と 最大の武器である「若手の活力」
ーー改めて、貴社の事業内容と強みについて教えてください。
徳野新太郎:
現在は設備機械メーカーなどのOEM先として活動中です。金属加工から組み立てまでを一貫して引き受けられる体制が整っていて、10メートル規模の大型設備を備え、丸ごとご依頼いただける点も事業における大きな強みといえるでしょう。そして何より、平均年齢38歳という若手従業員が多く在籍し、元気に活躍していることが最大の武器です。
ーー本業以外にも、複数の事業に携わっている理由を教えてください。
徳野新太郎:
2021年頃から、「一緒に事業をしないか」とお声がけいただく機会が増えたことがきっかけです。同時に、私自身がさまざまな活動を通じて、弊社を知ってもらうきっかけをつくりたいという思いもありました。金属加工業は商品だけで差別化を図るのが難しい領域だからこそ、トップ自らが表に出ることも大切だと考えています。常に尊敬できる仲間たちと楽しく対話しながら、業務に取り組んでいます。
ーー複数の事業を担う中で、ご自身の判断や行動の軸とされている基準は何でしょうか。
徳野新太郎:
身近にいる人たちのためになる行動を、何よりも大切にしています。一般的には「お客様のため」と言うべき場面かもしれません。しかし私自身は、目に入る人や手が届く範囲にいる方のために行動することを強く意識してきました。従業員をはじめ、友人や経営者仲間など、身近な人たちのために働きたいという思いが常に真ん中にあるのです。
また、客観的な「数字」を重視することも大きな判断基準に据えています。たとえば、私は(他社で)広告代理店の取締役なども務めているのですが、従来のマス広告的なアプローチだけでなく、実際にどれだけの反響やパフォーマンスにつながるのか、より解像度の高い客観的な数字を示す必要性を強く感じています。
広告代理店事業のみならず、どの事業においても、物事を判断する際は数字によって説得力を持たせることは常に意識しています。社内のメンバーに対しても、私に何かを提案する際は、具体的な数字や事例を提示するよう伝えてきました。
ーー最後に、今後のビジョンを教えてください。
徳野新太郎:
トップに依存しない組織をつくることが最大の目標です。企業として対応できる領域を広げながら次世代を担う人材を育て、彼らに積極的に任せていきたいと考えており、会社という枠組みに固執することなく権限移譲を進めていく方針です。従業員が豊かになることで会社も成長していく、そのような好循環を目指しています。現在は新規の営業力強化と管理部門の育成に注力しているところであり、既存のお取引先様との信頼関係を大切に深めつつ、さらに対応領域を広げて新規開拓も推進できる体制づくりに挑戦を続けています。
さらに、現場から管理職になった従業員がスムーズにマネジメントできるよう、サポート体制の充実も図っていく予定です。私たちは、従業員一人ひとりが成長し、いきいきと働ける環境を何よりも大切にしています。この考え方に共感していただける方は、ぜひお気軽にご連絡ください。これからも仲間たちとともに、よりよい社会をつくるための挑戦を続けていければと思います。
編集後記
徳野氏へのインタビューを通じて最も心に残ったのは、従業員の成長に対する揺るぎない信念だ。「社会で価値ある人を目指す」という言葉には、会社という枠組みを超えて個人の人生を豊かにしたいという同氏の熱量が込められていた。トップダウンではなく、従業員自らが考えて業務改善のアイデアを形にしていく活気ある社風は、そうした真摯な向き合い方から生まれたものだろう。次世代への権限移譲を掲げ、特定の個人に依存しない組織づくりを図る同社。従業員の成長と企業の進化がリンクするその飽くなき挑戦は、これからも周囲を巻き込みながら力強く進んでいくに違いない。

徳野新太郎/1984年4月、石川県石川郡野々市町(現:野々市市)生まれ。2008年3月、慶應義塾大学総合政策学部(SFC)卒業。太陽ASG監査法人(現:太陽有限責任監査法人)、監査法人アヴァンティアを経て、2018年4月、家業であるヨシオ工業株式会社に入社。2021年12月、代表取締役社長に就任。その前後から連続起業家および社会起業家として活動。複数企業の経営に携わる。