
新宿・歌舞伎町にそびえ立つ「東急歌舞伎町タワー」。その中核施設の運営を担うのが株式会社TSTエンタテイメントだ。現在同社の舵取りをしているのが、2025年に代表取締役社長に就任した都甲義教氏である。ダイエーでの店舗開発から金融・不動産の世界を経て、現在のエンターテインメント事業へと至る多彩なキャリアを有する同氏だが、その根底には20代で経験した「裁量と達成感」という原体験がある。多様なプロフェッショナルを束ね、歌舞伎町から世界へ発信する組織づくりと事業展望に迫った。
激動のスタート ゼロから生み出した「自主性」と「責任感」
ーーまずは、ご自身のキャリアの原点について教えていただけますか。
都甲義教:
現在の人材育成の起点となっているのは、新卒でダイエーに入社し、5年目を迎えた頃に携わった沖縄でのショッピングセンター開発プロジェクトです。その頃の私は店舗開発の部署に配属され、社会人としての基礎を学んでいた時期でした。
当該プロジェクトの土地は、元々ダイエーが出店する計画があったのですが、出店計画の見直しにより遊休化したものをテナント誘致のうえ有効活用したものです。開発の条件としては、許認可の関係により1年程度でオープンさせる必要があり、追加の設備投資も出来ない厳しい条件でした。一方で初めて任される大きなプロジェクトであり、非常にやりがいを感じた記憶があります。
ーーそのような厳しい条件のもと、どのようにプロジェクトを推進したのですか。
都甲義教:
スケジュール的な課題は早急に計画着手し、事業計画の策定、テナント誘致、行政・地元調整、建築計画からコストの調整まで、全ての業務に携わり、計画から半年程度で建物着工にこぎつけました。資金的な課題は、リース会社を活用することで追加の設備投資を発生させずに計画を推進することができました。また、運営面においても、開業販促や開業後の集客イベントを、地元のテレビ局の方の協力を得ながらCM作成など、実施することができたのも良い思い出です。当時はプレッシャーもありましたが、ある程度の裁量を持って推進できたことが本当に楽しく、実際に成し遂げられたことで「自主性」や「責任感」が育まれました。人間として大きく成長したと実感し、この経験こそが今の私の軸になっています。
不動産・金融の専門性を経て事業の「運営側」へ
ーー沖縄での経験を経て、その後はどのような道へ進まれたのですか。
都甲義教:
不動産について基礎から学び直そうと考え、信託銀行へ転職しました。2000年代以降は不動産の証券化やファンドといった新しい仕組みが動き始めた時期でもあったため、業務用不動産の仲介や不動産証券化アレンジメントといった不動産・金融の専門性を徹底的に磨き上げる日々が続きました。
しかし、キャリアを積む中で「不動産事業に直接関わりたい」という思いが徐々に強くなっていったのです。そこで、自分自身も沿線住民として親しみもあり、複数の大規模プロジェクトを推進していた東京急行電鉄(現・東急株式会社)に転職しました。
ーー東京急行電鉄へ移られてから、貴社の社長に就任するまでの経緯をお聞かせください。
都甲義教:
東急では、転職後は主に「二子玉川ライズ」の開発や運営に携わりました。そして2020年から東急歌舞伎町タワーのプロジェクトの担当となり、開業に向けて施設の運営計画の策定やテナントリーシング業務などに携わっていました。
その後、施設の開業を迎える2023年にTSTエンタテイメントへ兼務出向して、副社長として施設の運営に尽力し、そして2025年に弊社の社長へ就任しました。私はこれまでエンタメ業界一筋で歩んできた人間ではありません。しかし、弊社にはエンタメへの深い知識と熱意を持った素晴らしいメンバーが集まっています。現場の最前線に立ちながら、彼らがのびのびと好きなことに挑戦できるよう環境を整えることが、私の重要な役割だと考えています。
多様な「専門性」が交差する お互いをリスペクトし合う組織

ーー現在の貴社の組織体制を教えていただけますか。
都甲義教:
エンタメの第一線で活躍してきた多様なメンバーが集結しています。プロパー社員以外にも、出資者である東急グループや株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントからの出向者をはじめ、多様なバックグラウンドを持つメンバーが在籍しています。また、エンタメ業界の様々な企業とも連携しながら日々施設の運営をしています。
ーー多様なメンバーをまとめる上で、最も重視していることは何でしょうか。
都甲義教:
東急歌舞伎町タワーのコンセプトである“好きを極める”を、社員自身が体現できる環境づくりです。ナイトクラブや劇場、ライブホールなど多くの顔を持つ24時間稼働の本施設では、社員それぞれが持つ「専門性」が必要不可欠です。多様なバックグラウンドや専門性を持つメンバーが、それぞれの強みを尊重しながら、足りない部分を補完し合える組織を構築してきました。
また、私自身が沖縄のプロジェクトで経験したように、弊社の社員にも裁量を持たせる方針を貫いています。放任ではなく見守りながら「達成した」という経験を通して成長してもらい、結果として会社にも大きく貢献してほしいという思いが根底にあるからです。
ーー最後に、今後の展望についてお聞かせください。
都甲義教:
海外からのお客様が非常に多いというインバウンドの立地特性を最大限に活かし、グローバルな「情報ハブ」としての機能を強化していきます。ここで得られた情報やトレンドを、次のサービス展開やマーケティングに活かしていく仕組みづくりを進めていきます。また、主催イベントの強化による収益力とブランド力の向上にも注力します。歌舞伎町の「エンターテインメントの中核施設」として、世界中から訪れる人々に熱狂と感動を提供し続けたいと考えています。
編集後記
「仕事を任され、自らやり遂げることで人は成長する」。都甲社長の言葉には、激動の現場で培われた実体験に基づく揺るぎない熱量がある。指示を待たず、自ら考え行動する余白を惜しみなく社員へ与えるリーダーシップは、次世代の組織のあり方を鮮やかに提示している。多様なDNAが交わり、各々の「専門性」がリスペクトされる環境。彼らが「好きを極める」熱狂は、国境を越え、歌舞伎町から世界中へと力強く響き渡っていくに違いない。

都甲義教/1972年、大分県生まれ。横浜国立大学卒業。1996年に株式会社ダイエー入社。2003年に住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)へ入社。2008年に東京急行電鉄(現・東急株式会社)入社。2023年に株式会社TSTエンタテイメントに兼務出向。2025年に同社代表取締役社長に就任。