※本ページ内の情報は2026年9月時点のものです。

1975年熊本県生まれ。大学卒業後、スーパーでの修業を経て23歳で株式会社藤本物産に入社した藤本泰弘氏。青果物卸売から直営店展開まで、一貫して手掛けるまでに成長した同社でキャリアを重ね、38歳で代表取締役社長に就任した。現在は、生産者の高齢化や耕作放棄地といった農業課題に真正面から向き合い、独自のサプライチェーンを活かした生産者支援に注力している。「日本の食のインフラをダイナミックに支える」という壮大な使命を掲げて、流通の常識を変えようと奔走する同社の代表取締役社長、藤本泰弘氏に、組織づくりから未来の農業に向けた展望までを聞いた。

飛躍的な成長と受け継がれるDNA

ーーまずは、入社当時から現在までの会社の歩みを教えていただけますか。

藤本泰弘:
私が入社した23歳の頃は、売上高が現在の半分ほどで、従業員数も3分の1程度、直営店舗も2店舗のみという、社員全員の顔と名前が一致する規模でした。そこから徐々に拠点を増やし、現在ではグループ全体で400名を超える従業員と、20店舗以上の直営店を構えるまでに成長しています。この歩みを支えてきたのは、先代から受け継ぐ「お客様を喜ばせる」というDNAと、それを実現するための「労働環境の改善」です。お客様に喜んでいただくためには、まず自分たち社員が幸せでなければなりません。かつては営業が商品の買い付けから仕分け、配送までを行う肉体的負担の大きい環境でしたが、営業と物流の役割を完全に分離するなどして現場を整えてきました。このように社員が働きやすい環境を構築し続けてきた結果が、現在のスケールメリットを活かした事業展開につながっています。

ーー組織が拡大する中で、リーダーとして大切にされている流儀は何ですか。

藤本泰弘:
社長になってからも、社員と同じ格好で、同じ目線で現場に立ち続けることです。出社時間も皆と同じで、毎朝5時半には会社に来ています。これは先代たちの姿を見て学んだことです。言葉だけで教えるよりも、トップ自身が率先して動く「背中で見せる」姿勢こそが、社員の心に届くと信じています。社員は上の人間がどう動いているかをしっかり見ていますから、自らが行動で示すことを何よりも重んじています。

双方向で選び合う独自の採用戦略

ーー新たな人材の採用においてはどのような取り組みを行っていますか。

藤本泰弘:
弊社が求める人物像の根底にある「利他の心」を見極めるため、20代の若手社員を交えた面接を行っています。自分のためだけでなく、周りで困っている人に気づき、手を差し伸べられる人間性を重視しているからです。そのため、私と学生の間に、入社1、2年目の20代の先輩社員を座らせて最終面接を進めるようにしました。学生の目の前で若手社員に「うちの会社の嫌なところを言ってごらん」と話してもらっているのも、良い面ばかりをアピールして入社後にギャップを感じるよりも、リアルな情報を最初から包み隠さず伝えるためです。
当社の面接は、単に会社が学生を見極める場ではありません。「お互いに選び合う場」であるべきだと私は考えています。新人にも学生を選んでもらうし、学生さんにも会社を選んでもらい、双方が心から納得して選び合える関係性こそが、入社後のミスマッチを防ぐ最大の鍵なのです。同時に、この取り組みを通じて、若手社員たちにも「一緒に働く仲間を選ぶ側」としての自覚と成長を期待しています。

ーー現在の日本の農業に対してはどのような課題を感じていますか。

藤本泰弘:
このままでは本当に「日本で食べるものがなくなるかもしれない」という強い危機感を抱いています。生産者の高齢化や後継者不足が進み、気候変動によるリスクも相まっているからです。20年後、30年後を見据えたときに、今の流通の仕組みのままでは日本の農業は立ち行かなくなります。だからこそ、私たちは生産者を守り、育成し、所得を向上させるパートナーシップを築かなければなりません。

たとえば、あるみかん農家と契約し、彼らがつくった青果を私たちが適正な価格で販売する仕組みをつくりました。その結果、生産者の利益が増え、「おかげで家が建った」と喜んでもらえたのです。私たちには、生産から加工、物流、直営店での販売までを一貫して手掛けられるという強みがあります。これを最大限に活かし、市場の相場に振り回されずに、生産者が自分でつくったものにしっかり値段をつけられる「生産者ファースト」の流通を確立することが急務だと考えています。

「利他の心」を体現する地域社会への貢献

ーー地域社会への支援活動についてはどのようなものがありますか。

藤本泰弘:
「本当に困っている人を助けたい」という思いから、5年以上にわたってフードバンクや子ども食堂への支援を毎日行っています。規格外でスーパーでは売れない生鮮野菜や果物を連携する外部企業とともに熊本県内の100箇所以上へお届けしています。多い日には段ボール20箱分にもなり、これは食品ロスの削減につながるだけでなく、地域の貧困問題に対する私たちなりのアクションだと考えています。また、スーパーがなくなってしまった地域へ赴き、買い物難民の方々に向けた移動販売も月に2回行っています。さらに、リタイアした生産者の耕作放棄地対策にも今後力を入れていく予定です。地域に根差す企業として、できる限りの貢献を続けていきたいと考えています。

ーー最後に、日本の農業を守るべく、今後の展望をお聞かせください。

藤本泰弘:
今後は、従来の枠組みにとらわれることなく、次世代の生産者とより強固なパートナーシップを結んでいく考えです。次世代が「農業を継ぎたい」と思えるように、生産者がしっかりと利益を得られる仕組みづくりを推進していくことが私の使命です。生産から加工、物流、販売までをワンストップで手掛ける強みを最大限に活かしていきたいと思います。耕作放棄地の再生や生産量の維持・拡大に取り組みながら、生産者の思いと声を直接消費者に届けていくことを目指しています。「本当に困っている人を助けたい」という利他の心を原動力に、地域のため、生産者のため、そして日本の食のインフラを守り抜くために行動します。流通の常識を根底から変え、生産者ファーストの次世代流通インフラを確立するという壮大な挑戦をこれからも続けていく決意です。

編集後記

最も心を打たれたのは、藤本社長の言葉の端々に宿る痛切な危機感と、それを打ち破ろうとする圧倒的な熱量だった。「このままでは日本で食べるものがなくなるかもしれない」という懸念は、決して悲観的なものではなく、未来を切り拓くための強い使命感に基づくアクションへと昇華されている。「本当に困っている人を助けたい」という揺るぎない利他の心を原動力に、地域のため、生産者のため、そして日本の食のインフラを守り抜くために流通の常識を根底から変えていく。一企業の枠を超えたその壮大な未来の展望に、非常に大きなワクワク感と希望を抱くことができた。

藤本泰弘/1975年熊本市生まれ。1998年に東海大学工学部を卒業後、同年に株式会社藤本物産へ入社。2008年、同社取締役に就任。2013年より現職。