
食品から半導体まで、幅広い産業の品質管理を根本から支える株式会社HIRANUMA。祖父が創業し、国産初の自動滴定装置やカールフィッシャー水分測定装置を生み出してきた歴史ある分析装置メーカーを率いる平沼和也氏。かつては音楽の道へ進み、派遣社員を経験して、単身イギリスへ渡るなど、独自のキャリアを歩んできた。そんな同氏が家業に戻った背景には、3つの明確な理由があった。分析機器の最前線でAI化を推進し、茨城から世界を見据える平沼氏に、組織マネジメントの真髄と未来の展望を聞いた。
真逆の環境で受けた「カルチャーショック」がマネジメントの原点
ーーまずは、これまでのキャリアについてお聞かせいただけますか。
平沼和也:
大学卒業後、大手メーカーへの勤務や派遣社員など多様な働き方を経験し、全く異なる社風に触れてきました。最初に入った大手メーカーのグループ会社では経営戦略室に配属され、真面目にひたむきに仕事へ向き合う実直な姿勢を学びました。グローバル企業として、信用や信頼を何よりも重んじる素晴らしい環境だったと感じています。
その後、昔から目指していた音楽の道へ進むため、時間を確保しようと派遣社員として別業界の企業に入ったのですが、そこで極端な違いを目の当たりにしました。その職場には「いかに楽をするか、効率化するかを考える」という教えがあったのです。「なぜこんな面倒なことをしているのか」と常に業務に疑問を持ち、工夫して効率よく進めることで仕事をスピーディーに終わらせるという考え方でした。服装などの自由度も含め、良い意味で非常に大きなカルチャーショックを受けましたね。
ーー前職でのカルチャーショックは、現在の組織づくりにどう影響していますか。
平沼和也:
「会社は万人受けする場所でなくていい」という考え方につながっています。「私たちはこの船で、こういう目的地を目指している。それに納得できる人だけ、同じ船に乗ってくれれば良い」という、明確なスタンスを持てるようになりました。全員に好かれようとするのではなく、会社のビジョンに共感し、足並みをそろえて突き進める仲間と働くことを重視しています。そのベースとなる価値観は、派遣社員時代の経験が形成してくれた要素が大きいですね。
音楽の道や海外生活を経て「HIRANUMA」に戻った3つの理由

ーー最終的に家業である貴社へ戻られた理由を教えてください。
平沼和也:
単身でのイギリス渡航など様々な経験を経て戻る決心をしたのですが、理由は大きく3つあります。1つ目は、長年熱中していた音楽に対する価値観の変化です。私にとって音楽を続けることの目的は「プロとして食べていくこと」ではなく、「自分の思いを発信すること」だと再定義したのです。プロにならなくてもYouTubeなどで発信はできるのだと気づき、そこで一つの区切りがつきました。
2つ目は、感謝と恩返しです。弊社は祖父が立ち上げ、父が守ってきた会社であり、その中で活躍してくれた諸先輩方が多くいらっしゃいます。ずっと自由に生きてきた私でしたが、心の片隅には常に「何かしらの形で恩返しをしなければならない」という思いがありました。それが入社を決意する原動力になりました。
そして3つ目が、自社の技術に対する「使命感」です。弊社は溶液の濃度を測る滴定装置や、その技術を応用した水分測定装置を開発しており、国産初の装置を2つも生み出した歴史を持っています。醤油の塩分濃度から電池材料の水分量まで、あらゆる品質管理の現場で使われている素晴らしい技術です。しかし、当時は海外への発信がほとんどできていませんでした。先輩方の思いが詰まったこの技術を、日本発の装置として世界に広める。それは日本企業としての使命だと強く感じたのです。
ーーその使命感のもとで描く、今後の目指す姿とはどのようなものでしょうか。
平沼和也:
3〜5年後の目標として、「茨城県の企業といえばHIRANUMA」だと誰もが思い浮かべるような魅力ある企業になることを掲げています。採用面でも、募集をかければ人が一気に集まる状態をつくりたいと考えており、入社してくれた全員が「ここに入れば自己成長できて幸せになれる」と思える組織を目指しています。極端な話、弊社が社員のキャリアの踏み台になっても良いのでは、とさえ考えています。「HIRANUMA出身者なら優秀だ」と他社から評価されるような会社になれたら最高ですね。
「どうせ同じ時間を過ごすなら楽しもう」 社長が説く仕事の信念
ーー事業面において実現したいことをお聞かせください。
平沼和也:
ビジョンとして掲げている「分析で悩まない世界」の実現です。分析は環境やサンプルの状態に左右される非常に繊細な作業です。それをゆくゆくはAIの支援を入れることで、測定を自動化し、例えばですがボタン一つで、または人の判断が入らずに全自動かつ正確な測定ができるようにしたいと考えています。
実は直近、社内でAI元年を宣言したばかりです。AI技術を装置やお客様の分析現場のサポートに活用し、誰もが安心して品質を担保できる世界をつくりたいです。
ーー最後に、仕事や人生において大切にされている信念を教えてください。
平沼和也:
入社式などの場でもよく社員に伝えているのですが、「どうせ同じ時間を過ごすなら、より良い時間を過ごし、楽しもう」という考えがあります。「疲れているから」「やる気がないから」と適当にやり過ごしても、過ぎ去った時間は絶対に戻ってきません。人生の貴重な時間を共有し、一緒に働くのであれば、本気で取り組んで楽しんだ方が絶対に良いはずです。もちろんまだまだ課題はありますが、それでも私と関わる社員たちにはそういうマインドを持って、充実した仕事と人生の時間を過ごしてほしいと願っています。
編集後記
音楽への情熱、正反対の組織風土でのカルチャーショック、そして直感に従い海を渡った行動力。一見遠回りにみえる歩みは、現在の「万人受けを狙わず自社の強みを信じ抜く」経営スタイルへとつながっている。「分析で悩まない世界をつくる」と語る一方、社員と共有する時間の価値を何よりも尊ぶ姿勢に確かな信念を感じた。独自の技術力とAIという新たな武器を手に、茨城から世界へと躍進する同社の飛躍が楽しみだ。

平沼和也/1985年3月17日生。東洋学園大学卒業。2007年4月、平沼産業株式会社(現株式会社HIRANUMA)に入社し、株式会社日立ハイテクフィールディングにて勤務1年半後、改めて音楽の道を目指すために同社を退職。自身の実力を試すべく、利害関係のない派遣会社に登録。2008年11月、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社に配属。2010年8月退職。2010年10月、中央職業能力開発協会配属。2013年3月退職。渡英後、同年10月に株式会社HIRANUMAに再入社。