
システム開発と独自のIT人材育成事業を展開するネクストライブ株式会社。同社の強みは、徹底して「現場のリアル」に即した超実践的な教育カリキュラムにある。その原点は、資本金10万円・未経験者の採用から事業を成り立たせざるを得なかった、創業期の愚直なサバイバル環境にあった。バンド活動や肉体労働を経てIT業界へ飛び込み、数々の逆境を乗り越えてきた代表取締役の狗巻雄介氏。現在、生成AIの台頭によってIT業界が劇的なゲームチェンジを迎える中、同社が提唱する「問いを立てる力」を持つエンジニア像とは何か。キャリアの軌跡と、次世代を見据えた事業戦略の全貌に迫る。
バンドマンからIT業界、そして起業へ 10万円で飛び込んだ「未知なる冒険」
ーー社会人として、初期はどのようなキャリアを歩まれていたのでしょうか。
狗巻雄介:
17歳からバンド活動をしながらガソリンスタンドで働き、その後もコールセンターや体力仕事など、さまざまな職を転々としていました。音楽の道を諦めた後は「これから何をすればいいのか」と途方に暮れる時期もありました。その後、誰かの役に立ちたいと福祉関係の道を志したのですが、いざ調べると、私には関連資格を受験するための要件すら満たせていない現実を突きつけられたのです。その道を断念せざるを得なくなったとき、資格の有無に縛られず、これからの将来性と可能性が広がっている業界として目に留まったのがITでした。そこで24歳のとき、小さなシステム開発会社に未経験で飛び込んだのがすべての始まりです。
ーー未経験のエンジニアから、どのようにして起業へ至ったのですか。
狗巻雄介:
入社後は、とにかくエンジニアとしての実力をつけることに必死でした。というのも、当時の業界では珍しくありませんでしたが、未経験にもかかわらず実力以上の架空の経歴で現場にアサインされました。当然、現場が求める技術レベルには到底及びません。「技術が全く追いつかない中で、どうにかして自分の存在価値を示し、仕事を成り立たせなければ」と、必死に周囲とコミュニケーションを取り、技術以外で自分にできる地道な仕事を探し回る、文字通り現場に「食らいつく」毎日でした。しかし、3年目のタイミングでリーマン・ショックに直面し、その影響で退職を余儀なくされます。職を失い、毎朝公園を走りながら「自分は一体何をしたいのか」と自問自答し続ける日々を過ごしました。そこで自分と向き合う中で湧き上がってきたのは、「せっかくなら、これまでの人生で経験したことのない新しい挑戦がしたい」という純粋な好奇心でした。当時の私にとって「会社をつくること」は、まったく未知の世界への冒険のようなものです。立派なビジョンも、資金もありません。しかし「やってみたらどうなるんだろう」という思いに突き動かされ、手元にあったわずか10万円を元手に起業を決意しました。
現場の課題から生まれた「答えを教えない」超実践教育

ーー創業当初は、具体的にどのような事業からスタートされたのでしょうか。
狗巻雄介:
企業のプロジェクトに技術者を参画させる、ITエンジニアの技術支援(SES)事業です。私自身がエンジニアとして現場に立ってきた経験がありましたから、まずは私自身がクライアントに技術力を提供する形でスタートしました。数年間は、私自身が複数の現場を掛け持ちしながら奔走する日々でした。その中で、お客様から「リソースが足りないから、もっと人がほしい」というお声をいただくようになり、自社で人を採用・教育し、現場の戦力としてアサインするサイクルを回し始めたのです。ただ、名もない小さな企業ですから、経験豊富なエンジニアの採用は困難です。必然的に、「意欲はあるけれど未経験」という若者を採用することになりました。
ーー未経験者を自社で育てる際、どのような工夫をされたのですか。
狗巻雄介:
当時の私たちには、多額のコストや時間をかけて手厚い研修を行う余裕はありません。だからこそ、本やインターネットで学べるような表面的な知識ではなく、「現場で仕事をするために本当に必要なノウハウ」を優先して教え込み、最短でエンジニアとして立ち上げる必要がありました。これが、現在の当社の教育事業の原点です。
ーー「現場で本当に必要なノウハウ」とは、具体的にどのような行動を指すのでしょうか。
狗巻雄介:
たとえば、「技術が足りなくても、自分ができる仕事を自ら拾いに行く姿勢」や、「わからないことを適切なタイミングで言語化し、周囲に質問できるか」といった、技術以前のコミュニケーション能力や課題解決の勘所です。こうした力を養うため、当時は基礎や文法を座学で教えるようなことはせず、とにかく実務での開発を題材にし、現場と全く同じ環境でシステムをつくり上げる超実践的な研修をしていました。その実践スタイルを体系化した現在の弊社の研修では、あえて「答えが欠落している仕様書」を渡し、受講生自らが講師とコミュニケーションを取りながら答えを導き出すプロセスを徹底させています。現場に出れば、わからないことだらけです。その壁に直面したとき、「どうすれば解決できるか」と主体的に思考を切り替えるマインドを、3カ月という短期間で養うためのあえて手のかかる教育を行っています。実際にこの研修の卒業生は現場で高く評価されており、未経験者であっても早期に戦力化できる点が私たちの最大の強みです。2020年からはこの実践的ノウハウを体系化し、採用や育成に悩む同業他社様へ「教育事業」としての提供を開始しています。
急成長を支える「自律型組織」の構築と、二律の評価制度
ーー組織が拡大期に入る中、社内の組織づくりにおいては何を意識されていますか。
狗巻雄介:
トップダウンの意思決定だけに依存しない、「自律的な組織」への進化です。会社がこれからさらなる成長フェーズへ突入するため、私一人ではなく、組織として意思決定を下せる人材の層を厚くする必要があります。その基盤として、今年度から人事評価制度を大きく刷新しました。最大の特徴は、エンジニア自身が「自分のキャリア観」に合わせて評価制度を選択できる点です。具体的には、個人のビジョンと会社のビジョンをすり合わせて互いの成長を目指す「成長制度」と、自身の能力や成果を透明性高くダイレクトに報酬へ反映させる「単価評価制度」の2つを用意しました。一人ひとりの「どう働きたいか」という意思を尊重し、多様なプロフェッショナルがモチベーション高く活躍できる環境をつくりたいと考えています。
AIによるゲームチェンジ 次世代を勝ち抜くエンジニアの条件
ーー最後に、長期的な視点でIT業界の未来と、御社が描くビジョンを教えてください。
狗巻雄介:
現在、AIの登場によってビジネスの在り方が急速に変化しており、特にIT業界は大きなゲームチェンジの真っ只中にあります。これまでシステム開発の現場ではプログラミングができる技術者が不足しているといわれてきましたが、AIの普及により、求められる人材の種類が根底から変わります。今後は、システムの全体像を描けるアーキテクチャの理解や、顧客のビジネスに踏み込むドメイン知識を持つエンジニアが極めて希少になります。そこに、AI駆動開発やLLM(大規模言語モデル)、インフラの知識といった複合的なスキルが求められる時代です。
ただコードが書けるだけの人は、生き残るのが難しくなるでしょう。だからこそ、私たちが創業から一貫して重視してきた「コミュニケーション能力」や「課題解決力」、そして何より「自ら問いを立てる力」が、これまで以上に重要になります。人間の本質的なビジネススキルと、最先端のAIスキル。この両方をしっかりと身につけ、次世代を勝ち抜いていくエンジニアを数多く育てていきたい。現場のリアルから愚直に立ち上がり、常に「超実践」にこだわってきた私たちネクストライブだからこそ、このAI時代に真に価値のある教育を提供できると確信しています。
編集後記
バンドマン、ガソリンスタンド店員から未経験でIT業界へ飛び込み、資本金10万円で起業。狗巻氏の経歴は異色だが、その言葉には「自らの腕で生き抜いてきた者」にしか語れない確かな重みがある。同社が展開する「答えを教えない教育」は、資金も時間もない創業期の極限状態から生み出されたサバイバル術そのものだ。そして今、AIという黒船がIT業界の常識を覆そうとしている中、同社が培ってきた「問いを立てる力」「課題解決力」の育成ノウハウは、時代が求める次世代エンジニアの必須要件と見事に合致している。現場のリアルから生まれた同社の教育事業は、AI時代を生き抜くための最強の羅針盤となるはずだ。

狗巻雄介/1983年、和歌山県出身。ITエンジニアとしてキャリアをスタート。SES企業にて複数の開発現場を経験後、リーマン・ショックを機に独立。2015年、ネクストライブ株式会社を創業。自社の人材育成経験から生まれた「超実践型・未経験エンジニア育成ノウハウ」を強みに、AI駆動開発やLLMを見据えた次世代エンジニアの育成事業、クラウドサービスの開発、SES事業、Webデザイン領域まで幅広く展開している。