
身の回りにある食品や薬からスマートフォンまで、私たちが日常的に手にする工業製品。その多くは、最終製品になるまでの過程で一度は「粉」という形態を経ていると言われ、その「粉」の製造工程には「粉粒体処理」という技術が使われている。この生活に欠かせない領域で、100年以上の歴史を持つのが株式会社奈良機械製作所だ。医薬品から石油化学製品まで業界を問わず、多種多様なニーズに応え続けている同社の強みは、確かな技術力と顧客の課題に徹底して向き合う姿勢にある。2023年、創業家以外からトップに就任した烝原健一氏は、新たな組織風土の構築にも注力する。営業担当者だけでなく、技術者も臨機応変に営業活動に携わり、国内外で飛躍を続ける同社の挑戦と次なる展望を烝原氏に聞いた。
創業家ではない社長が受け継ぐ「モノづくりに対する考え方」
ーーまずは、貴社に入社された経緯をお聞かせください。
烝原健一:
私は北海道の出身で、最初のキャリアは大手電機メーカーでの機械設計でした。その後、1993年に弊社へ入社しました。正直にお話しすると、当時は「北海道に帰りたい」という思いがあり、現地に事務所を構えていた弊社を選んだのが大きなきっかけです。入社して最初に感じたのは、前職の張り詰めた環境とは異なる「穏やかでアットホームな会社だな」という印象でした。自社の製品を自分たちで設計、製造し、販売するスタイルだからこそ、気持ちに余裕を持って仕事に取り組める環境だったのです。創業者がコミュニケーションを大切にし、社員を温かく迎え入れていた伝統があり、昔から社内恋愛や社内結婚が多いのも弊社の特徴です。
ーー2023年に100年企業を率いる立場となられた際の思いはいかがでしたか。
烝原健一:
私は創業家出身ではないため、同族経営特有のしがらみがありません。会社を一歩離れれば、頭を完全に切り替えられる側面があります。とはいえ、100年超の歴史を持つ企業を預かる身として、会社の成長を止めるわけにはいかないという強い責任感を持ってがむしゃらに走ってきました。社長に就任して、これからも絶対に「変えてはいけない」と確信していることがあります。それは「モノづくりに対する考え方」と、これまで築き上げてきたお客様からの信頼です。私が社長になったからといって、お客様からご指名いただく関係性を変えるつもりはありません。一方で、歴史に甘んじている部分や頑なな部分は、大胆に変革していく必要があると考えています。
赤字になっても「逃げない」 技術者が営業も担う組織の強み

ーー貴社の事業内容と、長く信頼を得られている理由をお聞かせいただけますか。
烝原健一:
弊社は原料を粉砕したり乾燥させたりする「粉粒体処理」の機械をつくっています。ニッチな領域の事業ですが、工業製品の多くが一度は粉の形態を経るため、世の中の多くの製品に関わります。弊社の強みは、医薬品から食品、石油化学製品まで「業界を問わない」対応力です。多種多様なお客様とお付き合いがあるため、特定の業界の不況に左右されにくいのです。
そして、お客様から信頼を得ている最大の理由は「逃げない」姿勢です。私たちの扱うプラント向け装置は、期待した能力が発揮できなかったり不具合が生じたりすることもあります。他社であれば途中で手を引いてしまうようなケースでも、弊社はたとえ赤字になってでも対応し、お客様の目的が達成できるまで徹底的にお付き合いします。製品を長くお使いいただけるよう最後まで責任を持つ。この姿勢こそが、100年以上続く信頼の源泉です。
ーー信頼を支える現場の方々は、お客様に対してどのような姿勢で向き合っていますか。
烝原健一:
弊社では「全員が営業」という意識を持っています。技術担当だからといって専門分野に固執することはありません。試運転などで現場へ赴いた際には、ただ作業をするだけでなく「この部分は部品を交換したほうがいいですよ」と自らお客様へ提案し、営業活動を行ってくれています。視野を広く持ち、何にでも関わっていこうとする姿勢が現場に根付いていることは、弊社の大きな強みです。
「困ったときの奈良機械」として海外展開と売上高100億円を目指す

ーー現場の意識を原動力とした、今後の海外展開や事業の展望をお聞かせください。
烝原健一:
弊社の装置はこれまでに世界40か国以上に納入されており、現在も世界中でお使いいただいています。アメリカやヨーロッパに向けては、環境問題に関連する最先端技術へのアプローチを強化しています。一方で中国市場では、弊社の汎用機に対する巨大なニーズがあり、そこをしっかりとターゲットに据えています。さらに今後は、アフリカやベトナムなどの新興国へもマーケット調査を進め、展開を広げていきたいと考えています。
私たちが目指す姿として明確に掲げているのが、「困ったときの奈良機械」です。お客様が困ったときに、一番に相談してもらえる関係性を築きたいと考えています。そのため社員には「カタログにない商品でも、私たちの基本技術でつくれそうならどんな話でも聞いてくるように」と伝えています。また、会社の目標として売上高100億円を掲げています。これは単なる目標としてではなく、常に売上高を上昇させていく企業風土をつくるためです。あえて言葉にすることで、全社的な目標として浸透させています。
ーー成長しつづけるために組織体制や採用で力を入れていることは何でしょうか。
烝原健一:
私自身は社長室を持たず、パソコンを持って社員と同じフロアで仕事をしています。また、トップダウンではなく、上の者が下の者を支えてその成長や力を引き出す「サーバント型リーダーシップ」の考えのもと、役職名で呼ぶこともやめました。物理的にも心理的にも距離をなくしてハードルを下げることで、20代の若手社員などがどんどん新しい意見を出しやすい環境をつくっています。
採用に関しては、周囲と積極的に関わり、広い視野を持って業務に取り組める方を求めています。専門スキルも大切ですが、それ以上に「好奇心旺盛でいろいろなことに挑戦したい」という方が弊社には合っています。自分の可能性に枠を設けない方が活躍できる環境です。100年の歴史はありますが、20代の若手社員が活気を持って楽しそうに働ける組織であり続けたいですね。▼ 採用情報はこちら
編集後記
「困ったときの奈良機械」。その言葉の裏には、目先の利益を度外視してでも顧客の課題解決に最後まで伴走するという、並々ならぬ覚悟が込められている。非同族社長としての身軽さを生かし、社員と同じフロアでフラットに語り合う烝原社長の姿からは、100年超の伝統に甘んじないベンチャー企業のような熱気と活気を感じた。技術者が自ら最前線に立ち、世界へと販路を広げる株式会社奈良機械製作所。これからも「逃げない」強さを武器に、国内外のあらゆる産業を根底から力強く支え続けていく。

烝原健一/1966年、北海道生まれ。北海道科学大学卒業。1993年に株式会社奈良機械製作所に入社。北海道サテライト医薬技術チームリーダー、本社エンジニアリング部部長兼品質管理部部長、役員などを歴任し、2023年に代表取締役社長に就任。入社以来一貫して機械設計に携わり、技術者としての視点を生かしながら、変化する顧客ニーズに応えるオーダーメイドのモノづくりを推進している。