
夜間短大での多様な出会い、食品問屋での地道な営業経験、そして父が経営する建設会社における借金完済。異色の経歴を持つ株式会社市川環境エンジニアリングの代表取締役社長を務める岩楯保氏は、創業者の急逝や組織再編という激動の中、「社員を守る」という強い覚悟で会社を牽引してきた。現在は約20数社を擁するテラレムグループの中核企業として、資源循環社会のインフラを支えながら、今後の大きな成長に向けて高い目標を見据える。次世代リーダーの育成や業務のデジタル化など、未来に向けた組織変革の裏側にある信念に迫った。
夜間短大から家業の再建へ 現場と数字に向き合った地道な原点
ーーまずは、これまでのご経歴をお聞かせください。
岩楯保:
多様な背景を持つ人々との交流を通じて、さまざまな価値観を学ぶため、高校卒業後は中央商科短期大学という夜間の学校へ進学しました。同校には働きながら学ぶ10代の学生から、私より40歳も年上の方まで多数在籍しており、年齢や立場の異なる人々と机を並べて交流した経験は、私にとって大きな財産です。そして卒業後は、学校の事務局からの勧めで食品問屋へ就職しました。
ーー食品問屋では、具体的にどのようなキャリアを歩まれましたか。
岩楯保:
事業の全体感と、資金の流れを肌で学ぶ10年間でした。当初は商品の電話手配や配送手配などの業務部門を担当し、その後は手書き伝票を業務用コンピューターへ移行する事務処理、そして営業と、幅広い職種を経験しました。扱っていた商品は主に業務用の砂糖や小麦粉です。薄利多売の事業であり、商品を大量に動かすことと、代金を確実に回収することが不可欠でした。「売って終わりではなく、資金を回収するまでが仕事である」という学びは、現在の経営基盤となっています。
ーーその後はどのような道へ進まれたのでしょうか。
岩楯保:
父が経営する建設会社へ入社しました。祖父が亡くなり相続のタイミングで、会社が厳しい経営状況にあるという実態を知ったのです。そこで「借金を返済したら辞めよう」と決意し、会社を立て直すために入社しました。その会社は、従業員約10名の小規模な組織であったため、自ら現場に出て職人と働きながら、経理や給与計算などの事務作業もすべて一人でこなしていました。赤字を解消し、借金を返済するために奔走した結果、6年がかりで無事に完済することができました。
激動の組織再編と「社員を守る」覚悟 圧倒的な顧客基盤という強み

ーーそこから、どのような経緯で貴社へ入社されたのですか。
岩楯保:
きっかけは、母方の叔父である創業者から声をかけられたことです。父の会社の借金返済が完了して会社を閉鎖した時期に叔父から誘いを受け、一度関連会社へ勤めた後に当社の業務部長として入社しました。「声をかけてもらったからには、創業者を支えて会社を盛り上げたい」という一心でした。
その後、業績が上向き始めていた約8年前に創業者が急逝したことを機に外部企業の支援を受け、現在のグループ体制へと移行していきました。従来の個人企業的な風土から、ガバナンスや法令遵守を重視する組織的な会社へと変わる大きな転換期でした。新型コロナウイルスの流行など困難も続きましたが、「亡くなった叔父に代わり、何としても社員と会社を守り抜く」という強い覚悟は、当時も今も揺るぎません。
ーー改めて、現在の事業内容と貴社ならではの強みについて教えてください。
岩楯保:
長年の実績による「圧倒的な知名度と安心感」、そして顧客層の広さが最大の強みです。当社は資源循環事業と施設維持管理事業を展開しており、売上高の主となるのがホテルやレジャー施設、オフィスなどの民間廃棄物の収集運搬で、次いで、自治体から受注した廃棄物の収集運搬です。さらに自治体が所有する廃棄物処理施設などの管理運転、道路や下水道の維持管理も手がけ、グループ会社が保有する資源循環施設の営業窓口としての役割も担っています。長い年月をかけて幅広いお客様との信頼関係を築き上げてきたことが、現在の堅固な基盤です。
リサイクル困難な廃棄物も燃料化 人を育て資源循環の未来をつくる
ーー今後の5年、10年を見据えた未来の展望をお聞かせいただけますか。
岩楯保:
テラレムグループの中核企業として率先して動き、5〜10年先の大きな成長に向けて高い目標を設定しています。ただ、この大きな目標を達成する鍵は、やはり「人」なんです。どれだけ立派な新しい処理施設を作ったとしても、実際に設備を動かし、次の時代に向けて会社を引っ張っていく人たちが育っていなければ会社の成長は止まってしまいます。
ーー次世代のリーダー育成に向けて、どのような取り組みをされていますか。
岩楯保:
現場経験の蓄積と、経営に必要な数字の理解促進を軸としています。社内外の各種研修に加え、グループ間での出向を通じて多様な現場を経験してもらっています。さらに、経営幹部候補には、損益計算書や貸借対照表などの経理・財務の知識を身につけさせています。経営数値が読めなければ、出向先の現状を正しく把握し、組織を正しい方向へ導くことはできないからです。
ーー業務のデジタル化やAI活用についてお聞かせください。
岩楯保:
一番の目的は、従業員の身体的負担を減らし、働きやすい環境を追求することです。一例として、ごみ収集車の内部を高圧洗浄する際、跳ね返る水しぶきで従業員が不快な思いをしないよう、全自動でごみ収集車の内部・外部を洗浄してくれる機械の導入をしました。
また、自社での配車システムを検討するほか、将来的な現場のDXとして、遠隔操作の導入も構想しています。先日、他社の事例で、空調の効いた室内からモニター越しにマウスを操作すると、現場のAIロボットアームがごみを分別してくれるシステムを拝見しました。夏場の熱中症対策などにも非常に有効ですので、ゆくゆくは当社でもそうした技術を取り入れ、体力に自信のない方でも安全で快適に働ける環境を作っていきたいと考えています。
このように、働きやすさは会社が技術やシステムでカバーしていくため、新たに仲間に加わっていただく方に特別なスキルや学歴は求めていません。それよりも、周囲と円滑に関われるコミュニケーション能力や、多少の困難があってもくよくよしない「元気で明るい」方に来ていただきたいですね。
ーー最後に、事業に対する思いについて聞かせていただけますか。
岩楯保:
創業者からの考えでもありますが、廃棄物を単に「処分」するのではなく、確実に「資源循環」させることが私たちの使命です。循環の基本は廃棄物を元の「原料」に戻すことですが、中には食品パッケージのような多層構造の複合プラスチックなど、リサイクルして原料に戻すのが非常に難しいものも多数存在します。そうしたものを無理に原料に戻そうとするのではなく、固形燃料などの「代替燃料」に変えることも、立派な資源循環の一つの形だと私は考えています。
一番は原料化を目指しつつ、原料に向かないものは燃料化して確実に循環させる。こうした「廃棄物を原料か燃料に変える」という本質を理解し、お客様にしっかりと提案・実行できる人材を育てていくことが、今後の当社、そしてグループ全体を牽引していく大きな力になると確信しています。
編集後記
夜間短大での学びに始まり、地道な営業経験や家業の借金返済など、岩楯社長の歩んできた道のりは決して平坦なものではない。しかし、当時の厳しい環境での経験が「社員を守る」という強固な覚悟を育て、現場や数字を的確に把握する経営の基盤となっている。技術活用による働きやすさの追求と、リサイクル困難な廃棄物を燃料化する柔軟な発想。そして何より「人がすべて」と言い切る姿勢に、テラレムグループの中核企業として資源循環の未来を切り拓く強いエネルギーを感じた。

岩楯保/1962年7月1日生まれ。中央商科短期大学卒業後、日本橋の食品問屋での勤務を経て、実父が経営する建設会社の再建に尽力。同社の経営立て直しと借金完済を見届けた後、2007年4月に株式会社市川環境エンジニアリングへ入社。業務部長や役員を歴任し、2023年7月に代表取締役社長に就任した。業界の発展に多大なる貢献を残した創業者(母方の叔父)・石井邦夫氏の遺志を継ぎ、現在は千葉県産業資源循環協会や全国産業資源循環連合会などの協会・組合活動にも注力。業界全体の底上げとさらなる発展に向けて奔走している。