
大学2年生という早い段階で起業し、23歳頃にはM&Aも活用して一気に20店舗規模まで事業を急拡大させた経験を持つ株式会社ファンネクストグループの代表取締役、岸本雄太氏。しかし、当時は売上高の拡大ばかりを意識する経営の限界に直面した。26歳で現在のグループの基盤となる会社を新たにスタートさせてからは「誇れる事業と仲間づくり」へと価値観を大きく転換させ、現在はターゲット層の異なる美容サロン2ブランドと美容・医療に特化したクリエイティブ事業を展開。技術至上主義に陥りがちな美容業界において徹底した空間づくりと接客体験に投資する妥協のないブランド戦略は、大手商業施設からの出店オファーや新卒市場での圧倒的な人気に結びついている。これまでの葛藤、そして志を同じくする「1,000人の仲間」とともに目指す未来図について、岸本氏に思いを聞いた。
「売上高至上主義」からの転換 葛藤が教えてくれた“本当に誇れる会社”の姿
ーーまずは、起業された経緯について教えていただけますか。
岸本雄太:
もともと中高生の頃から何かを企画したり主催することが好きで、自らリーダーシップを発揮して大きな挑戦をしたいという思いを抱いていました。そこで高校卒業後はすぐに起業したいと考えていたものの、資金がなかったため、準備を整えた大学2年次に仲間と学生ベンチャーを創業しました。
最初は人材系のビジネスからスタートし、下請けの仕事を中心に行っていました。しかし、このままでは先が見えないと感じていた創業2年目の頃、友人の母親が自宅でエステサロンを運営しているのを見て、これからの可能性を感じたのです。学生のBtoBビジネスでは企業間の信頼構築が難しかったのに対し、お客様に直接サービスを提供して感動していただければ、次もまた来店していただける。そんなBtoC領域のフェアな環境に魅力を感じ、美容サロン事業へと大きく舵を切りました。その後は企業買収を活用し、23歳頃には一気に20店舗規模にまで事業を拡大させました。しかし、当時の私は上場や売上の拡大ばかりを意識しており、いわば「アクセルしかない経営」に陥っていました。そこで、自分自身の経営のあり方や本当にやりたい事業を見つめ直すため、25歳のときに一度、当時の事業から離れることになりました。
ーーその経験を経て、ご自身の価値観はどのように変化しましたか。
岸本雄太:
26歳で現在のグループの基盤となる会社を立ち上げて新たにスタートを切った際に、改めて自分がどんな会社をつくりたいのかを深く自問自答しました。その中で、「売上高や利益も大切だが、お客様を感動させられるような誇れる事業をすること」、そして「一人ひとりが主役としてスポットライトが当たる、温かい仲間づくりをすること」へと価値観を大きく転換させたのです。
しかし、新たな価値観のもとで組織の規模が増えた頃、今度は離職率の壁に直面しました。一生懸命採用を強化して環境を整えたはずなのに、わずか1年でメンバーが大きく入れ替わってしまい、悔しさと悲しさから号泣したこともありました。そこから「どんな仲間と本当に仕事をしていきたいのか」を問い直し、採用基準や理念を根本から見直して組織の基盤を築き上げていったのです。その結果、100名の壁を越え、離職率も大幅に改善しました。
「技術は良くて当たり前」 空間と体験に投資する妥協なきブランド戦略

ーー改めて、現在の事業内容や強みについてお聞かせください。
岸本雄太:
現在私たちは3つの事業会社に分かれており、各グループ会社にて美容ブランドの運営やクリエイティブ全般の事業を行っています。具体的にはミドルアッパー層向けの「アンジェリカミッシェル」と20代向けの「VENUS BELT」というターゲット層の異なる2つのアイラッシュ・ネイルサロン、そして美容・医療業界に特化したクリエイティブ事業を展開中です。
私たちの最大の強みは「技術は良くて当たり前」とし、お客様の心が動くような接客や空間体験に徹底的に投資する「妥協のないブランドづくり」にあります。美容業界はどうしても技術中心になりがちですが、お客様が再来店する本質的な理由は、スタッフの心遣いや店舗の空間デザインなど、心地よい体験そのものにあると考えているからです。
ーー妥協のないブランドづくりは、出店や採用にどのような影響をもたらしていますか。
岸本雄太:
安易な多店舗展開の近道は避け、直営店にしっかりと投資して一店舗ごとの価値を最高級のブランドに磨き上げることにこだわっています。この姿勢を貫いた結果、現在では大手商業施設から直接出店オファーをいただけるまでになりました。また、採用面でも新卒採用において10名程度の枠に対して100名以上のエントリーが殺到するほどに人気を獲得しており、絶大な効果が出ています。「ここで働きたい」と思ってもらえる世界観をしっかりとつくり上げられたことは、私たちの大きな自信になっています。
ピラミッドではなく「円」の組織 AI活用で人間本来の価値を最大化する
ーーこれからの業務効率化や組織づくりについてはどのようにお考えですか。
岸本雄太:
今後はAIやDXなどのデジタル技術の積極的な活用により、業務の自動化を進めていきます。広告運用や媒体管理などの細かな業務をデジタルで効率化し、技術者がお客様と直接向き合う時間を最大化させることが目的です。また、組織運営においては、従来のトップダウンからチーム経営へと移行を進めています。年齢や社歴にかかわらずチャレンジしたい20代の若手メンバーを積極的に抜擢できる環境を、さらに整えていく方針です。
ーー最後に、貴社が目指す未来図をお聞かせいただけますか。
岸本雄太:
一番の目標は「同じベクトルを持つ1,000人の仲間」を集め、ともに誇れる仕事をすることです。私は組織をピラミッドではなく「円」だと捉えています。売上高や利益を上げることは、それ自体が目的ではありません。しっかりと利益を出して社員に還元し、皆が活躍できる環境をつくる。そうすることで新たな仲間が集まり、結果としてこの「円」がさらに大きくなっていく。つまり、売上高や利益は、組織という「円」を拡大していくための手段だと考えています。
私自身、これまでたくさんの失敗を経験してきました。だからこそ、社員には失敗を恐れず、安心して挑戦してほしいのです。失敗をただの失敗で終わらせず、自分の大切な経験として語れる温かい会社を、これからもみんなでつくり続けていきたいと思います。
編集後記
「売上高は、仲間とともに誇れる仕事をするための手段である」。かつて、拡大の波の中で一度はアクセルを踏み続けるだけの経営に葛藤した岸本社長だからこそ、その言葉にはきれいごとではない、深く静かな説得力が宿っていた。安易な多店舗展開に頼らず、一店舗あたりの体験価値を極限まで高めるという「徹底した投資」を貫く。この姿勢こそが、結果として一流の商業施設を惹きつけ、感度の高い若者たちを魅了する独自のブランド力へと昇華しているのだと強く実感させられた。テクノロジーでスマートに業務を効率化しながらも、本質にある「人の温もりや絆」を何よりも重んじるファンネクストグループ。彼らが1,000人の仲間と描いていく強固な「円」の未来は、どこまでも温かく、そして力強い。

岸本雄太/1985年、東京都生まれ。早稲田大学在学中の大学2年次に学生ベンチャーを創業。2012年に株式会社ネクストリンクを設立し、代表取締役に就任。2024年には株式会社ファンネクストグループを設立し、ホールディングス体制への移行を推進。創業以来、事業拡大と組織成長を牽引している。